14.最高のプレゼント
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部屋の扉を閉めるとエマはまず、燭台に火をともしてまわることにしました。
手紙に、
『壁にはいくつかくぼみがあり、そこに燭台が備えられている』
と書かれていたのです。
壁に沿って、右回りにゆっくりとくぼみを探して歩きました。
最初のくぼみは、目の高さくらいのところにすぐに見つかりました。
そこに置かれた三枝の燭台に火をともすと、ふっと炎が揺れて、部屋の闇がわずかに退きました。けれども、まだ奥まではよく見えません。
胸を弾ませながら、次のくぼみを探してさらに歩を進めました。
ワクワクとドキドキが重なり合って、心臓が今にもはじけそうでした。
プレゼントが何かも、まだ知りません。
でも、もう秘密の部屋だけでも十分でした。
二つ目の燭台を見つけ火をともしたところで、ぼんやりと部屋の様子が分かってきました。
ワインセラーの倍くらいの広さで、壁のあちこちに仕込まれた小さな反射鏡がロウソクの光を受け、チラチラと輝いていました。
どこかに空気を入れ替える穴があるのでしょう、炎はわずかに揺れながら幻想的な影を壁に映していました。
そのまま壁沿いに、三つ目の燭台を探して歩き出した時、やはり目の高さあたりのところに、額縁が掛かっているのに気が付きました。
(なにかしら?)
手にしていた燭台をそっと額縁に近づけ、次の瞬間、息を呑みました。
そこには、懐かしい大好きな笑顔が、優しくエマを見下ろしていたのです。
「お母さん……」
すべての燭台に火をともすと、部屋は暖かな光に満たされ、涙に濡れたエマの頬は黄金色に輝きました。
ミザリーが来てから取り外された絵や、見たことがなかったお母さんの、まだ少女の面影があった頃の絵も掛けられていたのです。
エマはそれまで、取り外された絵がどうなってしまったのか知りませんでした。
もし捨てられてしまっていたらと思うと、怖くて聞けなかったのです。
最高のプレゼントでした。
何も無い部屋でしたが、エマにとっては何物にも変えがたい、宝の部屋になったのです。
そんな中、部屋の片隅にひっそりと置かれたものが目を引きました。
マホガニー製の大きな長持ちが置かれていたのです。
それは、エマがスッポリと横になって入れるくらいの大きさがありました。
エマは、一通り絵を眺め終えたあと、その長持ちの前にかがみ込みました。
蓋に手をかけて引き上げると、そこにはなんと、お母さんが身につけていたドレスやきらびやかな装飾品が、綺麗なままで残されていたのです。
絵の中で着ているものや、付けている装飾品もありました。
エマの小さな体は喜びに震えました。
危うく、大きな声まで上げてしまうところでした。
泣いたり笑ったり、自分がちょっと可笑しくなってしまったのではないかしらと思いました。
何より嬉しかったのは、お母さんの付けていたものだろう香水の香りが、まだほんのりと残っていたことです。
「いい匂い!」
心にいるお母さんの姿に、素敵な香りが加わったのです。
夜が明けて、皆が起き出す時刻ギリギリまで、エマはずっとそこにいました。




