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パラレル邪馬大国/セア・テア  作者: 三井咲也
日の巫女と黄金の神樹
8/12

8話 特訓開始!


 いよいよ、実戦練習の時がやって来た!

 天気は晴れ……いや、曇り! だが心は晴れ晴れ!!

 かつて邪馬大国で、中二病をこじらせていた弟を「哀愁漂う視線」で見守っていたワレじゃが、この世界ではその妄想が現実になるという! つまり、この異世界において中二病とは「病」ではなく「ただの予習」に過ぎないのじゃ! ワクワクが止まらん!


 いや……! 待つのじゃ! ここで「実は魔法が使えませんでした」なんてオチがついたら、このワクワクは無意味なものになる……!

 実際にワレにも使えると判明してからこのワクワクを解放すればよい!そうじゃろ?もう一人のワレの身体や知能を司る感情のワレの本体の……ぃや!ワクワクしすぎて語彙力決壊じゃ……!!


 待て待て落ち着けワレ!これが落ち着いていないというのじゃ!

 

 深呼吸……!大事じゃ!………………………………………


 ―――恥ずかしいが妄想で一度だけ言って見たいセリフがあるのじゃ。聞いてくれるかの?


 ◇


 ~ヒミコの世直し成敗物語・序~

 時は戦国。邪馬大国と日ノ本が列島を二分して争う激動の時代。

 天下の覇者を決める最後の大戦――場所は関ヶ原。

 百万対百万。実力も人数も拮抗! 果たして勝利を手にするのはどちらなのか?

 殺伐とした空気が列島を覆う中、一人の少女がとある甘味処に現れた。

 赤い布が敷かれた茶屋特有のオシャンティな椅子に腰掛け、少女は店主に告げる。


 「店主、お茶とお団子を頼む。あぁ……もちろん団子は三色の奴で」


 待つ間、小鳥のさえずりが贅沢なBGMとなって刻を繋いでくれる。


 「お待たせいたしました」


 運ばれてきたのは、春の陽気よりも熱い湯気を立てるお茶と、桃・白・緑の完璧な円を描く三色団子。相反する苦味と甘味。少女はまず、団子を口に含んだ。


 「うまし」


 咀嚼するごとに広がる糖分に、脳細胞が歓喜の声を上げる。


 『緊急通報! 糖分検知! 欲しい部署は挙手せよ!』

 『はい内臓!』『腕も欲しい!』『こちら足!!!本体が歩きすぎて限界です!』


 身体中の細胞が挙手するその喜びこそが、「おいしい」という感情の正体。続いて、アツアツのお茶を啜る。


 「アチチッ……ズズッ。うむ、にがし。じゃがその苦みもまた、いとおかしんのすけ」


 『……苦み検知。……理解不能。本体のネーミングセンス、及び発言の寒さを検知……スリープモードへ移行します……』


 これがリラックスとなるのだ。

 身も心も穏やかになった少女は、席を立つ。


 「店主、馳走になった」

 「ありがとうございます。ですが旅の方、この先は天下分け目の大戦の真っ最中。行かない方がいいですよ」


 不安げな店主に対し、少女はニヤリと不敵に笑う。


 「ほう? その噂では、今どちらが優勢か?」

 「日ノ本が圧倒的だと聞いております。邪馬大国はもはや……」


 「ふむ、ではそろそろ盤上をひっくり返しに行くか」

 「……は?」

 「このワレ、大魔法使いヒミコ様が出陣すると言ったのじゃよ。店主、お主は安心してこのまま商売を続けるがよい」

 「ま、ま、まさか本物!? ぎょぎょえー! ハッははー!!(平伏)」

 「カッーカッカッカッカ!!」

 

 ……………………

 ……………

 ………

 …



 ◇


 「……こやつは一体、何をしておるのだ?」

 「分かりません……。」


 訓練場に着いてからというもの、ニヤニヤしたかと思えば真顔で頬を叩き、再びニヤニヤしながら「カカッ!」と笑う。そして最終的に「うん、いいのぉー」と呟きながら地べたでゴロゴロし始めたヒミコを見て、ガル爺とマリアは困惑の極みにいた。


 「突然すまぬな、ヴァレル訓練隊長」

 「はっ!」


 現れたのは、戦闘のスペシャリスト・ヴァレル。白髪混じりだが、その肉体は過去の激戦を生き抜いた猛者特有の威圧感を放っていた。


 「この……寝転がって砂まみれになっている少女が、例の?」

 「信じたくないだろうが、そうだ。ヒミコ、起きろ。特訓を始めるぞ」

 「ん? おぉ! 遂にか!」


 「よっこらせんべえ」と、誰にもウケない独り言を呟きながら立ち上がるヒミコ。

 見かねたマリアが「もぅ」と背中の砂を払ってやる。その光景に、ガル爺とヴァレルは目を見開いた。内気なマリアが、出会ったばかりの人族にこれほど自発的に世話を焼くなど、かつてなかったことだ。


 「おぉ、ありがとうマリー!」

 「ヒミコ、地べたで転がるなら前だけでなく背中の汚れも気にすべきです」

 「なるほど……真理じゃな」


  ミストガルは会話の内容で若干腑に落ちない点がいくつかあったが、今日の所は見逃すことにした。


 「初めましてヒミコ様。私はヴァレルと申します。兵士全ての訓練を統括する訓練長をしております」

 「おぉ!?ワレは邪馬大国の姫ヒミコじゃ!にしてもまた急に現れおったな!エルフは皆転移とやらで移動するのが普通なのか?」

 「いえ、普通に歩いて来ました」

 「……なるほど…忍びの才がある訳か」


  ウンウンとアホ毛と頭を連動させながら頷き一人納得する。

 それを何故か懐かしむように見つめるヴァレルに疑問を浮かべる 

 

 「懐かしいですね」

 「なんじゃ?」

 「それは忍者という職業の方を言うのでしょう?昔ナギ様にも同じことを言われたことがあります」

 「父上が?」

 

 ヴァレルは転移魔法を使えない。

 転移を使えるのはエルフ全体でも一割に満たないのだ。現在分かっている条件は光と風の上位精霊による複合魔法によって発動出来るという事だけ。多大な魔力を消費する高等技術なのだが、それをケロリとこなしていたガレットが実は超エリートであることに、ヒミコはまだ気づいていない。それに隊長だとも知らない。


 既にヒミコの中でガレットは気の良い近所の姉ちゃん枠に収まっている。


 「なんでエルフってのは転移で急に現れるんだと怒られましてね、私は転移を使えないと言うと、「忍びなら先言えよ!」と良く分からない事を言われた事があります。私の契約している地精霊の特徴で、地に触れている間は足音が消えるという特徴があり、ヒミコ様が勘違いしたのもそういう事だと思います」


 「なるほどのー」


 「さて、いいか?講義を始めよう。マリア、見本を見せなさい」

 「はい。……シルフィ、お願いします。【ウインド】!」


 マリアが指差した先で、砂が渦を巻いて舞い上がる。目に見えない風が「形」として可視化されるその光景に、ヒミコは改めて異世界の実感を得た。


 「おぉー!(パチパチパチ)」

 「あ、いえ、そんな拍手するほどでは……ヒミコもすぐに出来ますから」


 新鮮な反応に、マリアが少し照れくさそうに頬を染める。


 「ではヒミコ。魔法を放つ前に必要な工程がある。それが【魔力循環】じゃ」

 「魔力循環? 血液を回すようなものか?」

 「近いな。この世界の魔力とは、大気中に存在する空気のようなものだ。消費すれば勝手に吸収されるが、そのままでは『不純物』が混じっておる。二酸化炭素や窒素などの余計な気体と同じじゃな」


 ガル爺の説明は、意外にも論理的だった。


 「不純物が混じったまま精霊に渡すと、魔法は不発に終わる。それどころか、『魔力酔い』という乗り物酔いに似た状態に陥るのじゃ。さらに重要なのは『濃度』。魔力器官に圧縮された魔力を、全身に巡らせて『均一』にせねばならん」


 「つまり……原液で飲めんカル〇スみたいなものか?」

 「知らん」

 「ふむ……」


 「……薄めて整えるという意味では正解じゃ。不純物を取り除き、濃度を適正にする。魔法の威力は、基本、この循環の精度で決まると言っても過言ではない」


 だが、ガル爺の声が少し低くなった。


 「注意点が一つ。最初から全力でやろうとすれば、魔力が暴走して制御不能になる。そうなれば【魔力欠乏】を引き起こし、最悪は死ぬぞ」

 「死ぬの!?」

 「うむ。意識を失って倒れた時に、打ち所が悪ければな」

 「……死因が不慮の事故すぎるのじゃ……」

 

 ヒミコの期待と緊張が入り混じる中、ついに「異世界魔法デビュー」の幕が上がろうとしていた。

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