7話 根源
この世界おいて「魔法」とは一括りにされがちであるだが、種族ごとに発動に伴う魔法の根源が違う。
全種族共通しているのは自身に内包された魔力を対価に使用するという事だが、それは発動における1つのプロセスに過ぎない。皆無意識に使用しているだけで根本の所で違うと多くの者は理解していないだろう。
ではなぜ根源が違うと言い切れるかと言うと、この世界の種族が別々の神々によって産み落とされたからに他ならない。
・エルフ:【精霊神マキュア】を母体とする、自然界との対話。
・人族:【人神ツクニシ】が与えた、限界無き適応力。
・ドワーフ:【鍛冶神ユミルバ】が授けた、物質に対する干渉。
・獣人:【獣神ガルバサーガ】が刻んだ、野生への奔流。
:魔族:【魔神テラス】が刻んだ、漆黒の深淵。
それぞれの発動メカニズムは、驚くほど個性的で、かつ排他的だ。
獣人族
彼らは主に「身体能力強化」を得意とし、魔力を直接筋力や神経、更には動体視力へと変換し、野生の力を爆発させる。
もちろん全てではない。エルフやドワーフのような単一種族ではない彼らの中には属性魔法を使用できる者や、逆に獣人の特徴があるだけで何もできない者も存在する。
対してドワーフ族は魔力を体外に放出して「形」にするのが極端に苦手な種族だ。
そこで彼らはその属性を武器に閉じ込めると言う事を編み出した。
閉じ込めることによって、武器が属性を持つようになる。
例えばファイヤアローと言う弓矢は文字通りその矢に火属性が付与されているのだが。魔力を込めるだけで、火を纏った矢が誰でも簡単に射出できるようになる。
そう言ったモノづくりが得意なドワーフ製の武器は世界中に人気があり高値で取引されている。
魔族
彼らは魔力を対価にするのは共通だと思われる。
「思われる?」
「そうだ」
「分からんのか?禍々しいビームを放ったり隕石を降らせたりするのではないのか?相場はそうじゃろ」
ワレの問いにガル爺は以外にも腕を組んで深く首を振った。
「お主の世界に魔族はおらんじゃろ。魔族は他種族との交流を拒んでいるからな。ずっとこの大陸の海を渡った極寒の大陸に籠っている。奴らの魔法は観測例が少なすぎてな。謎が多いのじゃ」
エルフ族
彼らが使用するのは精霊魔法といい、生まれた当初はみな魔法が使えない。
年齢を重ねていくうちに。ソコに存在する親和性が高い精霊たちと自身で契約を行い、魔力を対価に精霊に魔法を行使して貰う。
ヒミコの脳内で「外注」という文字が浮かび上がった。が、口にしないだけの分別は16歳になって獲得した。
そして契約した時点で精霊は、基本的にその契約主にしか力を貸さない。だが、契約主が大きな怪我で身動きが出来ない場合、付近にいるエルフに一時的に力を貸して主を守らせる「例外」も存在する。
「へーというかじゃの。そんな事言われても現実味が沸かんぞ?何度も言ったがその精霊とやらを見せてくれんかの?」
「初めて言われたが?はぁ。まぁ良い……シルフ出てきてくれるか?」
『りょうかーい』
ガル爺が虚空に向かって声を掛けると、ふわりと髪を揺らす程度の心地よい風が巻き起こった。
光の粒子を纏いながら現れたのは30センチ程の緑髪の男の子だ。
『こんにちワッショイ!』
無邪気な笑顔でガル爺の肩に立ち、くるりと一回転。どこから出したのか、とんがり帽子を脱いでペコリとお辞儀をする。
「おぉ!?すげー!本当に出て来た!これが精霊かー!」
口をあんぐり開けながらその男の子を目で追いかける。
「こやつはシルフ。風の『上位精霊』じゃ」
「上位精霊?精霊にランクがあるのか?」
「そうだ。マリア、比較するためシルフィを頼む」
「はいお爺様。……シルフィ?出てきてくれますか?」
そう言うとマリアは手のひらを前面に出した。
『ウン!』
――が、次の瞬間。
「おぉっ!アヴァッばぱが!!」
シルフィが現れると同時に、無駄に威力の高い突風を巻き起こし、その風に煽られた机の上の分厚い教科書が、回避不可の速度でワレの顔面に直撃した。
【ズゴンッ!】という鈍い効果音と共に、椅子ごと後ろにひっくり返る。
「シルフィ!?姿を現す時は風を巻き起こさないで欲しいと以前言いましたよ!?」
『ダッテソノホウガカッコイイジャン!』
「そうかもしてませんが、怪我をさせてしまったらどう責任をとるのですか?いえ、もう怪我をしているのですが」
『ウゥー……ゴメンナサイ』
「謝るのは私にではありません。分かりますよね?」
『ウン……』
未だ立ち上がれずに後頭部と鼻を抑えながら涙目を浮かべるヒミコ。
そこへしょんぼりとしながら近づいて行く小さな精霊。
『ゴメンナサァイ……』
「きっ気にしなくていいのだ……幼女相手に怒る程ワレは器が小さくねぇのだ!じゃがまぁあれじゃな?ガル爺とマリーの精霊は同じ精霊なのじゃろ?なんか違うな、大きさもそうじゃし、喋り方?もこのマリーの方はなんか片言というのか?」
「そうだ。マリアの契約しているのは風の『中位精霊』だ。そしてそれが先程言ったクラスの差、契約してからの年月も関係している」
精霊は契約したエルフ以外に基本的に力を貸すことが無くなると言ったが、代価として日々一定の魔力をエルフからもらい受ける。その魔力が一定のラインを超え更に一定の条件を満たした時、精霊はより上位の精霊へと進化する。
見た目も上位の精霊の方が見てわかるように大きさから違い、喋り方も知能も大きく異なる。
「ついでに最上位精霊を見せてやろう。――ルクシス」
『あぁ』
ミストガルが呟くと、教室の空気が一変した。眩い光と共に現れたのは、端正な顔立ちをした青年姿の精霊だった。上位であるシルフよりも遥かに大きく、ワレよりも少し小さい程度。歩くだけで飛行機雲のように光の残像が引かれていく。
「こやつは光の最上位精霊ルクシスだ。ルクシス、あのヒミコの怪我を頼めるか?」
『了解した』
ルクシスがワレの前に膝をつく。その瞳は澄み渡り、深い知性が垣間見えた。
『人族の子よ、少し眩しくなる、目を閉じてくれ。――ヒール』
柔らかな光が全身を包み込み。細胞の一つ一つが温かい何かで満たされて行くような感覚。
光が消えると同時に、女子らしからぬ速さで自身の身体をペタペタとまさぐりまくる。
「おっおっ!?痛みが消えたのじゃ!たんこぶもねぇ!?鼻も痛くねえのだ!?これが精霊魔法という奴か!」
最上位精霊となると、威力も癒しの力も格段に上がる。そして知能も見た目も明らかに変わる。ミストガルは「怪我を頼めるか?」と言ってルクシスは自分の判断でミストガルから治せる最低限で最大値の効果を発揮する量の魔力を貰い、ヒールを発動した。
逆にマリアが呼び出した中位精霊であるシルフィは知能的には10歳程度の子供であり自身で判断することは難しい。契約し共に過ごしていくことで大人へと成長していくという感覚に近い。
「まぁなんとなくでも魔法については理解してくれたら今日の所はそれでいい。一度にいっぺんに説明してもこの世界に来たばかりのお主にはなかなか難しいだろうしな」
「おぉ」
「そして最後に人族じゃが」
「いよっ待ってましたのじゃ」
人族はエルフと似て生まれた時は何もない状態で生まれる。ただエルフと違い精霊と契約するというのが無い彼らは何故魔法を使用する事が出来るかというと
「人族はエルフと違い精霊との契約は出来ない。冒頭にも言ったが、神が違うからな。彼らの場合は魔物を倒すことによって経験値という特殊なエネルギーを獲得する」
「経験値?まるでRPGじゃ」
「ナギも言ってたな……まぁ恐らくそれだろう。魔物を倒すと我々では見えない光の粒子みたいなものが倒した者たちに吸い込まれる。それを一定数獲得すると人族は突然魔法を使えるようになるのだ」
「はぁ?なんじゃそれは?見えないのに分かるのか?」
「正確には精霊には視えている」
「はぇーそうなのか?」
そう言ってシルフィに顔を向けた
『ウン!ナンカマブシイノガバッ!ッテシルフィにハイッテキタ!』
「はぇー」
ミストガルが言うには、エルフが魔物を倒すと契約した精霊に。
人族が倒すと直接人族の中にその経験値が吸い込まれていくと言う。生まれながら個体ごとに潜在的に備わっている属性を経験値によって解放していくのが人間、倒す事によって精霊をより上位の存在へと進化させていくのがエルフらしい。
「ではワレもその魔物とやらを倒せば魔法が使えるのか?」
「恐らくな」
「……そうか。ワレの内に秘められた真なる力が遂に解放してしまうのか……夢が広がるのぉ」




