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パラレル邪馬大国/セア・テア  作者: 三井咲也
日の巫女と黄金の神樹
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5話 生き方


 会談を終え、「外が見たい」と伝えたら、護衛兼案内役としてガレットを貸してくれた。

 廊下に出て二人きりになった瞬間、ワレはとりあえず言っておいた。

 「……裏切り者め」

 「……なにが?」

 「フッ」

 鼻で笑って完全無視してやった。牢屋であんなにツンツンしておったクセに、実は良い奴だったなんて、ワレへのドッキリがすぎるではないか。

 ガレットを先頭に移動を開始したのじゃが――。

 ……。

 …………。

 ………………zzz。

 「いや、階段長すぎじゃろ!!」

 螺旋階段を延々と降り続けること15分。ワレの膝が笑い始めた頃にようやく叫んだ。

 「建物の中ってこんなに降りられるものか!? 奈落まで続いておるのか!?」

 「あはは、私も普段はここ使わないからね……。改めて歩くと長いわね。引くわ」

 「……お主、普段はどうやって出入りしておるんじゃ?」

 「ん? 魔法よ、魔法。転移魔法」

 「おぉ! さっきヨルヴァンが見せたようなやつか! 使ってくれ、見たいのじゃ!」

 「あ、出口に着いたわ」


 揉みくちゃの取っ組み合いが始まった。


 ◇

 神樹ウラノス。


 先ほどまで中にいたその大樹は、もはや「木」という概念を超越していた。

 直径百メートルはあるであろう幹は、太古の巨人が残した遺跡のように堂々と大地に根を下ろし、その上部は雲を突き抜け、天空の向こう側へと消えている。


 見上げれば、幾千、幾万もの枝が天を覆う網のように広がっていた。

 一枚一枚が馬の鞍ほどもある大きな葉が、風に揺れるたびにサワサワと巨大な波音を立て、隙間から差し込む光が、地上の世界を万華鏡のように彩っている。



 「ワレがいたの木の中じゃったのかー、まんま御伽噺……いや、実話話しよ。もう納得したわ」

 「ハァ…ハァ……執拗に耳ばかり攻めてきて……ねぇ行儀が悪いわよ。起きなさい?」

 

 見上げるのに疲れたヒミコは仰向けに寝そべり空を見上げていた。ガレットが手を伸ばして来たので仕方なくその手を取り起き上がる。ついでに耳をさわさわするのを忘れない。


 ウラノスは周囲よりも若干小高い場所に位置し、入り口からも街並み180度を見渡すことが出来る。

 物理的に巨大な大樹のせいで見る事が出来ないのだがガレットが言うに反対側は大きな崖になっておりその崖から下は広大な大森林で埋め尽くされており、危険な魔物とやらで溢れているという。


 ちなみに牢屋があった場所はその崖の下であり、仮に他国からの密偵やエルフに不利益を起こすような存在だと発覚した場合はそこから放逐されるらしい。

 すなわち放逐された瞬間に魔物達の格好の餌となる。だがヒミコはいくつかの疑問が思い浮かぶ。

 

 「崖の下?ワレは普通に階段を上がってそのまま客室に行った記憶があるのじゃが?」


 「それは自動転移装置があるからよ。あなたは運が良かったわね。あんな喧嘩腰で突っかかってくるから、てっきり暗殺者か何かかと思ったわ」


 「……カカッ! ワレの覇気に気圧されたか」

 「笑い事じゃないわよ、全く」


 ガレットは呆れ顔で歩き出す。並木道には、見覚えのある淡い桃色の花が咲き乱れていた。

 

 「……おぉ? あれは桜か。綺麗じゃのぅ」

 「人族の街みたいに騒がしい娯楽はないけれど、精霊と自然がある。それが私たちの首都よ」


 エルフは自然を愛し、人工物を嫌う。切り拓くのではなく、寄り添う。

 そんな話を聞きながら歩いていると、ヒミコはあることに気づいた。


  ヒミコが居た邪馬大国首都天照(てんしょう)は綺麗に区画整理され、工業地・商業地・住宅地等に分けられており、地方から毎日のように人が訪れごった返しているのだが。。。


 「……首都とは?」

 「だから言ったでしょ?人族からすれば特に何もないって」


 対してここは比べると地方のど田舎のような感想を抱いた。

 人工的に手入れされた場所はウラノスの入り口にあった石畳の階段と並木道。後はエルフ達が住む家や許可された他種族の行商人が偶に訪れる用の宿泊施設がある位だとガレットは言う。

  

 「あれでしょ?人族のように、雑貨屋・飲み屋とか遊ぶ場所だったりそういうのがあると思ったのでしょ?」

 「そうじゃ、ないの――」

 「ないわ」

 「そんな食い気味で返さなくてもよかろうが」


 人間と見た目は似ておっても、考え方や感性と言うのはまったく違う。

 彼女にそれを否定する気は全くないが。シティガール(?)のヒミコにとっては少し退屈だ。



 「そういえば、子供を全く見んが?」

 「この時間は学び舎ね、ウラノスの中にあるの。と言っても出来たのはお二人が来てからで、昔はそんなものなかったの」

 「ほう?」

 「ナミ様――あなたのお母様が作ったのよ。『子供に教育を受けさせないなんて、ミストガル、お前の白髭を引きちぎってやりましょうか?』ってね」


 ……。


 父上と喧嘩している時の母上の口調とそっくりじゃ。


 「だから初代校長はナミ様。最初は苦労したみたいだけど、今ではエルフの伝統ね。……あぁ、あと中央にある『温泉』はナギ様が作ったの」

 「温泉があるのか!?」

 「ええ。探し始めて5分で掘り当てたそうよ。今や私たちの生活に欠かせない癒やしスポットね、ウラノスの内部にも引っ張ってあるから、後で入りましょう?」


 母上が教育を、父上が娯楽を。

 御伽噺には書かれていなかった両親の足跡が、この国のあちこちに息づいている。

 

 「のぅガレット。さっきからエルフたちがワレを見るたびに頭を下げてくるのじゃが。……ワレのカリスマ性がバレたか?」

 「自意識過剰ね。女王様が魔法で国中に伝達したのよ。『救世主のご息女が来たから、捕まえたり食べたりしないように』って」

 「食べたり!?」

 「冗談よ。……さて、転移魔法で部屋まで帰る?」

 「おぉ! 帰るのじゃ!」


 ガレットに強く手を握られ、地面に幾何学模様の光が走る。

 視界が歪んだと思った次の瞬間、ワレの視界は石畳の並木道から、柔らかな琥珀色の光に包まれた室内へと切り替わった。


 そこは、一言で言えば「木の中の空洞」であった。

 だが、単に洞穴を掘ったのとはわけが違う。床も壁も天井も、継ぎ目が一つもないのだ。


 「……ほう、これはまた、温かみのある部屋じゃのぅ」


 足裏に伝わるのは、冷たい石でも硬い板張りでもない。磨き抜かれた大樹の肌の、吸い付くような滑らかさと弾力。


 壁からは、ウラノス自身の枝が意志を持っているかのように緩やかに伸び、それがそのまま机や椅子、棚の形を成している。まるで木が「ここに座れ」と言っているかのようだ。


 「驚くのはまだ早いわよ。ほら、窓」


 ガレットが指差した先には、分厚い木の壁にポッカリと開いた円形の窓があった。

 ガラスなど嵌まっていない。だが、そこには透明な水の膜のようなものが張られており、外の心地よい風と緑の香りは通すが、虫や雨は遮断するのだという。

 そこからは、夕暮れに染まり始めたエフィリアの街並みが、まるで絵画のように切り取られて見えた。

 部屋の隅には、大きな葉を幾重にも重ねたようなふかふかのベッドが鎮座している。

 天井からは、ランタンの代わりに発光する小さな花のつぼみがぶら下がり、室内を夕陽のような優しいオレンジ色で満たしていた。


 「……人工的な贅沢は何もないが、贅沢じゃな」


 木の香りに包まれていると、不思議と心が落ち着いていく。

 ワレはそのまま、木の根が隆起してできたソファーに身を投げ出し、此処に来て初めての「自分の居場所」を深く、深く噛みしめた。


 「……ところでガレット」

 「なに?」

 「お主、いくつなのじゃ?」

 「……女同士でもそれは禁句。あと、セルフィ将軍には死んでも聞かないこと。いいわね?」


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