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パラレル邪馬大国/セア・テア  作者: 三井咲也
再会の陽だまりと、動き出す刻
27/41

27話 咆哮


 「のうガレット。ワレはいい方法を思いついたぞ」

 「……一応、聞くだけは聞いてあげましょうか」


 鼻息荒く、ドヤ顔で立ち上がったヒミコだったが、勢い余って馬車の天井に頭をぶつけた。「イテテテ」と蹲りながらも、屈んだ姿勢のまま御車席の隣へと移動してくる。


 「お主、動物とコミュニケーションがとれるのじゃろう? ならば話を聞けばよいではないか。この先に、一体どんな不届き者が潜んでおるのかをな」

 「だから、その『動物』の気配が全くないと言ったのよ。はい、却下」

 「おるではないか、ここに」


 ヒミコがビシッと指差したのは、ガレットの肩に平然と止まっているハヤテだった。


 「あっ」

 「ピッ?」


 灯台下暗し。ガレットはハヤテと視線を合わせ、小さく頷いた。


 「いい? ハヤテ。上空から、この先にどんな魔物が潜んでいるか見てきて欲しいの。お願いできる?」

 「ピッ!」


 窓から弾丸のように飛び出すハヤテ。その頼もしい背中を見送り、一行は馬車を止めてしばらく待機することになった。そして数分後――。


 「ピッ、ピピピッ! ピィ!」


 戻ってきたハヤテは、翼を激しく動かし、身振り手振りで一生懸命に状況を伝えてくる。だが。


 「……全然わかんね」


 ヒミコには一ミリも伝わらなかった。一方、ガレットとマリアにはなんとなくニュアンスが通じたようで、二人は深刻な顔で顔を見合わせる。


 「……やっぱり、危険な魔物がいるみたいね」

 「そうですね。かなり強力な気配だそうです」


 その言葉を聞いた瞬間、ヒミコは悟った。

 最初にガレットが「危険な魔物が潜んでるかも」と言い、結局ハヤテが持ち帰った答えも「危険な魔物がいる」

 ――え、わざわざ確認しに行く必要あった? 特徴の一つ(蜘蛛っぽいとか猪っぽいとか)でも分かればまだしも、答えが同じならこの無駄な待機時間は何だったのか。


 (……意味ねぇのだ)

 心の中で毒づくヒミコの背後では、待機命令にビビり散らかした猫族たちが、「ま、魔物ニャスか!?」「これだけ待たせるとは、きっと伝説級のヤバい奴ニャ!」「「「ニャ”ーー!!」」」と、余計な恐怖を増幅させて喚き散らしていた。


 「んーこんな感じかなー?って、ん?わわっ」


 いつの間にか後ろの馬車にいた猫族達がこちらに来てミナトの周辺で丸まってびくびく震えている。


 「……のう、いっそ迂回すればよいのではないか?」


 ヒミコが至極真っ当な提案をしたが、ガレットは首を横に振った。

 「ここを直進すれば後、数時間で平野部に出られるわ。でも、今から戻って迂回ルートを通るとなれば、さらに二日は余計にかかるわよ」

 「それは……だるいのぅ」

 「でしょう? だから、このままゆっくり慎重に進みましょう。マリア様、よろしいですね?」

 「ええ、準備はできています」

 「ルルーニャ殿も、いいわね?」

 「わっ、分かったニャス……! 」

 「ヒミコ、あんたは――いざとなったら、弟君を全力で守りなさいよ」

 「分かっておる。ワレに任せておくのじゃ」


 



 「お前らだけズルいニャス……」


 後ろの馬車から、一人哀愁漂うルルーニャの愚痴が風に乗って聞こえてくる。一方、こちらの馬車はルルーニャの部下達が隅っこに丸まっており、絶賛室内温度上昇中であった。

 そんな愚痴を背景に、警戒しながらゆっくりと進み続けると、やがて目の前に巨木が倒れたような大きな障害物が現れた。だが、近づくにつれてそれが植物ではないことが露わになる。


 「イビルボアの死骸ね……。それも、かなり新しいわ」

 

 ガレットが眉をひそめて呟く。一方で、ヒミコはその巨大な肉の山を見つめ、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 「のう、あれは焼いたら食えるのか?」

 「もったいないね姉さん。干し肉にしたら、かなりの量になりそうじゃない?」

 「カカッ! さすがは我が弟よ。お姉ちゃんも全く同意見である!」


 人族姉弟のすっとんきょんな発言を、ガレットは完全無視で切り捨てた。彼女の神経は今、周囲の殺気に極限まで集中している。

 代わりに、マリアが困り顔で教えてくれた。


 「ええ、人族の方は好んで食べるようですよ。あとは人族の街にある『冒険者ギルド』という場所へ持ち込めば、皮や牙などを買い取ってくれるそうです」

 「「おおおおおっ!!」」


 その瞬間、二人の周囲がパァッと明るくなった気がした。

 それは夢や希望、そして未知なる世界への高揚感。邪馬大国には存在しなかった、冒険者という響き。是非行ってみたい――。

 そんなキラキラした妄想を抱いたのも束の間、馬車がガタッと音を立てて停止した。


 「……どうしましたか、ガレット」

 「――います。すぐそこに」


 ガレットの鋭い声が引き金となったのか。

 大気を震わせ、鼓膜を突き破らんばかりの強烈な雄叫びが、森全体を支配した。


 「―――ゥガアアアアア―――――!!!!!!!!」

 あまりの衝撃に、馬車の中では「ニャ、ニャアアアアア!」と猫族たちが折り重なってパニックに陥る。

 

 

 ドシンッ、ドシンッ、と。

 大地を揺らす衝撃は、こちらへ近づくにつれて、内臓を直接揺さぶるような重低音へと変わっていく。

 ミナトはこの世界に来て初めて遭遇する本物の魔物に、顔を強張らせていた。

 

 「……っ、何これ、うるさいんだけど……!」


 耳を抑えて身を縮めるのは、人族の少年として至極真っ当な反応だ。

 だが。かつてアサシンスパイダーに殺されかけた経験があるはずのヒミコは、新調した旅装束の裾を払いながら、欠伸混じりにこう言い放った。

 「まったく、やかましいことこの上ないのダックスフンド」

 

 (っ……こいつ)

 あまりに余裕しゃくしゃくな態度に、ガレットの額にピキリと青筋が浮かんだ。

 恐らくヒミコは、姫様や自分がなんとかするだろうと高みの見物を決め込んでいるに違いない。

 ガレットはこの咆哮と足音から、魔物の正体に大体の当たりをつけていた。

 恐らく自分一人でも対処できる相手だ。だが、ヒミコの慢心をへし折る絶好のチャンスを逃すほど、ガレットの性格は丸くない。


 「……まずいわね。これは相当に危険な魔物よ。もう、私たちだけでは助からないかもしれないわ」


 わざとらしく、沈痛な面持ちでガレットが呟く。


 「……え? ガレッ――」


 驚いて声を上げようとしたミナトだったが、隣に座るマリアがそっとその手を制した。


 「姫様」


 ガレットの視線がマリアに向けられる。

 マリアもまた、ヒミコが以前ひとりで森へ出て死にかけた話は聞いている。大切な友達がこれ以上、異世界を甘く見て命を落とすことがあってはならない。嘘は本意ではないが、ここはガレットの意図を汲み、教育的指導に乗ることにした。


 「そうですね……。この禍々しい咆哮、そして大地を砕く足音。今の私たちには、荷が重すぎる相手かもしれません」


 「「「「終りニ”ャー!!!」」」」


 慈愛に満ちたマリアまでが加担し、絶望的な空気を演じ始めた。猫族達には本当に申し訳ないが。少し付き合って貰う事にした。


 「……え、マジか? お主ら二人が揃ってお手上げなど、そんなことがあるのか……?」

 ヒミコの顔から、ようやく余裕が消え失せ、代わりに冷や汗が流れ始めた。




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