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パラレル邪馬大国/セア・テア  作者: 三井咲也
再会の陽だまりと、動き出す刻
25/41

25話 再会

 

 「えっ……? そうだけど。……あれ? 姉さん……?」


 少年は、まだ幼さの残る顔を左右に振り、キョロキョロと周囲を見渡した。

 焚き火の明かりに照らされたその髪は、夜の闇に溶けそうなほど透き通った銀髪。瞳は深い海のような青色。ヒミコとは色のコントラストこそ対照的だが、スッと通った鼻筋や輪郭のラインは、誰が見ても一目で姉弟だと確信させるほどによく似ていた。


 「おぉ、おぉ、おぉ……おぉぉぉお――っ!! ミナトじゃ! 間違いなくミナトじゃねえか! マジか、これが召喚か! カカッ、やりおった、ワレはやったぞ!」

 「わっ、ちょっと、何!? 何なの……!?」


 感激のあまり理性が消し飛んだヒミコは、座り込んでいたミナトに猛烈な勢いで飛びついた。そのまま抱きしめ、弟の綺麗な銀髪をぐちゃぐちゃになるまでわしゃわしゃと掻き回す。

 そして、たまらなくなったように夜空を仰ぎ、獣のような雄叫びを上げた。


 「「「「ニ、ニャ、ニャーーーッス!!(何が出たニャスー!?)」」」」

 

 驚いたのは猫族たちだ。

 巨大魚が出てくると思っていた彼らにとって、光の中から現れたパジャマ姿の人間は、未知の怪物よりも恐ろしい存在に見えたらしい。猫たちが、まるで毛玉のように折り重なって隅っこで震えている。


 「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよヒミコ! 離してあげなさい!」


 ガレットが慌てて割って入り、暴走するヒミコを引き剥がそうとする。


 「そうですよヒミコ、彼が困惑しています。一体何が起きたのか、説明をお願いできますか?」


 マリアもまた、驚きで目を丸くしながらも、おびえるミナトを庇うようにして跪いた。

 ヒミコに解放され、ようやく呼吸を整えたミナトは、そこで初めて姉以外の異形たちの存在に気づいた。

 耳の長い美しい女性二人。

 隅っこで震える直立歩行の猫たち。

 そして、頭上の小鳥から放たれる、元の世界には存在し得ない神秘的な光。


 「……さっきまで自分の部屋で寝てたはずなんだけど――」


 呆然と呟くミナト。だが、その言葉の途中でヒミコの視線はある一点に釘付けになった。


 「――おい、ちょっと待てミナト。……お前、その手に持っておるものは一体なんじゃ」

 「えっ? 何って……ああ、これ? ナイトキャップだけど」


 ミナトが掲げたのは、パジャマとお揃いのゼブラ柄のナイトキャップだった。

 それを見た瞬間、ヒミコの額に青筋が浮かぶ。


 「……なんでお前だけ持ってこれておるんじゃぁーーーっ!」

 「ええっ!? 何、痛い、姉さん痛い! ふぁが――っ!?」


 ワレは身ひとつで、転移したというのに!

 理不尽な格差への怒りをぶつけるように、ヒミコはミナトの両頬をムニムニと力任せに引っ張った。


 「ちょっとヒミコ、落ち着きなさいってば! 弟くんがかわいそうでしょ!」


 ガレットに羽交い締めにされ、ようやくヒミコの私怨による制裁が止まった。

 


 ◇


 その後、ひとまず熱いスープ(鍋の余った出汁)を飲ませて落ち着かせたところで、マリアが代表して現状を説明することになった。


 「ええっと……。ということは何? ここは御伽噺にあるような異世界で、この人たちはエルフっていう種族なの? いや、さすがに……。うーん、やっぱりこれ、質の悪い夢じゃない?」

 「すみません、ミナトさん。……残念ながら、ここは夢の世界ではありません」

 

 マリアは困ったように微笑みながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 物質世界である地球と隣り合わせに存在する、半物質世界であること。そして、ヒミコが約三ヶ月前にこの世界に迷い込み、現在は旅の途中であること。


 「三ヶ月……? 旅……?」


 マリアの説明を反芻していたミナトが、突然、弾かれたように顔を上げた。


 「え、何を言ってるの? だって姉さん。さっき一緒に夕食を食べてたじゃん」


 「「「…………え?」」」


 焚き火の爆ぜる音だけが、静まり返った夜の森に響いた。

 ガレットとマリア、そして猫族たちが一斉にヒミコへと視線を向ける。


 「バカを申せ。ワレは、今日まで……確かな月日をこの世界で過ごしてきたのじゃぞ?」

 「ピィ」

 ヒミコの声が、困惑に微かに震える。

 三ヶ月という確かな記憶を持つ姉と、さっきという直近の現実を持つ弟。

 二つの世界の時計の針は、恐ろしいほどの速度差で回っていた。


 あまりに噛み合わない時間軸に、焚き火を囲む四人の思考は真っ白に凍りついた。もしミナトの言うことが真実ならば、この世界でヒミコが積み上げてきた日々は一体何だったのか。あるいは、故郷である邪馬大国で何かが起きているのか。

 重苦しい沈黙が場を支配する。そんな中、おずおずと、しかしどこか能天気に手を挙げる影が一匹。


 「……ニャース。あの、とりあえずよく分からにゃいニャスが」


 ルルーニャだった。

 彼は耳をぴこぴこと動かし、困惑するヒミコやエルフたちを見渡して言葉を継ぐ。


 「ここまで来た以上、まずはミルナスに行くしかないニャス。あそこにはエルフの連絡係がいるはずニャスよね? そこでとりあえず、このミナト殿の件を報告して判断を仰ぐのはどうニャすか? 立ち止まっていても、お腹が空くだけニャスよ」

 「……っ、ええ、ええ……そうね! そうだわ。考えても答えが出ないことを悩んでも仕方ないもの。マリア様、それでよろしいでしょうか?」


 ルルーニャの現実的な意見に、ガレットが弾かれたように我に返った。

 マリアも深く息を吐き、混乱を飲み込むようにして静かに頷く。


 「はい、異論はありません。……ヒミコ、あなたもそれで良いですか?」

 「…………。……まぁ、そうじゃの。ここで唸っておっても、腹が膨れるわけでもないしの」


 ヒミコは、ミナトの肩をポンと叩いた。

 その手は温かく、三ヶ月間この世界で生き抜いてきた「実体」がそこにはあった。時間は狂っているかもしれないが、目の前にいる弟が本物であることだけは疑いようがない。


 「カカッ! 案ずるなミナト。何が起きておるかは知らんが、ワレの側におれば安心じゃ。とりあえず、寝巻きのままでは寒かろう。ワレの羽織を貸してやる」

 「……ありがとう、姉さん。なんだかよく分からないけど……」

 ゼブラ柄のパジャマの上に、ヒミコの重厚な上着を羽織ったミナトが、少しだけ安心したように微笑む。

 こうして、一行は姉弟を連れ、夜明けと共にミルナスへと向かうことを決めたのだった。



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