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パラレル邪馬大国/セア・テア  作者: 三井咲也
日の巫女と黄金の神樹
2/12

2話 肉が無い

 


 「女王陛下、人族の女を領土内で捕らえました」

 「ん?そう。でも人族が領土に侵入して来る事など良くある事よね?わざわざ報告して来るという事は何か問題でもあったのかしら?アンテフォーテ将軍」


 ミスティス・ラ・セレヴィーテ

 精霊の集う場所(スピリットキングダム)通称=エルフ国の女王。

 齢70を超えるが人間に例えると未だ25歳前後の見た目にしか見えないのは種族による所。

 天光の当たり所では輝きさえ垣間見せるその背中まで伸ばした絹のようで滑らかなプラチナブロンドと、エルフにとってシンボルカラーである翡翠色と高貴なライラックを重ねたドレスを身に纏う姿は元から美女である彼女を更に昇華させる。

 普段から優しげでおっとりとした口調である彼女であるが、エルフの誰もが彼女を唯一の女王であると心から認めているのは、父である前王の娘だからという理由だけでは無い。

 

 エルフ族というのは男女共に顔が整っている。だがそれはあくまで他種族から見ればという前提がつくが、当人のエルフ達にとってはそれぞれ違って見えており、何より内面重視の種族のため、正直外見の美醜等どうでも良かったりするのが他種族との大きな違いだろう。


 見た目は耳が長いというだけで他の部分は人族や一部の獣人族とそう大差が無い。

 そしてエルフ族の平均寿命は200年と長く、150歳前後までは老う事はない、それゆえに近年再び(・・)人族の奴隷商人たちから標的にされているのはここ最近の女王の悩みの種である。


 エルフを襲い、攫おうモノならその場で発見次第処理(・・)しているのだが、一向に減る気配が無い。それどころかむしろ最近は微増傾向にある。


 身体能力で比較すれば、人族を圧倒するので早々被害に遭う事は無いのだが子供だとさすがに危険が伴う。


 そんな中でも人族が治める一部の近隣国と国交は結んでいる、ミルナス王国とは良好な関係を維持しているが、東のアーシス国とは薄っぺらい関係。

 今回、女王が頭を悩ませていた原因であるアーシスにクレームを入れた所だが、改善の気配が一向に見られる気配は無い。その理由は理解できる(・・・・・)し形だけ抗議をしただけで女王は大事にするつもりは無かった。


 偽装魔法が使える密偵を送り込んで探らせているが、関わっている極一部の貴族達の名前等は既に判明している。そしてその元凶である本丸も。

 昔の出来事も時が経てば忘れ去られてしまい、また再び同じ過ちを辿ろうとするのか?女王は報告書に目を通しながら部下に気づかれぬよう心の中でため息をついた。


 「はっその人族は16歳の少女であり、あの邪馬大国にいた(・・)と言っております。ヨゼフの心眼(・・)をもって確認していたのですが反応せず、更にエルフという種族は現実には存在しない御伽噺に出てくる種族だと言ってるのです」


 「………ん?」


 入室し顔を見合わせて以降視線を落とし、ずっと紙とにらめっこしていたミスティスであったが、優先順位が切り替わり手元の書類を机に置く。そして将軍に顔を向け話を聞く体制に入った。


 女王はいつも話しを聞いていない訳では無い。書類を見ながらでも2つまでなら物事を同時進行で進める事が出来る能力を持っている。魔法とかそういう訳では無く只々昔から得意なだけで、女王になってからこの能力を持っている事に精霊神に感謝した。


 その事を知っている彼女は普段とは違う行動を起こした女王に若干ながら動揺を起こしてしまったが持ち前の気力で気を引き締め直した。


 セルフィ・アンテフォーテ

 このスピリットキングダムにおける全ての兵士を統括する将軍である。

 ちなみその上に大将軍と言う地位があるのだが、これは昔、大戦が起こった際に指揮官が足りず、急遽作られた。そしてその地位に就いていたのが女王の父である先代国王である。


 大戦が終わった後も地位を返上することはせず、現在は名ばかりの名誉職として扱われており、実質のトップは女王の前に立つ人物である。

 

 森に溶け込めるようにダークグリーン調に染め上げたレザーアーマーを体のラインに上下統一するように着合わせ、足元はロングブーツ。全体をタイトめに仕上げているが、それでも身体の動きを妨げないように魔物から取れた革を丁寧になめし、俊敏に動きやすいようにしている。

 インナーのバイオレットパフスリーブがレザーアーマーで覆いきれなかった部分をカバーし、その外見から除く肌は顔や手、後は腰や胸元の極一部分で露出している部分は全体の1割にも満たない。

 

 しなやかで筋肉質な彼女の肉体がそのタイトなレザーからでも見てとれ、さらに首元のハイカラーが全体をミステリアスな雰囲気に纏め上げる。


 基本的に兵士は同じ格好なのだが彼女だけは特別に胸の辺りににスピリットキングダムの国章であるルミナスという鳥の絵が描かれており。一目で彼女が将軍だと分かるようになっている。


 他種族から見たら彼女も例にもれず絶世の美人。

 長い金髪であるその髪を無造作にサイドに流し、顔周りをスッキリと後ろに流し固定している姿はワイルドさを醸し出しており。キツめの女性好きにはドストライクなこと請け合いだろう。

 年齢は女王より1回り、いや、2回りは上だろうか?先代国王の頃から将軍の任についている彼女に年齢を尋ねる事が禁句なのは配下達とって周知の事実。

 

 「続けて」

 「……はっ!人族の少女を発見した兵士たちに確認すると、ウェンデの泉にて寝ている所を発見。何度も起こそうとしたのですがテコでも起き――いえ、正確にはあまりに幸せそうな表情で寝ていたので仕方なくそのまま連れて来たそうです」

 「……」


 この世界においてエルフを知らないなどあり得ない。

 女王の中で仮にエルフが軍を率いて何か行動を起こそうものならすぐに周辺国家が動き出す。それぐらい力においては上位に位置する存在。だと認識している。自負している。


 しかしヨゼフの【心眼】は本物だ。これは光の精霊の力を借り、対象者が嘘を言おうものならすぐに知らせてくれるのだ。

 エルフの中でも精霊と相性というのが存在する。その中でもヨゼフは光の精霊との親和性が非常に高く、その能力は先代国王から『信頼に値する』との折り紙付き。


 他の人物でも使えない事は無いが、精霊たちは気まぐれでイタズラ好きだ。

 相性があまり良くないと、人の言葉で例えるなら『嘘かもねぇ~』と実際の所ホントか嘘か全く分からない事を伝えてくるので使い物にならないのだ。


 つまるところ、状況を察するに、あの邪馬大国から再び(・・)何者かがやって来た事になる。


 「……あなたが尋問したの?」

 「はっ」

 「なぜ?将軍のあなたが」

 

 普通将軍直々に敵勢勢力を捕えたからと言って尋問することはありえない。ヨゼフのような審議を判定する尋問官が当たり前にいるからだ。それなのに将軍直々に尋問に参加したことに女王が疑問を持つことは当然の事である。


 「牢屋に運び込んでいる所を目撃していたのですが。彼女の肩にルミナスが乗っていた(・・・・・)のです」


 「……そう。本当に邪馬大国から来たと言ったのね?ちなみに両親の名は聞いた?」


 「はっ少女の両親の名は――」


 ◇


 「あぁーそろそろお昼じゃなかろうか?」


 あれから質問をされ続けたのじゃが、その質問に答えて行く度に兵士達から出会った時の刺々しさが和らいでいくのを肌で感じた。

 ワレからも質問したのじゃがあ奴ら自分たちの事をエルフと自称していた、ここがエルフの国とも。

 ふっ。思わず鼻で笑いそうになったのじゃがどうもあの表情。そして耳を見ていると。あれ?マジなんじゃね?と思ったりした。まあ今の所半信半疑といった所じゃな。50/50よ。


 というかじゃな。実際の所、何もしてないんじゃからさっさと出して欲しい所なのだが「すまないがもうしばらく待ってくれ」と言われた以上割とどうしようも無い。

 ふざけるな!と怒って格子をパンチしたら突き指した。今度からパンチする時は親指をちゃんと内側にしまおうと思った。後、泣きそうになったが我慢した。


 牢屋の中から差し込む光量は決して多いとは言えない。日中でも曇り以下の日は真っ暗間違い無しじゃなぁーと、その小さな窓をぼーっと見つめ続けた。


 人間余裕が生まれると次に生まれるのは欲求なのじゃ。



 「腹減ったのぅ」


 ◇

  

 「……将軍」

 セルフィが執務室から出ると、ヒミコを尋問していた時、同じくその場にいたもう一人の女性が通路の脇に控えていた。


 ガレット・スファニス

 身分は隊長。将軍の1つ下の位に位置する。エルフ国家においての身分は大将軍・将軍・隊長・副隊長・一般兵士と分けられる。その他細かい振り分けはあるが。基本的にはこのような序列となる。


 その中で隊長という位は4人おり、彼女もまたスピリットキングダムにおいて身分の高い人物になる。

 兵装はセルフィと似ているが。髪色はグレーに近いブルーアッシュが特徴的であり金髪が大部分を占めるエルフの中でもそう多くはいない。

  

 「檻から出す。午後に女王陛下自ら会うそうだ」

 「まさか……!それはまた……急ですね」

 「ははっ秘書官の青ざめた顔は見物だったぞ、急に予定を変えるなんてとな。ヨゼフの心眼も全て真実、そして何よりあの国(・・・)からやって来たと言ったのだ、しかも王族。ほぼ間違いないだろうが女王自ら早急に確認したいと言っている」

 「確か将軍は実際に【セイバー(救世主)】のお2人にお会いした事あるんですよね?実際あの少女を見てどう思いました?」


 「……最初は分からなかったな。だが話を聞いていく内に喋り方なんてそっくりだと思った。フッそれにあの自然と煽ってくる感じがまた。あの目あの髪色。まぁ親から見事に受け継いでるだろうよ」


 通路を優しく照らす窓に近づきフッと微笑を浮かべるセルフィ、当時の記憶を眼下の街並みに投影しているのだろうか?ガレットには判断がつかなかった。当時任務により他国に赴いていたガレットは残念ながら2人に会った事は無いが、あの時は自身の任務に死に物狂いで達成するのに精一杯であった。


 帰還した時、セイバーの尊顔を拝眼出来ると思ったが、残念ながら国に到着する前日にお帰りになられたと聞いた時は、非常に落ち込んだものである。


 「おっと、そろそろ行くか。隊長、お前も付いてこい」

 「はっ」


 

 エルフと言うのは耳が良い、遮蔽物があってもそれなりに遠くの声が聴こえる。

 ここを曲がれば檻にたどり着く、そんな時聞こえる声に2人は困惑と呆れの織り交ぜな表情を浮かべた。


 「りんご、5個は食べたい、イカ、かじりつきたい、石焼き芋、食べたい、糸こんにゃく………美味さがわからん。。。んがー!1人しりとりしても腹は膨れんのじゃ!よう分からんこんな事になるのじゃったら寝る前ポッケに飴ちゃんでも入れとけば良かったのじゃぁ!いゃ。。。まぁもはやどうでもええかぁあああああああぁぁ……というか大体ワレが何したってんじゃああああああああ!!ハラ減っ……ちゃあああああ……………!ん?あいやそこな看守。そのポッケを裏返してみよ」


 牢の中では人族の少女が奇声を上げながらゴロゴロと転げまわっている。

 かと思えばガバッと起き上がり看守の鼻先に【ズバーン!!】と指を突き付けた。

 「ほれほれ、そのポッケちゃんの中を見せてみぃ飴玉の一つでも隠し持っておるんじゃろ!ワレの目は誤魔化せんのじゃ!」と看守に変な要求をし始める少女。



 目の前で繰り広げられる地獄のような光景に、セルフィとガレットはとても言葉で表現しづらい現場を目撃し、何やら痒くもないのに無意識に胸のあたりを同時に搔いてしまう。


 「………将軍。本当にセイバーのご息女であってますか?」 

 「……私に聞くな。自信が霧散しているのが分かるだろう?」

 

 「「………」」

 

 ◇


 ・キノコとかなんか色々はいった炊き込みご飯

 ・3種類位入った野菜スープっぽい物

 ・なんかめちゃ厳つい顔の焼き魚


 「………肉はどうした?」

 「魚があるでしょ?」

 「魚は野菜じゃろ?もうお昼じゃぞ?」

 

 ようやっと誤解が解けたのか牢屋から無事出してもらった後、客室へと案内してくれた。

 ワレのイメージする客室とはちと違って、広さはそこそこあって全体をアジアンテイストで仕上げたであろう部屋じゃった。はたしてこれを客室と呼んでいいものなのか疑問はちと残るが。割と落ち着くから良しとするのじゃ。窓は無いから外を覗く事は出来んかった。


 案内してもらう途中、2人が何やらワレを奇異を見るような目をしていたのが非常に印象的じゃった。セルフィとやらはどっか行ってこの場に居るのはガレットとワレの2人。牢屋に居た時は敵愾心満々でツンツンしてたのに話してみると意外と気のよさそう奴じゃなこやつ。


 まぁどうでも良いわ、そんな事より


 「……エルフは魚は食べるけど肉を食べないの。後、魚は魚よ」

 「…………焼肉もか?」

 「話聞いてた?あとあんた指どうしたのよ?腫れてるじゃない」

 「聞くな」


 

 肉を…食べない?


 「そもそもエルフは心で動物たちとある程度通じ合えるのよ、そんな生き物を普通食べようとは思わないでしょ?」


 御伽噺だとエルフは肉を食べないなんて言って無かった。それに動物と通じ合える。。。

 中二病という病を克服したワレなら分かる。


 「――そうか……」

 「その顔やめてくれる?なんかムカつくから」 

 「おっと」

 台風が来た時に一目散にベランダに走って行った弟と重なった。


 両手を天高く突き上げまるで自分がこの風を操っているんだ……!フハハハハ!とでも言わんばかりのあの表情。

 ワレにもあんな時があったな……と温かく見守る感じの表情をこやつに向けてしまったようじゃ。


 「でも肉がねえのかぁ。米以外全部野菜じゃのぉ……」

 「いやだから魚!」

 「魚は野菜じゃ!泳ぐ大根みたいなもんじゃろ!」

 「どこがよ!目もヒレもあるじゃない!」

 「なんじゃ!」

 「何よ!」

 「うぎゃー!」

 「ちょっと!耳は反則――!」

 「あったかいの!本物じゃ!」

 「だから本物だって――あっ!ちょ――」

 ギャーギャーと今日出会ったばかりだというのにまるで長年の友人かのように取っ組み合いを始める2人。

 良いタイミング(?)で扉が開かれると、そこに現れたのはセルフィだった。


 「お前ら……何をやってるんだ?」

 

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