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パラレル邪馬大国/セア・テア  作者: 三井咲也
日輪の少女と黄金の神樹
14/41

14話 閑話 野球禁止令


 ヒミコとマリアを部屋まで送り届け、再び戻ってきたミストガル。

 そこには、先ほどと変わらぬ位置でヴァレル訓練長が待機していた。戻ってくる事を確信していたかのように。


 「……どう見た、ヴァレル」

 「『無属性魔法』の器でしょうな。発現こそまだですが、その刻はそう遠くないかと」

 「お前もそう思うか」

 

 無属性魔法。

 属性の概念に縛られない、極めて稀有な魔力。その威力は、最低でも上位精霊の発する権能に匹敵すると言われているが、未知数な部分が多く、全貌は解明されていない。

 だが、無属性を宿す者には、ある共通点が存在する。

 それが「クリアノイズ」――漆黒の魔力の中に、透明に近い白光が混じる、最高純度の可視化ノイズである。

 そもそも可視化ノイズとは、不純物を一切通さないフィルターのような魔力器官を持つ者が、常識外の魔力を限界まで溜め込んだ際に起きる、いわば「魔力のオーバーフロー」だ。

 普通、魔力には吸収の限界濃度がある。だがヒミコは、濃度が極限に達してもなお吸収を続け、しかもその純度はほぼ100%。

 初めての魔力循環で、制御しきれなかった真っ黒な稲妻が飛び散ったのは、まさに彼女の器が「不純物のない魔力」で溢れかえった証拠であった。

 

 ちなみに、マリアも初めて魔力循環を行った時暴走してしまったが、あんな事態に陥ることは無かった。彼女の場合はそれはもうお姫様の振る舞い。


 『あっ何かが大量に出ている気がします……あっ』コテンッ

 『姫さまー!』


 で終わりである。  

 あの稲妻ノイズのような異常事態とは、格が違った。


 「ですが、さすがはあの方々のご息女ですな」


 かつて、旧帝国を恐怖で支配していた大魔帝が所持していた特異スキル【ノヴァ・ブレイク(新生二ヨル終焉)

 周囲一帯を夜の如き闇に沈め、降り注ぐ幻覚の小隕石で広域を壊滅させる絶望の魔法。隕石自体は実体のない幻に過ぎないが、あまりの圧倒的な「存在感」に脳がそれを本物だと誤認し、肉体が痛覚反応によってショック死を遂げるという、精神と理に干渉する凶悪な術式であった。

 太陽が沈むと発動できないという、わずかな理の隙を突き、彼等はこの大魔帝の討伐に成功した。だが、当時から一部の人々の間で囁かれていた。

 なぜ、あらゆる属性防御を無効化する大魔帝の魔法が、あの夫婦には通じなかったのか。

 なぜ、ナギの放つ一撃と、ナミが展開した防壁は、魔力の輝きを持ちながらも何色にも染まっていなかったのか――。

 あの絶大なる力の源流もまた、既存のどの属性にも属さない無……あるいは、全ての色の根源たる「無属性」であったのではないかと言い伝えられている。


 そしてその力の真実を知るのは今では極一部の者達のみ。

 

 「……ヨルヴァンにはまだ言うなよ?あやつに教えれば、研究欲を爆発させてヒミコの元へ飛び上がらんばかりに馳せ参じるだろうからな」


 「はは、確かに。……ですが、いつまで隠せますかな? いずれ彼女自身が旅に出ると言い出すのは時間の問題でしょう。あの方々のように」


 「ああ。だからこそ、授業で奴隷の話をしたのだ。案の定、あの子の瞳の奥は、憤怒で燃え上がっていたがな」


 ミストガルは見抜いていた。

 普段はおちゃらけて突飛な行動を繰り返す少女だが、その芯には繊細な正義感が満ち溢れていることを。そうでなければ、心が清らかな者にしか懐かないルミナスが、彼女の肩を止まり木に選ぶはずがない。

 報告では最初に発見したウェンデの泉にて、寝ているヒミコの肩にルミナスが止まっていたと言う。

 そのため驚いた兵士たちは、叩き起こすことが出来ずに只々声を掛け続けた。

 結果、テコでも起きないヒミコのために即席の担架を作り。好待遇(?)で牢屋まで運び込んだ。


 運び込んでいる間も肩に留まり続けたルミナス。まるでこの子に危害を加えるのは許さないと言わんばかりに。

 それを目撃したセルフィが驚き、直接尋問することになったという経緯がある。


 それと伊達に160年皺を刻んできた訳では無い。

 じゃなきゃ先王自ら教壇に立つ事等あり得ないし。ヒミコの良く分からん悪ノリに付き合ったりしない。本当にふざけた奴なら、パジャマ姿で『おはようかん』と言いながら入室してきた時点で叩き返している。 


 ―――あれは本当に我慢した。。。人族の少女は叩き返すか耐えるかの絶妙な分水嶺を突いてきた。結果ミストガルは、母指球に爪の後がくっきり残った。


 今でも思う、とりあえず叩き返した方がヒミコのためになったのではないか?と。次こそは注意すると決めたが、少女は搔い潜るようにそれからパジャマを着てこなくなった。挨拶だけは相変わらずふざけていたが、パジャマを着て来た時のために今は我慢する事にした。

 

 『おはえもん』

 『おはようのすけ』

 『おはようようひみこだYO!ちぇけちぇけわっしょい』


 ……チックショウ!!!とミストガルはもやもやした。次の日も、その次の授業の時もエルフの民族衣装を着用し入室。

  

 ――思う。今世界で一番もやもやしているのはワシではないかと?早く怒らせてくれないか?(解き放ちたい)と。 


 ◇

 そして。

 もう一人、別のモヤモヤを抱える人物がいた。


 「わ、私は女王……国民の安寧のために……書類を……っ!」


 ミスティス女王は、机の上にそびえ立つ「書類の山」を前に、壊れた人形のように自分を励ましていた。

 情勢の変化、密偵からの報告、族長たちの要望。処理しても処理しても終わらない仕事。ストレスという名の圧力が、彼女の精神をじわじわと削っていく。


 そんな時だった。


 「ばっちこーい、ヘイヘイピッチャービビってる」


 緊張感の欠片もない声が窓の外から響いた。

 窓を開けると、兵士たちに混じり、木の棒をブンブンと振り回すヒミコの姿があった。


 「打てるものなら打ってみろ! おりゃ!」


 兵士が放った球は、ヒミコの手元で「グンッ」と鋭く曲がった。

 この世界は、ヒミコのいた世界よりわずかに重力が軽い。そのわずかな差が、空気の抵抗と相まって、えげつない変化球を生んでいたのだ。


 「捉えたのじゃ!」


 カッキィィィン!


 ヒミコは遊びに真面目、遊びに本気。「底辺×高さ…」「サインコサイン…」「隣の客はよく柿…」

 そしてこの世界の重力。時の流れ。空気の抵抗。全ての頭脳を駆使し、やがてどうでも良くなり己の本能のみで、そのボールを芯で当てる事に成功する。



 「走れ走れ!」

 「ヤッターーー!」

 響き渡る歓声。膝から崩れ落ちる敗者の兵士。

 そこには、階級も種族も超えた「本気の遊び」があった。


 ……込み上げる、何か。

 ミスティスは振り返り、再び机の上の書類山を見つめた。


 「……はぁ……楽しそう。私もあの遊びやってみたいわね。でもこういうのは誘ってくれないと女王としての矜持が……いやでも……もうもうもうもう!なんで私だけーー!」


 爆発した。

 闇精霊と契約できそうなほどドス黒いオーラを放ちながら、彼女は叫んだ。


 「こうなったら、誰かが私を誘いに来るまで……野球、全面禁止です!!」

 こうして、あの「野球禁止令」の裏側には、一人の女王の「混ぜてほしかった」という寂しすぎる本音が隠されていたのである。



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