11話 旅立ち/前編
「よっしゃー!本日は晴天じゃな!シュッシュッシュ!」
前日の大雨が嘘だったかのように今日は蒼天快晴!太陽に反射した雫が光り輝き。我らの門出を祝福しているよう!!!
「もう、ヒミコ落ち着いて」
「ガレット隊長、2人を頼みましたよ?」
「はっお任せください、女王陛下」
この世界に来てからあっちゅう間に3カ月が過ぎた。本当にホイホイ!ほほほほーいって感じじゃ。
えっ?なんでそんなテンションが高いかじゃって?
んなもん分かるじゃろう?え?分からん?本当に?ヒントはエアボクシングをしているワレじゃ。
……え?分からん?ちゃんと説明しろ?
仕方ないの。
◇◇◇
【基礎】それは物事において重要な土台のようなもの。
スポーツを例に例えるとこの場合の基礎はやはり体力になるじゃろう。
体力が無ければスポーツもへったくれも無い。開始5分で皆ヘロヘロのサッカー。誰が見たい?いや逆にそれはそれで滑稽で面白いかもしれんが。心躍るエキサイティングなプレーは見れん。
1月丸々魔力循環の訓練に費やしていたワレは遂に、次のステップに進む許可が下りた。
つまり基礎突破……!もういい加減飽き飽きしていたがガル爺から遂にギリギリ及第点じゃそうだが合格を貰った。
ワレの性格的にこのままあと1週間もしないうちに無言で暴れる自身があったのじゃが。恐らくガル爺はそれになんとなく気づいたんじゃろう。本当にギリギリ及第点!と念を押されたのじゃ、もうちょっと魔力循環しても良いけど――チラッみたいな、気持ち悪い視線は完全にスルーしておいた。
そこら辺りから座学の頻度は減った。
全てでは無いじゃろうが大体この世界の事はなんとなく分かったつもりでいる。
座学が減った分魔法の訓練をするようになったのじゃがそれも毎日毎日練習できるわけでは無い。丸一日休みの日も出来た。
マリーとは毎日一緒な訳でも無く、姫として祈りを捧げにウェンデの泉とやらに行ったり、別でやる事があるみたいじゃからじゃ。「暇じゃから付いていく」と一度泉へ同行したが、1時間も黙って祈りを捧げていた時は付いて行ったことを本気で後悔した。――バチクソ暇すぎてアリんこの行列を三回も数え直した。
ガレットの後を付いて行った時は、どうやらその日はエフィリア周辺の森に出た魔物を討伐する仕事のようで、これ幸いと魔法を習得するためにこっそりストーカーした時に出くわしたでっけぇ蜘蛛を見て何故か棒立ちしてしまい、死を覚悟したワレを守るため他のエルフがかばって深手を負った。めちゃんこ怒られた。女王にもガル爺にも、マリーにも。
言葉のフルボッコ。
怪我をしたエルフには謝罪した。さすがに後悔したのじゃ。
気が向いたらその時の事を語るとしよう。今語ろうとすると女王のあの顔が思い浮かんでちびるからじゃ。
初日以来顔を合わせていなかったセルフィを見かけた時は、ものすごい剣幕じゃったので、スルーした。
ヨゼフは……アイツ見透かしてきそうじゃし、話したこと無いからどうでも良いのじゃ。
――結果エフィリアの丘で夕日を眺める頻度が増えた。
そしておのずとうちの事を考えてしまう機会も増えた。
………みな心配してるじゃろうのぉ
考えないようにしている。ときたま起きた時の枕が濡れているのはきっと夢で感動的な映画を見てたのじゃろ。という事にした
確かヨルヴァンの計算ではこっちの世界で3日に対して、あっちは1日じゃったか?
にしても3年。
なげぇの。ロングロングなげぇのじゃ。
自分でも分かっちょるのじゃ、クソほどつまらんこと言っとるとな。
日に日にしおしおになっている気がするが、日中は誰かしら会う故に忘れる事が出来る。
ダケド何かが締められる感覚が日に日に大きくなってきた気がする。
そんな日々を過ごしていると、ある日女王から夕食に誘われた。
この世界に来てから定期的に一緒に食事をするのじゃがこの日はいつもと違った。
マリーが居なかったのじゃ。
タイマンである(?)
(なるほど……(?))と何も分かっていないが、全てを見透かしたかのような表情を浮かべ女王の真向かいに座った。
場所はいつものようにミスティスのプライベートルーム。広大な特別室では無く、生活感のある、暖かな部屋。皆が想像しているであろう、絶妙に距離が離れたいわゆる王族や貴族が食事をしそうな特別室は族長たちが一斉に席を介した時にしか使用しないそうじゃ。
ガチのタイマン。侍女はいたが。
最初は他愛ない話をしていた。
『訓練は順調?』
『勉強はどう?』
『順調じゃ!』
『魚料理は飽きたのじゃ!』
なんて
ニコニコしながら話を聞いてくれた。食事が終わり、ソファに移動しても話は続く。
まぁこれも何回かある。その時もマリーと一緒だったケド
じゃが匂いと言うのか?入室した途端に感じる母親特有の匂い?落ち着く匂い。何となく母上と似ているから錯覚してしまっているのかもしれんが。ふと思い出す。
じゃがワレはなんか女王が苦手なんじゃ。
イヤ――苦手?……はちと違うか?うん、違うな。別に苦手では無い。むしろ好意の感情がある気がするの。本人には言う気は無いが。何故言いたくないか?
さぁ?自分でも分からん
やがて侍女が2つのカップを持って部屋へと入って来た。
立ち上がる白い蒸気。
未だ夜はちと肌寒い。温かい紅茶はいつでも大歓迎なのじゃ。
なのじゃが、侍女が持ってきたのはいつもと違った。
(…あっ)
その際侍女が持ってきてくれたのはこの世界で初めて見る、だけどワレにとってなじみのあるモノ。
琥珀色のミルクティーじゃった。この世界ではダコタと呼ばれる牛から取れたダコタミルク。手からじんわりと心地よい温かさが伝わる
『思い出す?』
女王のあまりに優しい声
そして「わたし」に暖かい視線を向けてくる。
―――やめて
母上がよく私たちのために自身の手でミルクティーを淹れてくれた光景を思い出す。
夕食後にお母様のお部屋で姉弟仲良く。たまにはお父様も交えて家族団らんのひととき。その日あった出来事をニコニコ聞いてくれた。時には叱られる事もあるケドそれでも大好きで優しいお父さんとお母さん。
木製のコップが中身を強調する。反射して顔が見える事は無い、ダケドそこからあの頃の光景が視えた気がした
アノ頃の、なんて言ったケド。まだそんなに刻が経ったワケじゃない。逆を介せば帰れるまでマダマダ時間が掛かるともいえるのダカラ
矛盾?イヤ、していない。
時間なんて進み続けるだけだから。そこに矛盾の入る余地は無い。――タダ私の心が乖離しているダケ
震える手でカップを掲げ、波紋するコップの中にある液体を口に含んだ。
――う”ん”。少し塩味
あぁ。。。こっちを見つめてくるその目、その表情がママを思い出す。2人きりになって今初めて分かった
思い出さないように苦手感情を無意識に作って避けていたのかもしれない
いつの間にか隣に女王が座って
――私を強く抱きしめていた
――やめて。じゃなきゃ
『気づくのが遅くなってごめんなさい。一人で心細かったわよね』
――決壊してしまうから
『う”ん”!おう”ち”がえ”りだい!』




