10話 差別
あのぶっ倒れた日から約1カ月が経った。
桜もすっかり散る……事は無く今も元気に桃色の世界を演出しとる。
この世界の桜は3カ月散る事なく咲き続けるらしい。
………ズルくね?
その話を聞いた時の最初の感想はそれであった。
相場は1週間じゃろ?
少しだけ、グットタイミングでこの世界に来たものじゃと思ったこの気持ちを返して欲しいのじゃ。
――まぁどうでも良いのじゃ。
この一月何をして過ごしていたかと言えば。相も変わらず魔法の訓練と座学。ミストガルの他にヨルヴァンも先生として教壇に立つようになった。
1度女王が予告なくノリノリで教壇に立った時はさすがに冷や汗搔いた。
見た目はまったく違うがなんか母上と同じ雰囲気を感じてしまい苦手意識を持ってしまう。
いや苦手とは違うか?ちゃんと聞かねばと姿勢を正してしまう感覚みたいな?
何の授業かと言うと。女子足るモノ……!みたいなふざけた授業に肩透かしを喰らってしまった。
魔法はそうじゃな、相変わらず毎日毎日魔力循環の日々で退屈じゃ。
どうやらワレの魔力は不純物が猛烈に少なく、爆裂に濃度も濃くそして多いらしい。ガル爺が言うにはあの日に見た電気のような黒いやつは不純物が無い圧縮された大量の魔力が一気に放出された結果可視化されたらしい。
魔力を内に溜める器みたいなものの許容範囲を超えると普通は自然に放出されるらしいが、極稀に、放出されずに他の人より多く濃縮され続ける者もいるとかいないとか?
まぁ良く分からんがワレの器は大きくて、濃縮もめちゃする。まぁ多分濃縮タイプのカル〇スみたいなモノじゃろ。じゃから制御を何とかせねば危険だと完璧に出来るまで次のステップに進まんと宣告された。おもろくないが仕方ない。ワレは我慢できるからの。いつかワレの最強魔法が火を吹くのじゃ。
話しは戻るが毎日毎日座学・魔力循環・座学・魔力循環・座学・・・・・・・・・・・
野球チームを作った。
悟りを拓きそうになったので野球チームを作った。ん?なぜじゃって?
毎日朝から午後ちょっと過ぎに終わる。いつも終われば外に繰り出していた。
夕日がきれいなベストスポットも見つけた。大衆浴場にも突撃した。それなりにここの住人と仲良くなった気がする。
じゃから誘った。野球やろうと。 (?)
自分でもさっぱり分からんが頭で考えるより口から先に言葉がでた。
どうやら遊びに飢えまくっていたらしい。
ウチのチームはワレ、マリー、ガレットを筆頭としたチーム【ヒマリット軍】
そのまま三人の名前をモジっただけ。
対するヴァレル率いるガチ勢の【猛虎野球軍】若いエルフが集まった【エルフと愉快な仲間たち】近所のガキンちょと保護者の【チームキッズ】等続々とチームが何故か出来た。
・リアルに見た火の玉ボール
・風魔法でスイング強化そしてかっ飛ばし燃え盛る森
・激怒する女王。
瞬殺で野球禁止の危機に陥った。
これはまずい!と、どうにかこうにか存続させようと上はヴァレルから下は末端の兵士まで。階級の垣根を超えて、女王に中止撤回させるため様々なアイデアを出した。
プラン1【ヴァレル訓練長案】
野球は心技体を鍛える、日々の訓練に盛り込むことでエルフの更なる身体能力向上に役立ち、兵士たちの娯楽感情も満たされるという一石二鳥案。
結論。却下
プラン2【ガレット案】
魔法禁止。そして陽が静まって暗くなってから以降も光魔法でゴリ押しで行っていたナイトゲームも止めるから案
結論。却下
プラン3【ワレ】
女王も混ざればいいじゃん、運動不足じゃろ?
結論。チーム【セレヴィーテ】ができた。
女王も日々の政務でストレスが溜まっている中。配下たちが楽しんでいるのが許せなかったらしい。駄々っ子じゃ。
まあそれからそれなりに楽しくやっていた。ドラフト制度やトレード制度を作った時はひと悶着あったが、まぁこの続きは気が向いたらいつか続きを語るとしようかの。
◇◇◇
――きっかけは些細な事だった。
魔法が発現していない原初創成期。かつて存在していたとある村には様々な種族が住んでいた。
違う種族だろうと互いが尊重し合い。得意不得意を補完し合うようなまさに理想的な関係。
人はモノづくり。ドワーフは武器を。獣人は狩り。エルフは木の実や魚。
時には共同で襲い掛かる魔物達を追い払った。
ある日、人族の子供が怪我をして帰って来た。理由を聞くと獣人の子にやられたと。
子供の喧嘩だ。その時はお互いの両親が立ち合い仲直りをしておしまい。
だがその家族は自身でも気づかない程かすかな鬱積が溜まっていた。
きっかけは些細な事だった。
ある日近くに住み着いた大きな魔物を退治に向かった。死闘を繰り広げ死傷者を出しながらもやがて討伐する事に成功する。
村に戻るとにぎやかな声。どうやら人族の夫婦で子供が生まれたらしい。
だが討伐に参加した獣人の一部は帰らぬ人となっていた。
どうしても我慢が出来なかった。
口論が始まる。冷静にいつものようにお互いが少しだけ歩み寄れば理解しあえたろうに。
だがなぜかその時は感情が優先された。
――険悪
そんな中誰かが言った一言が小さな黒い部分を大きく引き裂いた。
『獣人は力が強いのだから、戦うのが仕事よ』
かつて怪我をさせた人族の子供の親だ。
そんな風に思っていたのか?こんな奴らのために命を賭していたのか?
もちろん人族全員がそう思っていたわけでは無い。が、その時は何故かその親のいう事が人族全員の総意のように聞こえた、いや聞こえてしまった。
『馬鹿らしい』
次の日獣人族は姿を消した。
エルフとドワーフは暫く人族と一緒に住んでいたが元々住んでいた場所が悪かったのだろう。魔物の多さ、そして強さにエルフとドワーフの怪我人が続出することになった。
戦闘の大部分を担っていた獣人族が消えたからだ。改めて2種族は獣人族のありがたみに気づかされた。
だがこのままではいずれ全滅してしまう。そこで人族にも戦闘に参加してもらうように打診した、が人族が放った言葉はあまりに非常な一言であった。
『なんで俺たちが戦わないといけないんだ、お前達の方が強いんだから戦うのが当然だろう?』
きっかけは些細な事だった。
しばらく我慢していたが鬱積は溜まる一方。そして――
あの時のように遂に2種族からも死者が出てしまった。
感情が理性を上回る。つまり限界――
そして翌朝、――村にいたのは人族のみだった。
空に浮かぶ雲の形が邪悪な笑顔を浮かべているのに誰も気づかずに
◇◇◇
エルフ国の周辺には人族が統治する2つの国が隣接している
アーシス王国、そしてミルナス王国
エルフ国はこの大陸の南西側にある広大な大森林にほぼ全てのエルフが住み女王ミスティスが現在それら全て治めている。
人族の国というのは国によって価値観が違う、他種族の事を見下さずそれどころか共生するミルナスのような人族国家もあれば、他種族は劣等種族という考えを持つ国も存在する。
その中でもアーシス王国は特殊で、人族至上主義のラズウォート帝国に対しても隣国ミルナスに対しても他種族に関してのはどっちつかずの発言をし言葉を濁している。いわば綱渡り外交。
それも仕方ない。アーシス王国は北は帝国、南はミルナス連邦の間に挟まれた国、更には西にエルフ国と隣接している。
社会で例えれば中間管理職、そして監査人がずっと見ているおまけつき。
だが実はアーシス王国。密偵からの内部情報、そして接触した貴族たちによると。多くがミルナス寄りだと言う。
が本心を公式に発言するデメリットがメリットを上回る。
そんな綱渡りのせいで、ミルナス王国からは良い顔をされていない。
アーシス王国からすればどうしろと?と言う感じなのだが。実際当事国になって見なければその苦労が分からないのだろう。
『ねぇ?仕事と私どっちが大事なの?』と言われた事がある男なら『あぁ』と理解できるだろう。
答えは『やかましい』と。
アーシス王国は現在ミルナスに対してそのような感情を抱いている。
帝国の奴隷商人がアーシスに王国に入国するのを黙認するのが精一杯。
「奴隷?」
「そうだ、獣人を捕え帝国に持ち帰っているのだ、協力者からの情報で幾度も阻止しているが、残念ながら連れ去られた者も多い」
「ふーむ」
ヒミコの頭の中では様々な疑問が浮かぶ。アホ毛で?マークを作りながら。
獣人国家があるのだからそこいったらいいのでは?
帝国やなんちゃら法国とかは何故他種族がそこまで嫌いなのか?
父上と母上達が奴隷解放したんじゃないのか?
今日の昼飯は何なのだろうか?もう魚は嫌だとも。仮に魚なら骨は抜いてくれとも。
エルフの民族衣装を貸してくれたが何故日中ワレはパジャマ姿なのか?普通逆じゃねえのか?
その思いの丈をガル爺にぶつける。そしてその答えは――
「ヒミコ、仮に長年住んだ自分の家から出て行けと言われたらどう思う?」
「戦争じゃ」
「極端すぎだがまぁそういう事だ。次だが帝国含め他種族が嫌いな国は、人族至上主義を謳っておる。これはまぁ他種族は人族より劣っていると思っているんじゃな。じゃから何をしても良いと思っているんじゃろ」
「極論がすぎるだろうよ」
「そうだ、だが本気で思っているのもまた事実。エルフは力を持っているが故にそこまで大きな事にはなっていないが。一部の弱い獣人族を攫っては悦に浸っているのだろうよ。そして――」
ナギとナミそして女王が奴隷解放したのは事実、人族によって連れ去られた種族を解放し。事前に情報が入った場合は、急行し阻止したりなんかも幾度も行った。
「人間の寿命は短い。だが恨みと言うのは永遠に湾曲しながらも語り継がれる厄介なものだ」
時代が変わればまた同じ過ちを犯す、当人たちはその事に気づかずに。それが正しい行いと信じて。
変わる者もいる。ミルナス王国のように。
「それとなヒミコ」
「なんじゃ?」
――座学が始まった午前中は室内の半分程は影を落としていたが、現在は窓から差し込む日光が室内全体を明るく照らす。もうすぐ正午なのだろう。
「――今日も安定の魚料理だ」
窓際に近づいていたミストガルは日光を背景にさらにこう答える。
「パジャマはお主の匙加減じゃ。誰も日中パジャマを着ろとは一言も言っておらん」
すっと席から立ちあがりミストガルとは対極の位置にある窓際にゆっくりと向かう。
――風が気持ちいい。柔らかい風が少女の頬をそっと撫でる。
ヒミコは思わずフッと微笑む。
「至言じゃの………」
マリアは思った
「えっなにが!?」と




