8/36
《7》
母はよく俺を抱いて外に出た
歩く事が出来ない赤ん坊の俺がまず驚いたのは
空気というモノが常に臭いということだ
そこは
俺が知る現実知識には無い
白い雪に覆われた山々が遠くに聳える広い斜面に木造やレンガの家が点在する小さな町
小高い丘の上にポツンと俺の家があった
赤ん坊がいる部屋はほんの小さな空間であり
家自体は妙に縦長な三階建て
トンガリ屋根の木造住宅
思っていたより部屋の数が多い
空は常に雲が立ち込め
我が家の裏側にどんよりとした森が広がっている
あからさまに見て取れる町の住人の裕福ではないだろう暮らし
どうやら
転生先は難易度が高そうである
そんな小さな町だからだろうか
裕福でないがゆえの組織が成り立っていたことが
最低限であるが母と俺が生きていけた理由である
町の長と母は何らかの繋がりがあるようだ
活気がない住民達だが治安がいいのは閉鎖された環境がゆえなのだろう
赤ん坊の俺は
あるはずのモノが無く
あるはずのないモノが何故か存在する
この世界の異常さにその時は気付いていなかった