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《5》
ということは
丸く太った女の思われる生き物は
耳の形からして
"エルフ"なのか?
ということは
このエルフが俺の母親なのか?
ということは
俺はエルフに生まれ変わったということか?
急に泣き止んだ俺を除き混んで
女が何かを言っている
不思議な事に理解出来る単語が1つだけあった
聞いたこともないのに知っている単語
日本語ではないその単語の意味は
「ママ」
紛れもなく俺がこのエルフをそう認識していることを
俺自身が理解していた
それ以外の認知事実は何一つ思い当たらない
疑問と不安だけが無限に頭の中を駆け巡り
その俺の様子を見て女エルフが取り乱していた
これはイカン
俺はそのたった1つだけ知っていた言葉の発音に挑戦した
「○✕△」
パニックに陥っていた女がビタリと動きを止めて
寝かされている俺を驚いた眼差しでガン見した
遥かに忘れていた過去に
俺はその表情を知っている
母親が息子に向ける愛情に満ちた笑顔と歓喜の言葉
どうやら俺はその時
生まれて初めてその女を
"ママ"と呼んだようだ