表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

#1. いろがみ

 「いろがみ」は私、26歳の娘の夏音(かのん)、23歳の娘の夏瑚(かこ)の3人で切り盛りしている大阪のお好み焼き店だ。ある夏の閉店間際の22時に、外国人の男女が来店した。入店してきた2人は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンで買ってきた大きなお土産の袋を持っている。

「こんな時間にお好み焼き食べるんですか?」

長女の夏音がそう言うと、男性の方が

「どのお店も閉まってるか満席で、ここしか空いてなかったんだ」

と笑いながら言う。やり取りを聞いて駆けつけたパート従業員の浅倉(あさくら)さんは、2人にメニュー表を渡した。そして「注文が決まったら呼んでくださいね」と言って洗い場へ戻る。

 数分後、彼らに呼ばれて浅倉さんは注文を伺った。女性の方に「何がおすすめですか?」と聞かれて、浅倉さんが1番人気のお好み焼きを勧める。彼女は「じゃあそれにします」と言ってくれた。料理が届くのを待っている間、2人はユニバーサル・スタジオ・ジャパンで買ったお土産を広げ始める。おそらくYouTubeかTikTokで配信でもするのだろう。

 しばらくして料理が届くと、2人は食事をしながら配信し始める。「撮影して良いですか?」とは聞かれなかったものの、他のお客さんもいないし別に良いかと思い、放置していた。こちら側にカメラは向いていなかったので、私たちの顔までは写っていなさそうだ。

 食事を終え、2人は私たちスタッフも一緒に写真を撮ろうと提案した。そこで私は夏音と夏瑚と浅倉さんも呼び、店の前で集合写真を撮る。私が撮ろうとするも、全員が写るように調整するのは難しかった。そこで男性が私からスマホを撮り、「僕が撮りますよ」と申し出る。写真を撮った後は2人と握手して、店先でお見送りをした。

 2人が帰ってから閉店準備を始める。「いやーなかなか面白かったですね、あの2人」と浅倉さんが言うと、夏瑚は「そうですね、いきなり配信始めたときは驚きましたけど……。まあ美男美女だったし、大阪楽しんでくれてたら良いなって」と返す。酔っ払ったおじさんや癖の強いお客さんもたまにいるけれど、それを超えるほど印象に残った2人だった。



 あれから約半年が経ち、日本人の若い女性客が1人で来店する。大学生ではなさそうなので、20代半ばか20代後半といったところだろうか。どこにでもいる若い女性で、とりわけ何かが変わっているわけではなかった。彼女はしばらくしてお好み焼きを食べ終え、カウンター越しに私たちへ「あの、すみません」と声をかける。

 お会計かと思い私が対応すると、彼女は半年前に来た男女の配信動画を見せてきた。「この人たち、私の友達なんです」と彼女はスマートフォンを片手に笑う。私が「彼女、前に来てた外人の男の子の友達なんだって」と言うと、夏音と夏瑚が「えっ、そんなことある?」と驚いていた。彼女より少し離れたカウンター席に座っていたおじさんも「なかなかすごいな」と言う。

 彼女は兵庫から来たと言っていたので、私は「遠いとこからわざわざありがとう」と言って見送った。また来ますと言ってくれたこともあり、私たちは彼女たちの再来店を楽しみにしている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ