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メイキング1 オレが通った道はここにない

これは。

定期集会の前。

ヒーラー達の地元にあるショッピングモールのフードコートで。

大暴露と。

オレの決意表明みたいなものをした後の話だ。

そう。

通学路を重ねてが出来上がるまでの過程の一つだ。

みんなの大暴露から。


オレの決意表明まで。


サブチームのメンバーが、


お互いの腹の内を割りあってから。


ものの数分が経過している。


「「「「……」」」」


座席の位置は変わらずに。


オレの隣には牧菱さん。


前にはヒーラーと特盛の二人が座っている。


まだみんな気持ちの整理が完全についていないのか。


ギクシャクしていて。


話を切り出すタイミングをうかがっている。


よし。


ここは今回監督であるオレが。


場のムードをリセットしないと。


上手くいくか分からないが。


いっちょ話題をオレから切り出してみよう。


「ここ来るまでにさ、ヒーラーの高校の頃の通学路を通ったんだ」


高校生から大学生への変化が。


今回の作品のテーマなので。


ここに来るまでの間にヒーラーと。


どう過ごしていたのかの補足を。


特盛や牧菱さんにも伝えてみよう。


「なんていうか、高校時代のヒーラーの登校中の気分を味わえたかな」


さて、みんなの様子はどうだろう。


ヒーラーはわざとらしく感慨深そうに頷いている。


特盛は冗談気味に悔しそうな表情をしている。


牧菱さんは真顔のままオレを見つめていた。


「ナギィに俺の思い出の場所を教えたかったんだ」


「ズリィ。おれもナギィに思い出の場所教えてえ」


「ナギィさん、知りたいと思いますか。襟着さんの思い出の場所」


「おいおいおい。ちょっと辛辣しんらつ過ぎない」


ヒーラー達とフードコートで合流して。


三十分ほどは経ったと思うが。


撮影や編集。


なにより企画の話し合いを考慮すれば。


オレ達に残された時間はあんまりない。


まさに今。


企画会議ってなところで。


なんかいつもと変わらないノリだ。


でも、今はそれが。


すごく心地いい。


根拠はないが。


いつもの雑談だけで。


終わってしまう集まりじゃないのは。


今回に関しては。


なとなく予感できる。


「ああ、今からおれの思い出の地にナギィを連れて行ってやりたいぜ」


「つっても、明日の撮影の時間も限られているしな」


「私達も大学の講義が明日ありますからね」


「はあ、おれも実家から通えたらな」


「もう、そんな甘えてないで。アパートからきちんと通いなさい」


「はあい、母ちゃん」


母親らしい口調でヒーラーは。


特盛と一緒にふざけ合っているが。


これって。


もしかしたら、作品のヒントになるかも。


「お二人とも茶番なんてせずに真剣に考えましょう」


「「すいません」」


「待ってくれ、牧菱さん。これアイディアにつながるかも」


「まさか俺に企画の母親役を、今回は俺が女装しなきゃいけないのか」


「じゃなくて、ヒーラー」


「通うって、ポイントだよな。ナギィ」


普通にボケるヒーラーとは対照的に。


珍しく特盛がオレの考えを真面目に汲み取ってくれた。


サンキュー特盛としか言いようがない。


「ありがとう特盛。勘づいてくれて」


「おれも全部察したわけじゃないぜ」


「なんだ、通うって、何を言いたいんだナギィは」


ふざけた感じから一転して。


真剣な面持ちでヒーラーはオレに尋ねてきた。


どうやら、こいつにも。


映像制作のスイッチってもんが入ったみたいだな。


「高校生から大学生になったんだし、通う学校も変わるだろ。それがどうしたんだ」


「ヒーラー、もう答え言っているようなもんだぜ」


嬉しそうに特盛が。


ヒーラーの抱えている疑問にヒントを与えた。


それに対し。


牧菱さんは小さく「あっ」と呟いた。


こっちも答えに辿り着いたみたいだな。


うし。


オレからきちんと答え合わせをしないと。


「学校が変われば基本は通学路も変わるじゃん」


「通学路が変わる……ナギィ、お前今回の作品の軸は通学路ってことか」


先に答えそのものをヒーラーに言われてしまったが。


正直、オレに大元のきっかけをくれたヒーラーの口から。


今回の制作の軸というか。


コンセプトを聞けるのが。


このチームの意思をまとめているみたいな感じがして。


それこそヒーラーはサブチームのリーダーだから。


これからどんなものを撮っていくのか。


メンバー全員の前で発表してくれているみたいで。


個人的にはオレは。


すごく嬉しかった。


「ヒーラー達の高校時代と今の通学路の風景を撮っていって、最終的にオレ達の通っている大学を映すんだ」


「失礼、うちの高校は映しますか」


手を挙げて意見する牧菱さんは。


隣にいるオレに真っ直ぐな眼差しで。


懸念点を質問してきた。


「学校側の許可が必要じゃないかと。いくら部内の制作で外部に公表はしないと思いますが」


「確かに。今のご時世はな、それに土日だし、前もって事務の人とかにもアポもとれないし」


牧菱さんの問いに。


腕を組んで特盛は悩んだ。


だが、オレの答えはもう決まっていた。


「高校の校舎自体は映さない。それぞれの通学路だオレ達の大学だけを映す」


「それだと高校生から大学生への変化が分かりづらくならないか」


最もな意見をヒーラーはオレにぶつけてきた。


ただ、オレはこれを待っていた。


「あくまで学校までの道のりを映して、それにヒーラー達の高校時代の思い出の場所の画像や動画とかをくっ付けるんだ」


「いいじゃん、それ。この近くにおれが友達と野球していた広めの公園とかもあるし撮りに行こうぜ」


特盛が意気揚々にアイディアを出してくれた。


これまでのダラダラした制作の打ち合わせとは。


大違いだ。


だから、オレも特盛に対してノリの良いリアクションをしないと。


「いいね、いいね。他のみんなは特盛みたいにアイディアはない」


こうして。


作品に使うみんなの思い出の場所を。


恋愛要素抜きのもので。


各自募つのっていったが。


残念だけど。


他の三人とは別の高校に行っていたオレには。


高校時代の。


みんなの通学路とは重ねられそうにない。


でも、アパートから大学までの道のりは。


映せるから、だから……。


気にしちゃいけないんだ。


奈種さんだって、きっと。


こんなオレの疎外感の塊みたいなもんを聞いたら。


励ましてはくれるだろうけど。


そんなのカッコ悪いだけだ。


一通りアイディアも出揃って。


面白いくらい作品制作のスケジュールも決まった。


外だってまだ明るい。


午後の五時くらい。


野球のカットと考えれば。


今から撮影に行く方が。


むしろ夕焼け気味でムードもでる。


「行きますか」


「「おうよ」」


「はい」


オレの掛け声にサブチームの三人が乗ってくれた。


フードコートの席から立ち上がって。


特盛の思い出の場所に向かおうとした時だ。


「ナギィさんは仲間外れなんかじゃないですからね」


ヒーラーと特盛は先走っていく中で。


立ち上がる際に。


隣にいた牧菱さんがそう小さく呟いた気がして。


オレは彼女のいる方を見たが。


「どうしましたか」


牧菱さんは普段のお堅い真顔だった。


「ううん。なんでもないよ」


さっきの呟きは気のせいにしよう。


きっと彼女を困らせるだけろうから。


確かめるような真似はダメだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

メイキング編がスタートしましたが。

いかがでしょうか。

活動報告にもあるように数本ほどで完結しますので。

長期での連載にはなりません。

では、次回の更新は9/18の17:00の予定です。

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