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第八話 通学路を重ねて

ここに来て。

更なるぶっちゃけがあるなんて思いもしなかった。

この二週間だか三週間だか。

まるで人の過去の恋バナに。

無理矢理付き合わされている感じがして。

オレはすごく疎外感があったけど。

逆にその反動で。

部員の皆に知って欲しかった。

うちの部にはこんなすごい奴らがいるっていうのを。

サブチームを見返すんじゃなくて。

見直すような作品をオレ達は作るんだ。

特盛達との集合の時間もそろそろだ。


待ち合わせ場所はショッピングモールのフードコート。


午後二時を過ぎても土曜のフードコートは食事をする人で賑わっている。


その中で四人掛けのソファ席を確保できたのはラッキーだった。


席はヒーラーと特盛が隣でオレと牧菱さんが隣同士。


「ヒーラー達お前ら午前中どこ行ってた」


俺縁(ゆかり)の地を少々な」


「ナギィさん、具体的にどちらへ」


「神社とか喫茶店とかかな」


特盛はいつもの明るい調子でオレ達に声をかけてくれた。


牧菱さんはオレに喰い気味で午前中の件を質問してきた。


「うし。それじゃここで活動報告用の動画について話すぜ」


ヒーラーがこの場を取り仕切る。


次の定期集会まであまり余裕もない。


ここで決めるに越したことはない。


「特盛と話したが牧菱の高校生から大学生になってからの変化ってやつにしたい」


「えっ」


意外そうに牧菱さんが口を開けた。


初めは驚きだったものの牧菱さんの顔が徐々にニヤついていく。


やや間をおいてヒーラーが言葉を続ける。


「ただ、監督はナギィに任せたい」


「オレが」


「待ってください発案者は私です。私に任せてください」


「ダメだ牧菱。今回の企画上それはできない」


「でも、この人は高校時代の私達を何も知りませんし――」


「テト、ヒーラーに最後まで言わせてやれ」


穏やかに特盛が牧菱さんを諌めた。


普段の軽いノリなんかじゃない。


純粋にチームメイトを想う優しさで。


「ナギィ、俺に特盛と牧菱の三人は部内恋愛で色々あった面子だ」


自虐でもなんでもない。


ヒーラーは真剣にオレに語り掛ける。


「俺らは未だに昔ついた心の傷に(とら)われてんだ」


「なおさら部外者のオレがお前らの高校時代に触れていいのか」


「だからだよ、ナギィ」


優しく微笑みながら特盛がオレを肯定する。


「おれ達主導で作ると恋愛だけで終わっちまいそうなんだ」


「それでいいじゃん。第一お前奈種さんと付き合ってたんだろう」


すごくオレカッコ悪い。


友達に対して(ひが)みっぽくて。


特盛はそんなオレにやるせなく返した。


「実はおれが高校の頃本当に好きだったのはテトだったんだ」


「えっ、ちょっ、特盛」


ん。んんんんん。


思考が五、六秒ほど止まる。


ようやく頭が回り出す。


同時に牧菱さんと顔合わせした日が頭に(よぎ)ぎった。


『堅いな。おれとテトの仲だろ』

 

『もしかして付き合ってたのか。特盛と牧菱さん』


『悪趣味な冗談はやめてください、ええと』


混乱しそうだ。


それでもオレは特盛へと言葉を振り絞った。


「もしかして、今でも牧菱さんが好きなのか」


「いや、もう昔の話さ」


目を瞑って特盛は首を横に振った。


オレの隣にいた牧菱さんは思いつめたように過去を補足していく。


「私に振られたのを知って奈種さんは特盛さんに好意を伝えたのです」


「抜け駆けしたって牧菱さんは言ってたよね」


「初め奈種さんはテトの言伝(ことづて)でおれに伝えてきた。それもあって断ったんだ」


「その後俺が牧菱の告白を断ったから特盛は抜け駆けしたんだ」


おい、それ神社行った時聞いていないぞ。


ヒーラーの思い出の地をあいつと一緒に見て回った。


ただ、何が起きたかしか聞いていない。


それに至るまでの経緯をオレはまだ知らされていない。


また頭が混乱してきた。


だからこそ、この場で一度ハッキリさせておきたい。


気力を振り絞って牧菱さんに尋ねてみる。


「牧菱さんはヒーラーのどこが好きなの」


「どこがって。ていうか今このタイミングで聞きます」


「テト、教えてやってくれ」


切なさが残った表情のまま特盛が牧菱さんに呼びかける。


これに彼女は渋々口を開く。


「真面目で一生懸命で、柊さんなら人と衝突しやすい私を分かってくれるかなって」


「お前ヒーラーに振られた後他校の生徒と付き合っていたよな」


「……一人だけ」


牧菱さんの恋の思い出を特盛は掘り起こす。


正直オレはここ数分衝撃を受けすぎて倒れそうだった。


でも、倒れちゃダメだ。


オレは牧菱さんが話を続けるのを待った。


「柊さんみたいな人で、でも、付き合っている内に何か違うなって」


「だから別れたのか。テト」


牧菱さんをなだめるように特盛はうなずいた。


一方でヒーラーはやり切れなさそうに俯いている。


「恋愛でついた傷を恋愛で癒そうとしたのか。俺と同じだな」


「そうですか」


ヒーラーが共感しているのに牧菱さんは全然嬉しそうじゃない。


恋愛で失敗したら傷ついてしまう。


それをオレは嫌というほどヒーラー達から教えられた。


牧菱さんの言葉を最後にしばらく沈黙が続く。


まだ頭の中の整理ができていない。


グルグルと回ったままだ。


でも、ゆっくりとだけど回復してきた。


深呼吸してからオレは三人に声をかける。

 

「見返すんじゃなくて見直してもらおうぜ。部活の皆に」

 

「急にどうしたんですナギィさん」

 

「就活の為とか頭いいって思われる為じゃなくてさ」

 

精一杯オレなりにみんなに発破をかける。


「賞獲る為とかカッコいいとか思われる為じゃなくてさ」

 

恋愛経験少ないオレが言うのもなんだけど。

 

高校時代、三人と同じ空気を吸っていたわけじゃないけど。

 

だから、オレはヒーラー達の良いところをメディ研の人達に知ってもらいたい。

 

「部内恋愛失敗しても部活で居場所失うわけじゃないとかも証明してやろうぜ」

 

「落ち着いてくださいナギィさん」

 

「牧菱、最後まで言わせてやれ」

 

優しく牧菱さんをヒーラーはなだめる。

 

「皆に見直してもらいたんだ。こんな良い奴らがうちの部にいるってこと」

 

気持ちをそのまま言葉にしてオレはみんなの反応を待つ。

 

やはりと言うべきか最初に応じてくれたのは特盛だった。

 

「いいぜ、おれもとことん付き合ってやる」

 

「特盛」

 

「おいおい、抜け駆けするなよ」

 

「ヒーラー」

 

「いいでしょう。私も協力します」

 

「牧菱さん。ありがとう。みんな」

 

やってやるぜ。

 

景気づけにオレはガッツポーズした。

 

思いのほか打ち合わせは進んで撮影まで進んだ。

 

時間は少ないけど明日は残りの分まで撮らないと。

 

絶対にいい作品にしよう。




もう春じゃない。

 

六月の定期集会でオレはサブチームの作品を上映した。

 

タイトルは『通学路を重ねて』だ。

 

『まだ開いていない図書館を通り過ぎる。学校まではまだまだ』

 

特盛のナレーションで物語は進む。

 

ヒーラー、特盛、牧菱さんの通学路のダイジェストを順に紹介していく。

 

『行こう。思い出の場所に』

 

画面にヒーラー達の母校が映る。

 

そこから三人各々(おのおの)の思い出の場所、駅や市民公園に博物館へと場面は移行していく。

 

『あの頃通った道を経て今僕はここにいる』

 

場面は一変してオレ達の通っている大学へ。

 

そこから大学構内の様々な景色とオレやヒーラー達の部屋のカットが出てくる。

 

『だから、思い出にありがとうと言いたい』

 

ヒーラー達の通っていた高校をバックに撮ったサブチーム班の集合写真。

 

その一枚で作品は締めくくられた。

 

上映終了後、いつもならオレ達の班の制作はスンと静まって次の班へと進む。

 

でも、今回は違う。

 

部員の皆から沢山の拍手をもらった。

 

嬉しくなってオレは上映者用の最前列から奈種さんを見た。

 

あの人は監督のオレじゃなくてサブチームの特盛の方を見ている。


急に声も涙も出ない程やるせなくなった。

 

ああ、オレってあの人が好きだったんだ。


これでオレも部内恋愛で傷ついた一人になっちまったな。


何食わぬ顔でオレは今の画面も消さずにそっとノートPCを閉じた。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

さて、次からは劇中作である『通学路を重ねて』の。

メイキングにあたるエピソードになります。

9/3の活動報告にもその旨を載せておりますので。

目を通していただければありがたいです。

メイキング編も最後までお付き合い頂ければ嬉しい限りです。

では、次回の更新は9/11の17:00の予定になりますので。

劇中作ができる過程のエピソードをお楽しみください。

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