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第三話 知らなかったのは

特盛のアパートで。

牧菱さんの歓迎会を行ったんだが。

なんか高校時代のあれやこれやを。

この子ぶっちゃけ始めたぞ。

大丈夫か、オレらのチームワークは。

「それじゃあ牧菱の加入を祝して乾杯」

 

「「「「乾杯」」」」


サブチームのリーダーであるヒーラーが乾杯の音頭をとる。

 

特盛のおしゃれな部屋にオレ達四人の祝杯の声があがる。

 

大きなソファや間接照明。


インテリアのように飾られたジャケット。

 

この場所でご近所迷惑にならないくらいに遊ぶ。

 

それがオレ達サブチームの日課だ。

 

今回は牧菱さんの歓迎パーティ。

 

真ん中のテーブルにはお菓子やスーパーのお惣菜が並んでいる。

 

「どうしたナギィ、お前もなにか食えよ」

 

「うん。特盛」

 

歓迎会が始まってからしばらく経った。

 

主役であるはずの牧菱さんは黙ってジュースを飲んでいるだけ。

 

ヒーラーと特盛だけで勝手に盛り上がっている。

 

牧菱さんも喋れるような話題がないかとオレは考えた。

 

『柊さん。昔はあんなんじゃなかったのに』

 

彼女の言葉がよみがえる。

 

本人達が喋らないならそれはそれで構わない。

 

ただ、牧菱さんが会話に加わるきっかけが欲しい。

 

オレは軽い気持ちでヒーラー達に尋ねてみた。

 

「牧菱さんもいるしヒーラー達の高校時代のこと聞かせてくれねえか」

 

「奈種さんと襟着さんが着き合ってた、とかでしょうか」

 

ヒーラー達に代わって牧菱さんが答えた。

 

ん。んんん。

 

しれっと何言っているんだこの子は。

 

思考が五、六秒くらい止まる。

 

頭がぐちゃぐちゃになる。

 

だから、吐き出したい。

 

「マジで」

 

「おま、それ言うなよ」

 

「しかも、柊さんが奈種さんを先に好きだったのに」

 

「ええええ」

 

「あああもうう。それ言うなよ」

 

「だって、ナギィさんが何も知らなすぎて可哀そうだったから」

 

いやいや。

 

もうどうなってんの。

 

特盛が奈種さんと付き合ってた。

 

ヒーラーは奈種さんが好き。つまり、三角関係。

 

動揺して手が震える。

 

こぼれないように紙コップの中のジュースをオレは一息に飲み乾す。

 

一気飲みしたせいでちょっと(むせ)てしまう。


そのおかげでオレは冷静さを取りもどす。

 

「詳しく聞いてもいいかな。牧菱さん」

 

「もちろん」

 

牧菱さんは一瞬微笑んだ。

 

ただ、オレは彼女の表情の変わりようはあまり気にならなかった。


あの二人の過去が気になってしょうがなかったからだ。

 

牧菱さんが語った二人の過去はこうだ。

 

ヒーラーと特盛が高二の五月のとき。

 

二人は高校時代に映像制作部に所属していた。

 

特盛は明るくて人望のあるリーダー気質。

 

ヒーラーは超真面目な職人気質。

 

そして、部長を務めていたのが奈種さん。

 

発端は特盛がヒーラーに抜け駆けしての奈種さんへの告白。

 

結果を出せば付き合えると思っていたヒーラーはそれにキレたらしい。

 

ただ、奈種さんと特盛が付き合ったのは二か月くらい。

 

別れた原因は思っていたような楽しい付き合いではなかったから。

 

それに対しヒーラーは「気にするな」と特盛に声をかけたらしい。

 

以後、ヒーラーは部内で肩身の狭い思いをしていたそうだ。

 

聞いていてオレは思った。

 

きっとヒーラーも特盛も奈種さんも辛かったんだろう。

 

自分から話したがらないのも無理はない。


「昔の話だ。もうやめようぜ」

 

「だな、ヒーラー」

 

()めたため息をつくヒーラーにオレは頷くしかなかった。

 

少々気まずい雰囲気が漂ってしまう。

 

それを消し飛ばすために特盛が話題を変える。

 

「腹も膨れたし二次会といこうぜ、特盛」

 

「レースゲームしようぜ。な、ナギィ」

 

「いいね。特盛」


特盛の強引さが今はありがたい。

 

オレは特盛と一緒にゲーム機を用意した。

 

しかし、いよいよ普段のオレ達の活動と変わらなくなってきたぞ。

 

適当に雑談したらゲームをする。

 

もはや歓迎会の体をなしてない。


牧菱さんはずっと真顔のまま。


楽しいんだか、楽しくないんだか。

 

「もちろんテトもやるよな」

 

「まあ。一応」

 

特盛はコントローラーを一つ牧菱さんに手渡した。

 

この家には無駄にゲーム機のコントローラーが多い。

 

そのおかげでオレ達は手ぶらでこいつの家ではしゃげる。

 

ゲームも起動しテレビの画面はキャラ選択に。

 

オレ達が各々キャラを決める中で特盛はまだ何も選んでいない。

 

「特盛、お前もキャラ早く決めろよ」

 

「心配ご無用」


みんな待っているぞ。


そんな中で特盛は下の方にある幽霊のアイコンを選んだ。

 

「お前ら相手におれが直接手を下すまでもない」

 

コース選択も完了して画面はレース会場入りのムービーに切り替わる。

 

「ゴースト・チェイス」


オレ達が選んだキャラがスタートを待っている。

 

その中で特盛のキャラだけが半透明でエンジンを鳴らしていた。

 

「このコースに記録されたおれの分身に勝てるかな」

 

どうやら特盛は自分の分身(ゴースト)でオレ達に挑む気だな。

 

面白い。


こう舐められちゃオレもガチでいかねえと。

 

『3、2、1、アクセラレーション』


シグナルとともにレーススタート。

 

オレはアイテムを積極的に使い相手を攻撃していく。

 

ヒーラーはテクニックを駆使し上位を死守。

 

牧菱さんはヒーラーにくっついてトップ争いに喰いこむ。

 

ただ、特盛の分身は一筋縄ではいかなかった。

 

ショートカットでみんなを出し抜くだけじゃない。

 

このコースの記録そのものだからアイテム攻撃が一切効かない。

 

むこうはアイテムを使ってこないのが救いだがそれでも強すぎる。

 

レース結果は圧勝で特盛の一位だった。

 

「ナギィ、次こそは特盛に勝つぞ」

 

「だな、ヒーラー」

 

順位は十位中オレが七位、ヒーラーが二位、牧菱さんが三位。

 

次こそはオレもトップスリーには入りたい。

 

コース選択画面に移ったときだった。

 

特盛の操作でキャラ選択まで戻った。

 

「やっぱおれも一緒にやりてえよ」

 

「最初から素直にそうしろよ」

 

なんだこいつは。


オレは呆れながらツっこんだ。

 

結局、牧菱さんの歓迎会のはずなのに普段と変わらなかった。


部活と言ってもただ遊ぶだけでその日を終える。


それが不満だったのか。


彼女は暇さえあれば淡々とヒーラーを見つめているだけだった。

ここまでお読み下さってありがとうございます。

改題についての活動報告はできるだけ早めに出す予定です。

これもオマケの一つとして楽しんでいただければこちらとしては喜ばしいです。

さて、次回更新は8/7の17:00の予定です。

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