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第二話 定期集会

こないだの撮影中に遭遇した女の子は。

まさか、うちらのチームのメンバーだったなんて。

つっても問題児集団だぜオレら。

この子なにしたんだろ。

でも、詮索するのも野暮だし。

とりあえず。

特盛のアパートで牧菱さんの歓迎会をするのが決まったし。

オレはこの子をそこまで案内する役になった。

五月のメディ研の部の定期集会は連休明けすぐ行われる。


上映用の動画の編集は一昨日の段階で済ませた。


後は放課後の部活で流すだけだ。


広い教室で部員五十人くらいの前で。


「これより五月の定期集会を始めます」


幹事である後馬さんの司会で集会は進む。


集会の席は班ごとによって分かれている。


番組や実写ドラマなどの映像制作を主としたビジョン班。


ナレーションや音声ドラマを含めた音声活動のボイス班。


動画の加工編集や他二つの班の技術協力のコンテンツ班。


班ごとの人数はそれぞれ二十人もいかないくらい。


それにプラスしてオレ達コンテンツ班サブチームの三人。


みんな姿勢を正してきちんと話を聞いている。


そんな中でオレは最前列の席でノートPCを操作している。


上映の準備のためだ。


「新入生歓迎会ではお会いできなかった皆さんの新しい仲間がいます」


作業中気になる話が耳に入って来た。


歓迎会に来ず入部早々一月ほど休部していた新入生についてだ。


彼女はコンテンツ班の席に座っていた。


牧菱(まきびし)テトラさんです。こちらに来て挨拶をお願いします」


後馬さんの呼びかけに応じて牧菱さんは前へ。


「入部早々ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」


牧菱さんは深々と頭を下げた後部員のみんなを見渡した。


うっ。


一瞬彼女と目が合う。


オレはすぐに目線を逸らした。


「牧菱テトラです。これからよろしくお願いします」


なんか苦手だ。


出会いが最悪なのもある。


それも含めて真面目な牧菱さんと一緒にいると息が詰まりそうだ。


でも、班も違うしオレには関係ない。


上映の作業も一旦終えたし普通に集会に加わろう。


これから流す動画についてあれこれ気にしてもしょうがない。


なるようになれ。


一旦オレはヒーラー達のいるサブチーム側の席へ向かった。


結論から言えば。

 

作品に対するオレの心配は杞憂(きゆう)だった。


予想とは異なる悪い意味で。


「ナギィくん。可哀そう」


「あれも柊秀太朗と襟着晴彦の趣味じゃない」


定期集会も終わり班ごとに解散している。


それに乗じ女性陣の一部がヒーラー達の陰口をしている。


放映後、部活の人達から気の毒そうな視線がオレに送られた。


「その、なんだ。元気出せよ」

 

「今度ジュース(おご)るからさ」

 

「ヒーラー、特盛、いいよ気ぃ遣わなくて」


この件は忘れよう。

 

気持ちを切り替えつつ自分のノートPCを片づけていたときだ。

 

「俺ら今日はもうちょいここに残るからな」


ヒーラーがオレを呼び止める。


メシ食いに行かないのか。


オレはヒーラー達の方を見た。


そこには彼女が。


牧菱テトラさんがいた。

 

「あれ、牧菱さんはコンテンツ班じゃないの」


「いいえ。集会中はあっちに座ってもいいとのことでしたので」

 

「牧菱、改めてサブチームとして挨拶できるか」

 

ヒーラーが牧菱さんに自己紹介を(すす)める。

 

「牧菱テトラです。サブチームの皆さんよろしくお願いします」

 

礼儀正しく彼女は頭を下げた。

 

案外いい人かも。

 

堅苦しいのはしょうがない。


それでもこれからチームの一員としてやっていくんだ。


オレが牧菱さんの印象を改めようとした時だ。

 

「一時的にこちらにいるだけです。その点はご留意を」

 

顔を上げた牧菱さんの目は鋭くなる。

 

丁寧さも相まって威嚇(いかく)しているようで怖い。

 

「すまん。昔からこうなんだ」

 

特盛が苦笑いしながらオレの肩を叩いた。

 

「知り合い」

 

「おれとヒーラーとテトは高校が一緒なんだ」

 

「あなたと一緒にしないでください」

 

「堅いな。おれとテトの仲だろ」

 

「もしかして付き合ってたのか。特盛と牧菱さん」

 

「悪趣味な冗談はやめてください、ええと」

 

付き合ってないっぽいな。

 

それはそれとしてオレまだ名乗ってなかったな。

 

「オレは樫守凪人。ナギィでいいよ」

 

「ナギィさんですね。とにかく襟着さんとは何もありません」

 

「うん。分かった」

 

ガチで不快そうなのでこの話題はやめよう。

 

オレは彼女から一歩距離を置いた。

 

「今度は俺と特盛も自己紹介しないとな」


「ヒーラー達は知り合いじゃねえのかよ」

 

「俺、柊秀太朗。柊だからヒーラーって呼ばれてんだ」

 

「おれ、襟着晴彦。(まー)(ぼー)丼の大盛が好きだから特盛なんだ」


「そうなの」


オレのときは「とりあえず特盛って呼んでいいから」だけだったぞ。

 

つか、ツっこみ所だらけじゃねえか。


漫画や洋画みたいな自己紹介を。


というか。


お前ら二人はする必要ねえんじゃねえのかよ。


などなど。


内心セルフツっコミしまくっていたら。


「それより早く部活を始めましょう」

 

すげぇ。


ヒーラー達のノリを完全スルーしている。

 

この子ヤベえ。

 

「うちらは基本ゆるくやってるから」

 

刺激しないようオレは牧菱さんに無理に笑ってみせた。


こんな感じで先にうちらのスタンスを教えておけば。


牧菱さんも鋭くこっちの活動内容にも。


指摘してこないだろう。


なにより。


一応、オレらはチームだから。


ギクシャクしたくないと思っていた矢先だ。


あまり感情の起伏のない。


のっぺりした表情で牧菱さんは。


オレの痛い所を突いてきた。

 

「ところで、ナギィさんはなぜサブチームに」

 

「コンテンツ班の課題や作業量に追いつけなくて上の人と相談したから」

 

自分で言っていて情けない。

 

後輩に聞かれたとはいえ。


正直にオレはここにいる理由を話した。


実力が未知数な後輩だからこそ。


先輩なのに舐められてしまったら。


やっぱり辛い。

 

「なるほど。それで今日の活動はなんですか」

 

「ええと」


どうしよう。


なんか、やっぱり苦手だ。

 

真顔の牧菱さんにオレは言葉が詰まってしまう。

 

するとヒーラーが。


ニコニコとオレと牧菱さんの二人に呼びかけてきた。

 

「今日は牧菱の歓迎会を行う。なっ、ナギィ」

 

「いいね。部の新歓に来てないのなら改めてお祝いしよう」

 

ヒーラーが助け船を出してくれた。

 

特盛もヒーラーの提案に乗っかる。

 

「それじゃあよう、おれのアパートでやろうぜ」

 

「だな。ここからだと特盛ん()が一番近いし」

 

「色々と準備もあるしおれとヒーラーで先行っとくから」

 

「つうわけで牧菱をよろしくな」

 

「ちょっとオレを置いてかないでくれよ」

 

ヒーラーと特盛はそそくさと部屋から出ていった。

 

マジかよ、牧菱さんと二人きりとか気まずい。

 

恐る恐る彼女の顔を見る。

 

やっぱり真顔のままだ。

 

「いつもあの二人はあんな感じなんですか」

 

「まあね」

 

「柊さん。昔はあんなんじゃなかったのに」

 

「えっ、そうなの」

 

「お二人から聞いていないのですか」

 

「聞くのも野暮かなって」

 

思い返せばオレあいつらのこと何も知らないな。

 

訳ありであいつらとサブチームになったが。


どんな理由かまではオレ詮索してないな。


でも、その方があいつらも気楽そうだし。


いいんじゃないかと。


オレは思うんだけどな。


これまでも。


これからも。

 

「とにかく行こうか」

 

「そうですね」

 

ヒーラー達の後を追おうとしたとき彼女の視線の先に気づく。

 

目線は部屋の真ん中。


上映会の反省をしているコンテンツ班だ。

 

牧菱さんはそちらに興味がありそうだ。

 

「今回の上映会において……」

 

「行こうか」

 

「はい」

 

強引だけどしょうがない。


オレと彼女は今サブチームのメンバーだから。


「絶対に見返してやる。奈種先輩」


不穏な呟きが牧菱さんから。


聞こえてきた気がしたが。


忘れよう。


牧菱さんもまた。


サブチームのメンバーなんだから。


変に詮索するのはむこうも迷惑なだけだろうし。


言及するのはやめよう。


「歓迎会。楽しみだね牧菱さん」


「はい」


彼女の返事は不愛想な相槌だけども。


一々指摘してもいられない。


そうしてオレと牧菱さんの二人は。


この場を後にして特盛のアパートを目指した。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

夏場になりましたが、

再びコロナやインフルエンザが流行っています。

読者の皆様が病気になってしまい、

大切な機会や予定などを失ってしまわないことを

切に私は願っております。

次回更新は7/31の17:00の予定です。

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