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メイキング7 恋と友情と器の大きさと

牧菱さんの言葉を真に受けたくないけど。

でも、奈種さんがオレを利用していたのは。

少し前から分かっていたけども。

それ以上のことは何も思っていないみたいだなんて。

牧菱さんの本音もどうかしているし。

ヒーラー、特盛。

先輩としてオレこの子にそんなに。

気の利いた叱り方できないぞ。

オレのアパートの部屋で。


牧菱さんは遂にオレへと本心を打ち明けた。


それはサブチームそのものに対しての。


八つ当たり染みた想いで。


聞いていて衝撃を受けたが。


ただ、それ以上に。


彼女が教えてくれた事実の裏にあるであろう。


奈種さんの思惑に。


色々とオレは考えを止められず。


絶句しかけていた。


すると、気の毒そうな眼差しで。


牧菱さんがオレに語りかけてきた。


「前回の定期集会、サブチーム内で改めて自己紹介した後のことを憶えていますか」


「ヒーラー達がどっか行って、オレと牧菱さんだけ残された時でいいかな」


「はい。その際に私が大元のコンテンツ班をどんな気持ちで見ていたか分かりますか」


「オレはキミが本当はあっちの班で活動したかったのかなと思ったんだけど、違うの」


定期集会もサブチーム内の牧菱さんの自己紹介も終わって。


勝手にヒーラーと特盛が彼女の歓迎会に先走って。


コンテンツ班の活動がはじまったあの部屋で。


牧菱さんが無言で。


むこうの活動とも言える話し合いを眺めていたけど。


きっと成果を上げて。


むこうに行きたいんだろうなって、思っていたが。


どうやら間違っていたみたいだ。


憤りが抜けだしたのか。


肩の力も大分抜けつつある牧菱さんは。


やるせなく答えを教えてくれた。


「このままだと柊さんもついでに襟着さんもダメになる。自分がなんとかしなくちゃって」


「形はどうあれあの二人を思いやってたんだね」


「続きがあって、最悪ナギィさんを辞めさせてでもーー」


「えっ、オレを辞めさせる」


思わず声が出て。


話をさえぎってしまったが。


牧菱さんも言葉に行き詰まっていたのもあってか。


三十秒ほど間をおいてから。


彼女から続きを聞けた。


「サブチームの活動をまともにして他の班をどうやったら見返せるかばかり考えていました」


「要はヒーラーと特盛がダメになったのはオレが原因ってこと」


「はい。だからさっき、奈種さんを嫌いになって欲しいかと尋ねられたとき……」


言いにくいんだろう。


沈黙を数十秒挟んでから。


牧菱さんは。


自分の気持ちをまとめるみたいに。


オレへと答えを。


力なく彼女は教えてくれた。


「はいそうですよ、とすぐにでも返しかけました」


「もしかして、オレが奈種さんを嫌いになればサブチームやめて、退部するって思ったの」


「はい。ずっと黙っていてごめんなさい」


こちらが申し訳なく感じるほどに。


深く頭を下げて牧菱さんは。


オレへと謝罪をした。


これ以上彼女を責めないためにも。


過去の行動について言及はしないが。


特盛の家での歓迎会の時や。


ミーティングで自分のアイディアが否定されてしまった時も。


前フリになる出来事を。


例えば、乾杯の合図やアイディアが否定されたことも。


会話とのあいだに挟んで。


牧菱さんは本心を隠し続けていたんだ。


本当は。


サブチームの雰囲気に馴染めないとかじゃなく。


なにも知らないオレが可哀想とかじゃなく。


アイディアが否定されて八つ当たりしたかったんじゃなくて。


強引にでも自分が奈種さんを嫌いになるように。


あの人に利用されているだけっていう事実を気づかせるために。


気持ちが反転してあの人が嫌いになるようにするために。


ずっと牧菱さんは動いていたのか。


オレが、サブチームからいなくなるようにするために。


この子は。


叱っても、怒っても、責めても。


しなきゃいけないぐらいのことをしたけども。


真っ先に出た。


オレが彼女へとかけた言葉は。


「よく言ってくれたね。言わなきゃ気付けなかったよ、ありがとう」


抑揚や起伏なく真顔で。


どこか冷たく言ったのが。


オレなりのささやかな彼女への。


ばつなんだが。


これに対して彼女は。


「ごめんなさい」


もう一度深く頭を下げて謝罪した。


声は涙ぐんでもおらず。


取り乱した態度もせずに。


真正面からオレの言葉を受け止めて。


彼女は自らの過ちを認めると。


これからの自身の在り方を伝えてくれた。


精一杯の誠意と。


オレの決意の言葉を一部借りて。


「まだ作品できてませんが、一番このチームを見直したのは他でもない自分です」


言いたいことは沢山あるが。


オレは椅子から立ち上がると。


その場に屈んだ。


ちょうどオレの顔の位置が。


牧菱さんの下げた頭の高さになるように。


そして、一旦は許しの言葉の代わりに。


オレが見せた作品の感想として受け止めて。


彼女に製作者としての返事をした。


「嬉しいな。そう言ってくれると」


今度はさっきと違って。


できるだけ優しく。


温もりを込めて。


それだけ言うと。


オレは椅子に座り直して。


ノートパソコンの画面に向き直って。


作業を再開した。


性悪しょうわると。


周りから思われてしまうかもしれないが。


後ろにいる牧菱さんは。


彼女の気が済むまで。


頭を下げていて。


いいかもしれない。


きっと、今誰にも見せられないような顔をしている気がする。


「さて」


作業を再開しようとパソコンのマウスに触れようとした時だ。


近くにあったオレのスマホに。


電話の着信とチャットアプリの通知が来ていた。


今より十分くらい前で。


ヒーラーからのものだ。


『ピザは何が食いたい』


店に着いたみたいで。


どれを頼むか聞いてきたみたいだ。


ただ、返信を見たのは今なので。


『悪いけど適当にこっちで選ばせてもらったぜ』


もう、むこうで食べるピザを。


選んでしまったようだ。


これにはオレも。


『ごめん。作業に没頭して気づかなかった。いいよ、それで』


と返信をした。


既読もすぐに着いたし。


もしかしたら、もうヒーラー達こっち来ているかも。


なんて早すぎかな。


うん。


オレは再開しかけた編集作業をやめて。


後ろを振り向いた。


まだ牧菱さんは頭を下げている。


よし。


なるべく何事もなかったかのような顔をするのは。


流石に無理だけど。


でも、笑って声かけなきゃ。


人としての度量そんなに大きいつもりないけど。


部活の先輩として。


今日だけは彼女を大目に見てやらないと。


オレもかっこ悪いよな。


「顔上げよう、ヒーラー達が見たらびっくりするよ」


さっきとはまた違う。


失敗をした友達でも励ますみたいに。


オレはできるだけ優しく牧菱さんに。


声をかけた。


「先輩……」


顔は下げたままで。


力なく牧菱さんはオレを呼んだ。


それから、ゆっくりと顔を上げた彼女は。


泣いていた。


元々今は誰にも見せられない顔だとは。


予想していたけど。


涙を流す彼女に。


「ピザ食べて元気だしてからでいいよ。牧菱さんの作品のレビューは」


「……はい」


「改善点があれば教えてね。オレも牧菱さんの意見聞きたいから」


「……はい。分かりました」


普段の彼女からは信じられないような。


涙を流しながらの。


微笑みは。


さっきまで性悪な所業を暴露していた人物とは。


思えないほどに尊かった。


うん。


彼女の悪いところを指摘するのは。


今日はやめておこう。


また今度でいいや。


それよりも。


歓迎会のやり直しじゃないけど。


オレとヒーラーと特盛と牧菱さんで。


サブチームの四人で。


小さなテーブルを囲んで。


美味しくピザを食べたいな。


そんな風に二人の到着を待ちながら。


改めて編集作業を再開した。


その間、牧菱さんは後ろで何をしていたか。


具体的には分からないが。


「おう、待たせたな。ピザのチョイスは特盛のセンスだから許してな」


「ったく。おれの味覚を疑ってんのかよ、ヒーラー」


二十分後にピザを持って二人が。


アパートにもどってきた時には。


牧菱さんも立ち直っていて。


涙は流れていなかったけど。


口元のほころびが。


彼女の微笑みは。


まだ残っていた。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

早速ですがメイキング編最終回となります。

直近の活動報告で紹介した次回の投稿作については。

次の後書きにて。

投稿日をお伝えしたいと思います。

長くなってしまい。

気づけば10月も下旬になってしまいました。

そのため。

活動報告内での投稿ルールについて。

初回分に関しては。

相違があるかと思いますが。

その点についてはお許しをお願いします。

では次回、最終話の更新は10/30の17:00の予定です。

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