メイキング5 差し入れありがとう
定期集会まで、あと二日。
サブチームのみんなが。
色々な差し入れを持ってきてくれた。
これにはオレも一旦作業の手を止めて。
お礼を言ったが。
ただ、突然ヒーラーと特盛が。
オレと牧菱さんを残してピザを買いに出ていった。
定期集会まで。
あと二日と差し迫っている夜の八時に。
約束通りに。
サブチームのみんなが。
差し入れを持ってやってきた。
「んじゃ、おじゃまあ。ナギィ」
「おいおいヒーラー、もう靴脱いで部屋上がってんのに今更挨拶かよ」
「特盛さんも鍵開いた瞬間には挨拶なしで上がり込んだじゃないですか」
ヒーラーと特盛は。
両手に大きなレジ袋を下げている。
袋の中にはお菓子やエナドリに栄養ドリンク。
食べ物以外にも。
おでこに貼る冷却シートや。
ホットアイマスクなんかも。
入っているみたいだ。
ガチでありがたい品物ばかりだ。
集中して編集作業していたけど。
みんなが来たとなれば。
話は別だ。
いつもみたいに遊ぶわけじゃないから。
雑談ですら。
ほどほどかもしれないが。
でも、やっぱりみんなの優しさが嬉しいから。
話もしたくなる。
「ありがとう、みんな」
お礼を言って。
五、六分だけ他愛無い話をすると。
ほとんど出来上がった作品を。
早速オレはみんなに見せた。
『まだ開いていない図書館を通り過ぎる。学校まではまだまだ』
特盛のナレーションで物語は進んでいく。
ヒーラー、特盛、牧菱さんの通学路を。
紹介していくストーリーを。
『行こう。思い出の場所に』
画面にヒーラー達の母校が映る。
そこから三人各々(おのおの)の思い出の場所を。
駅や市民公園に博物館へと場面は移行していく。
本当は牧菱さんのアーケード街のホールも使いたかったけど。
『ワガママで申し訳ないのですが、あの場所の画像とかやっぱり使わないでくれますか』
本人からのリクエストもあって。
言い方悪いけどボツにしたものの。
後悔はない。
あの日、わざわざ時間や手間を費やしてまで、なんて。
考えるのも。
それこそ時間の無駄なだけだし。
牧菱さんにとっては。
いい意味であまり人に見られたくない。
大切な場所なんだと。
自分に言い聞かせてオレは納得した。
この件に関してはヒーラーと特盛も了承しているし。
他の動画や画像、思い出を。
はめ込めばいい。
こういうオレの考えを。
部のこだわりの強い人達は。
批評するかもしれないけど。
でも、牧菱さんの意思を汲み取ってあげるのが。
一番大事だと思う。
と、なに一人で考えこんでんだ。
気づいたら。
三分くらいの作品も。
後半のパートに入ってんのに。
サブチームのみんなもせっかく見てくれてんのに。
『あの頃通った道を経て今僕はここにいる』
にしても、特盛の朗読というか。
穏やかな声は。
本当にこの作品にしっくり馴染んでいるな。
普段のあいつとのギャップがすげえ。
と、とと。
鑑賞に集中しないと。
画面はヒーラー達の地元から。
大学へと景色が変わって。
サブチームで牧菱さんを除く各々自室が映し出されていく。
みんなの実家を映さない理由と同様に。
プライバシー的な観点で。
流石に牧菱さんのアパートの部屋は作品に利用しないことにした。
そして、ラスト。
ヒーラー達の高校をバックにしたサブチームの集合写真。
『久しぶりだな、襟着に柊』
あの撮影の日、駅で偶然にも。
特盛の担任の先生にばったり出会した。
白髪まじりの四十代くらいのおじさんで。
趣味の釣りに行くために。
駅を訪れていたらしい。
今でもあの高校で教職をしているようだったので。
ダメもとであの校舎を映したい件を相談してみると。
『中入るのはダメだけど敷地の外から校舎映すくらいならいいよ』
あっさりOKをもらって。
『というか、そういうので襟着が柊と一緒に頭下げるなんてな。信じられないな』
二人の高校時代の関係性を思わせる言葉を聞けて。
『大学の部活の制作とかで見せ合うだけでしょ。なら、うちから了承をもらったってしときな』
随分とフランクかつ親切に対応してくれた。
ありがとうございます、と。
お礼を伝えて。
駅の撮影が終わった後に。
距離も近かったので。
あの学校がフレームに収まるところまで。
写真を撮りに行ったもんだからな。
てか、また気が逸れてた。
いろいろ振り返ってしまっていた。
でも、まあ、とにかく。
試作品って感じで。
一通りは出来上がっているし。
差し入れだけじゃなく。
作品のブラッシュアップのためにも。
ヒーラー、特盛、牧菱さん。
みんな。
感想や意見を。
なんでもいいからアドバイスに。
アイディアを。
オレに与えてくれ。
「みんな、作品どうだった。良かった、かな」
ここでヒーラーと特盛は。
冗談混じりに褒めてくれるか。
労ってくれるんだろうな。
なんて、予想していたが。
それは二人に失礼だと。
すぐに気付かされた。
「俺の通学路のパート、自転車のベルの効果音より、次の画像に今より早くスライドさせた方が疾走感が出る気がするな」
「えっ、ああ。ありがとうヒーラー」
「BGMはこれ一種類だけ」
「ん、そうだけど。懐かしい気もするし下手にいくつも使うのはダメかなって」
「ピアノのノスタルジックな曲でいいチョイスだが、ラストはオルゴール調のを使うといい」
「ああ、分かった」
「音色も変わって、今は過去のシンボルとして高校時代を映しているんだって暗喩もできるしな」
「お、おお。いいな。そのアイディア」
二人はとても真面目に。
鑑賞した作品の感想とアイディアをオレにくれた。
あまりにも率直すぎて。
冗談混じりに言ってくるだろうな、と。
予想していたオレが。
恥ずかしいくらいだ。
ダメ出しじゃなくて。
本当に作品を良くするための。
ブラッシュアップだ。
だからこそ、気になったのが。
牧菱さんがなにも意見をくれなかった点だ。
自分から言えないのかな。
例のアーケードのホールの件を。
気にしているのかな。
だとしたら、一人の先輩として。
オレから声をかけないと。
「牧菱さんは何か感想とかないかな。なんでもいいよ」
「いえ、私は今のところは思いつきません」
いつもの。
なにを考えているのかよくわからない真顔で。
返事をしてくれた。
どうしようか。
怒っていたり、不快な思いをしているわけじゃないのは。
察せるのに。
よく分からないが。
なにか言いづらい理由でもあるんじゃないか。
正直、この子が一番作品に対して。
色々と指摘やアドバイスをくれると思っていたから。
なおのことだ。
「にしても、ナギィさん台所汚いですね。見ていられないので片付けてもいいですか」
「え、いいけど。あっ、ゴミ袋入れる前にちゃんと拭いてね」
ダメだ。
やっぱり、この子がなにを考えているか分からん。
とりあえず。
ビニール手袋とゴミ袋にキッチンペーパーを渡してあげたものの。
無言で牧菱さんはスーパーの弁当を洗い始め出したから。
コミュニケーションを取ろうにも取れない。
仕方ない。
牧菱さんには悪い気もするが。
編集にもどろう。
そんな時だ。
「なあ、ナギィ。ピザ食いたくねえか」
「うお、急になんだよヒーラー」
「ナギィ、前にピザ好きって言ってたろ」
昨日、ポストから出したピザ屋のチラシを。
ヒーラーはニコニコと。
オレに見せびらかしながら尋ねてきた。
さっきまでの。
率直に作品への指摘をしていたお前は。
どこに行ったんだ、と。
内心思うくらいには。
リアクションに困る。
「言ったけどさ、なんか唐突だな」
「今からピザ屋まで行こうぜ、なっ特盛」
「おう、いいな。そうと決まりゃ、ヒーラー早く行こうぜ」
「別に宅配でもよくね」
「直接店に行った方が安くなるし、金なら俺と特盛で出すから気にするな」
「あっ、ちょっと待て二人とも」
思いつくや言うや。
ヒーラーと特盛はオレと牧菱さんを残して。
部屋から出ていった。
気まずさはない。
というより。
これと似たようなシュチュエーションを。
前にも味わったような。
そうだ。
定期集会の後に牧菱さんの自己紹介が済んで。
歓迎会をする前のくだりだ。
勝手にヒーラーと特盛が突っ走って。
オレと牧菱さんを集会場の部屋に残していったっけ。
ただ、鈍感なオレでも分かる。
ヒーラーと特盛がいたら話しにくいことを。
彼女が話せるようにするために。
二人はここから出ていったんだ。
それを答え合わせするかのように。
水の流れる音が止んで。
安いビニール手袋を外す音も聞こえてきた。
ああ、あの子が洗い物をやめて。
こっちに向かって来るな。
白々しいけど。
予め後ろを振り向いて待っていてあげよう。
「ナギィさん」
予想通り牧菱さんは。
椅子に座るオレの方へとやってきた。
そして……。
「ごめんなさい」
彼女はいきなり頭を下げてきた。
理由はなんだ。
あのアーケードのホールの件ではないと思うが。
それでも。
この子を気負わせないためにも。
言わなくちゃ。
「どうしたの。牧菱さんはなにも悪いことをしていないよ」
「いいえ、謝らせてください。例え自己満足だとしても。あなたの作業の手を止めてしまっているとしても」
「……大丈夫だよ。ちゃんと聞くし、時間もまだあるから。教えてくれる。なんで謝っているのか」
「奈種さんについてです」
「なんで、奈種さんが出て来るのかな」
突拍子もないけど。
否定をしちゃいけないのは分かる。
だから、牧菱さんの話を。
きちんと全部聞かなきゃ。
「あの人を見返そうとばかり考えていた私と違って、ナギィさんは見直してもらおうと頑張っているからです」
脈絡はまだ掴めないけど。
なんとなくだけど。
あの日、定期集会が終わって。
コンテンツ班の方を眺めていた彼女と。
関係しているだろうなと。
オレは直感した。
ヒーラー、特盛。
このタイミングでこの子の本音を。
聞かせるってのは。
とても大事なことって。
思っていいんだよな。
だって、顔を上げた牧菱さんの表情は。
いつもの堅い感じと違って。
本当に申し訳なさそうなもんだったから。
話を聞いてあげなきゃって。
どうにかしてあげなきゃって。
心が突き動かされる顔を。
この子は今している。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
読者の皆様は。
差し入れでもらって。
嬉しいものはなんでしょうか。
やはり、お菓子や軽食のおにぎりやパンも定番ですが。
某おでこに貼る冷却シートや。
某ホットアイマスクなどの。
現代疲れをとってくれるアイテムもありがたいですよね。
さて、次回の更新は10/16の17:00の予定です。