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道を引き返そうとしたんだが、ヒューリは言うことを聞かなかった。
俺の手を引きはがして、争いごとの起こっている方向へと走っていく。
彼女の背中を追いかけるしかなかった。
「おい、ヒューリ!」
「人が困っているんだ。助けるのが当たり前だろ!」
「馬鹿、殺されるぞ!」
「殺される? 知るかそんなもん!」
争いごとの起こっている場所へ到着する。
ダガーを持った男が、丸腰の男に馬乗りになって、顔面を攻撃している。
ゲームということで出血などは無い。だけどHPバーはごりごりと削れていた。
「おらおら、俺とお前じゃあレベチ過ぎるんだよ! ぴえんと泣いて死んでいけ!」
「や、やめ! やめてくれよー! 僕はまだ、このゲームに来たばっかりでさあ!」
「おらおら金を落とせ。死ーね! 死ーね!」
「い、痛! 痛い! 痛いよおおおお! あぁぁぁぁああああ!」
ダガーを持った男のHPバーを見る。悦名という名前のようだ。
悦名に攻撃されて、いま死んでいった男の名前はアキトシである。死んだと言っても、またこの村のどこかでリポップするのだろうけど。
周りにいるプレイヤーは、自分が巻き込まれないようにと、遠巻きに眺めていた。
ヒューリは怒りの形相で両手を突き出した。
スキルを唱える。
「突風!」
「うわっ!」
大風があり、悦名の体が吹き飛ばされていく。地面を転がって止まった。
ヒューリはがっかりしたように眉を寄せていた。アキトシを助けることは叶わなかった。
「くそ。間に合わなかったか」
向こうでは悦名が立ち上がっている。
こちらに向かって歩いてきた。
「おいお前。俺に殺されたいようだなあ!」
「殺す? 誰があたしを殺すって?」
「俺がお前だよ。ぴえんと言わせてやる」
「ぴえん? 何だその言葉? かかって来いよ。お前を成敗してやる!」
「成敗? 正義の味方ってか? くっだらねえったら」
悦名が走り出した。
ヒューリはもう一度両手を突き出して、「突風」と唱える。しかし何も起こらない。
馬鹿、スキルにはクールタイムがあるってのに。
「へへ、お前も初心者だな! 俺が殺してやるぜえ!」
「くそ!」
スキルが発動しなくて困ったような声を上げるヒューリ。
俺はすさかず二人の間に割り込み、スキルを唱えた。
「落とし穴!」
「なんだ!」
ズボンッと音がした。
落とし穴に悦名が落下する。
俺はヒューリの左腕を掴んで、ひたすらに走った。
「馬鹿! 逃げるぞ!」
「おい! まだアイツを倒してねえよ!」
「いまの俺たちじゃ無理だ!」
道をひきかえしてひた走る。
ヒューリは、今度は腕を振り払ったりしなかった。
リットエル村の端っこまでたどり着き、二人でぜいぜいと息をする。
俺は言った。
「馬鹿! ヒューリ。俺たちは死んだら生き返らないかもしれないんだぞ!」
「は? そりゃあ、死んだら誰だって生き返らないだろ?」
「違う。これはゲームだ! 他の連中は、ゲームをプレイしているだけだから、死んでも現実で死ぬ訳じゃないんだ!」
「意味が分からん。詳しく説明してくれ」
俺は説明した。
俺たち以外のプレイヤーたちは、現実からこのゲームに遊びにやってきているということ。
死んでも、また村のどこかにリポップできるということ。
そして、転生者である俺とヒューリは、死んだらどうなるか分からないということ。
彼女は言った。
「まじか?」
「大マジだ」
「あたしたちだって、リポップって言ったっけ? できるんじゃないか?」
「そうかもしれんが。じゃあ、ヒューリは一度死んでみるか?」
「……それはちょっと」
「だろ?」
それから俺と彼女は話し合い、元々の目的であるレベル上げをすることにした。
村の南門から出て、草むらのフィールドに出る。
そこで待ち受けていたモンスターとは――。