レムリアの一面
「実はマッガクロコダイルの革が手に入りまして。」
私はそれを聞いた途端、ついにこの日が来た!と内心とても喜んだ。
もともと貴族が買いそうな高級品には興味が無かった。
しかし、商業ギルドへ足を運んでくるのは商人だけではない。
貴族連中も、家の誇示のため多額のお金を出資し、良い品を買おうとされる。
そうした中、綺麗な女性の、貴族出身であろうその人が目に入った。
その足元は、ワニ革で作られた靴。
一目見たとき、その独特の紋様がとても綺麗に思え、私も欲しい!と珍しく思ってしまった。
その日から、次回ワニ革が卸される時を待っていたのだ。
まさか、商人になって日がそんなに経っていない冒険者がそれを持ってきたときには驚いた。
しかし、千載一遇のこの時ほど、嬉しかったことはない。
「マッガクロコダイル3匹になります。明日の朝、持ってきますね」
なんと、3匹も卸すのか!ただでさえ一匹でも十分な価格になるというのに!
しかし卸される量が多い分、競争率は下がる。
商品が店に出されるまでの時間はその商品の品質に関わってくる。
ギルド内では、いくつかの部門に分けられており、素材、特に革素材に関しては革職人たちが集まって結成された部門がある。
おって進捗状況を見れば、いつ、どこで出されるかも分かるかもしれない。
「はい、了解いたしました」
「あとそれと、魚とかって、扱ってますかね?」
魚。もちろんワニが討伐されたのであれば当然、魚も卸されるだろう。
この人はついでとばかりに魚を買い取ってほしいそうだが、実際はワニ肉よりも魚の方が主流だ。
どこか、私たちの生活圏とは違う感じがする。
そんな風に感じながらも、話を伺わなければならない。
「はい、鮮度が重要になってきますけれども、卸されるのであれば伺います。」
なによりも、魚というものは傷みやすい。海洋魚なんて以ての外だ。
そこのところもちゃんと考えて卸すと言っているのだろうか?
「明日の今頃、持ってきますね」
心配はいらなさそうだった。その日のうちに持ってくるのだろう。
普通、魚は個人が吊り上げたものをその日のうちに家で頂く。
この人はそんな常識を知ってか知らずか、ギルドに卸すといっている。
まったく卸されない品ではないが、優しい人なのか、ただのバカなのか。
もちろん、食べたくても食べられない人がいることは分かっている。
ただのお人よしなのだろうか。不思議な人だな。
そんなことを考えつつ、新規の商人には心配が付き物だなあ、と思うレムリアであった。
「あ!帳簿ちゃんと付けてくださいねぇ!」
聞こえているのかいないのか。その人はそのまま、ギルドの門を後にするのだった。