ワニ退治
転生から8日目。
今日の朝食を頂き、宿屋の裏に周って昨日のボア革を回収する。
「ミゲルさん!貰っていくよ!」
「あいよぅ!」
「今日もがんばっておいで!」
女将さんも声を掛けてくれた。ありがたい。
商業ギルドへ行き、服屋のマイクさん宛てにボア革を卸す。
昨日の6体で銀貨6枚だ。
順調に稼いでいる。これでよっぽどの事が無ければ食いっぱぐれないだろう。
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今日はレッドボア以外の魔物討伐にしようと思う。
定期的に卸せるように、狩り続けても何かと問題になりそうだし。
そんな風に思いながら冒険者ギルドの掲示板を見ていると、鰐のような絵が描かれているものがあった。ワニか。革とかは高く売れるだろうか。期待大だ。
依頼書を外し、カウンターへと持っていく。
ミラリスが受け付けていた。
「おはようございますワイド様!クエスト受注ですか?」
「このクエストなんですが、討伐対象の魔物について教えてくれませんか?」
「はい!これはですね、マッガクロコダイルといわれる水棲の魔獣です!ここから西にあるミーヌ川の川辺で見られます。個体数が増えてきて、通行する際と、漁業の被害が出ているので、ギルドからの依頼になってますね。
このクエストを受けるんですか?ワイド様、最近はレッドボアをいっぱい討伐してるみたいなので、ちょうどいい相手だとは思うんですけれど、十分気を付けてくださいね。
嚙みつかれたら最後まで離さない危険な魔獣です。」
「そうか、ありがとう。一体だけでもやってみて、様子を見るよ!」
沼鰐か。ワニなんて動物園以外見たことない。まあ日本にいるなら当然か。
俺は依頼書片手に、ギルドを後にした。
さて、どうせ川に行くんなら釣りもいいかもな。
釣り具はどうしようかと思ったが、釣り竿と糸は現地で調達しよう。
残るは餌と針だな。
「そうだ、パン屑でいいか!」
俺はロング亭に寄り、女将さんと旦那さんに提案をした。
「こんちわー、パンあります?」
「どうしたんだい、いきなり!」
「実は、ミーヌ川?に行く予定がありまして、そこで釣りでもしようかなと思ったんで、餌にパン屑が欲しいんです」
女将さんは「えぇ?」といった感じで訝しんでいた。
「魚がパンを食べるのかい?」
あ、この世界ではそこまで知らないんかな。
「虫でも取ってやりゃいいんじゃないかね?」
「ほら、パンの食べカス、あるじゃねえか」
ミゲルさん、ナイス!
「ああ、確かにねえ。捨てちまうのももったいないとは前から言ってたけど。
まさかあんたが捨ててくれるとはねぇ」
捨てに行くわけじゃないんだけどね!上手く有効活用してあげるよ!
「ちなみに、取った魚も買い取ってくれますか?」
「ああ!もちろんさね!魚なんていつぶりだろうね!」
喜んで貰えてるみたいで何よりです。
次に、雑貨屋に立ち寄った。
釣り針、置いてあるかなあ。
「いらっしゃい」
俺は店内を歩いて回る。それらしいものは無かった。
「メアリー。釣り針って置いてある?」
「ありますよー」
メアリーが奥の方へ行く。持ってきてくれた釣り針は骨で作られていた。
なるほど!釣り針は骨で作られるのか!
「あのー、ポイズンスパイダの件はどうでしょうか・・・?」
メアリーが上目遣いで伺ってくる。
「ああ、ちょっと待っててね、目途がたったら取ってくるよ!」
俺は確かにそう思っている。できれば取ってきてやりたい。しかし今はその時ではないのだ!
「この釣り針、いくら?」
そう言うとメアリーは何かもじもじしながら、「そ、その釣り針は差し上げます」と答えた。
「何で?商品じゃないの?」
「それも、試作品だったんです」
そうだったのか。でも、なんか引っ掛かる。
「実は・・・実用品として売り出す前に、他店が鉄製で売り出してまして・・・」
「なるほど、品質からしてお客さんがそっちに流れちゃったんだね」
世知辛い。可哀そうなことだ。
「魚、釣ってきたら一緒に食べような・・・!」
「え、あ、はい。ありがとうございます・・・」
俺にはこんなことぐらいしか出来ないが、腹は満たしてやりたい。
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西門から出て道沿いに手押し車を引いていく。北門から押すよりも道は平坦でとても押しやすい。
途中で会ったスパイダを狩る。糸確保だ。
川までは約一時間ほど掛かった。
マッガクロコダイルは川岸に堂々と寝ている。個体数が多く、狩るには少々難しい。
一匹ずつならいざ知らず、4匹も5匹も相手にした場合、四肢を噛みつかれそのまま胴体とさよならしそうだ。恐ろしい。
比較的川から陸まで通りやすい場所を見つけ、川に降りていき、集団から外れた個体から討伐することにした。剣を構えて近寄る。気付いていないようだ。しっぽの先をツンツンしてやりたいぐらいだ。
「ツンツン」
途端にワニは振り向き、その顎を開いてこっちに走り出した。
「わーーー!!!」
ヤバい!殺されるー!!!
その開いた大口に、炎魔法を叩き込む。
「ファイヤー!!」
マッガちゃんは顎を閉じ、炎に噛り付いた。バカめ。
何が起こったか分からないらしく、身体をローリングしながら藻掻いている。
暫くすると動かなくなった。なんか、可哀そうなことをしたな。
俺は慎重に近寄って、またツンツンした。
「ツンツン」
ピクリともしない。
一体目のマッガちゃんは、容易く討伐できた。
「よいしょっと」
その巨体に見合う大きなしっぽを抱きかかえ、手押し車の方へ向かい詰め込んでいく。
でっかいなー。
同様に、二体目三体目もその大きな口に炎を突っ込み、窒息(あるいは中毒)させ討伐した。
しかしコートの積載量がなあ。
仕方がないので魚も取れるかと思い、水深の深そうな所を探し歩いた。
「さてと」
俺は手頃な木の枝を拾い、スパイダの腹を取り出して糸を巻き付けた。
補強作業だ。べたつく糸は腹の出糸突起の内側の出糸管から取り、べたつかない糸は、外側の出糸管から出た。なにこれ、すごい。
補強された釣り竿に、釣り糸、そして針を繋ぐ。そして大事なのが重りだ。手頃な小石、砂利の大き目の方がいいだろうか、これがないと餌が沈まない。
「よし、釣るぞー!」
こうして、俺のゆったり異世界釣りが始まった。
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「いっぱい釣ったなあ、おい」
宿に戻り、裏手で今日の成果をミゲルさんと女将さんに見せた。
「まあ、こんなに!あたしゃ幸せだよぉ!」
そんなに魚が好きだったんだろうか?
内容はこうだ。
マッガクロコダイル3体、カラシウスと呼ばれる魚が25匹、チンカと呼ばれる魚が20匹、ローチと呼ばれる魚が18匹だ。
ワニを覗けば63匹。ミゲルさんには頑張って捌いてもらわないとな。
「こいつの革と魔石、いつも通り乾かして置いておけばいいか?」
「はい!お願いします!ミゲルさん!」
ミゲルさんは何でも捌けるんだなあ。尊敬します!
「あたしゃ、パンで魚が釣れるとは知らなかったよ!あんた物知りだねえ!」
「いやあ、ものは試しでやってみただけですよ!」
苦しい言い訳だったか?それでも、魚を目にして喜んでる女将さんがいて良かった。
「ちょっと待ってなよ、今お金持ってくるから!」
いい商売させて貰ってます!
渡されたお金は銀貨28枚と銅貨3枚だった。
「じゃあ、これから両ギルドへ行ってきますね!」
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宿の一階にある食堂で、いつも食べに来ている常連たちが話をしている。
「最近、ミス・ロングが機嫌いいねぇ」
「ほれ、若いのがボア肉とか仕入れているみたいだよ」
「ああ、それで」
「ここにくる客足も、噂が広がって多くなってきてるしねぇ」
「わしらには胃が堪えるが」
「なに、今日は魚が入ったらしいよ」
「そいつは嬉しい!いつぶりだろうか」
「そうだなあ、川にはワニがいるわで危なくて釣りにも行けてないから・・・」
「なに!ワニ肉も入ったそうじゃ!!」
「なんじゃって!?そいつはいい!!」
「あの、淡泊な歯ごたえ、また食べれる日がこようとは・・・!」
「生きていても良いもんじゃねぇ」
「まったくだ!旨いもん食えるのはしあわせじゃあ」
たいそう喜んでる声がある中、一人だけ気に食わなそうな声がした。
「チッ、調子乗りやがって・・・」
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冒険者ギルドでは、割の合わない報酬額だった。
銀貨3枚である。ミラリスには申し訳ないが、これなら商業ギルドの方がまだいい値段をつけてくれるんじゃないかと思うぐらいだ。
商業ギルドへ入って、カウンターにいるレムリア嬢に声を掛ける。
「本日はどのようなご用件で?」
なんか、不機嫌そうですがどうしたんですか?
「ええ、実はマッガクロコダイルの革が手に入りまして。取引先はこれといって無いんですが、こちらのギルドで買い取って貰っても大丈夫ですか?」
「!?・・・ええ、構いませんよ?」
今明らかに驚いた顔した。しましたよね?
「マッガクロコダイル3匹になります。明日の朝、持ってきますね」
「はい、了解いたしました」
「あとそれと、魚とかって、扱ってますかね?」
おっと、レムリアさんが真面目な顔になりましたよ。
「はい、鮮度が重要になってきますけれども、卸されるのであれば伺います。」
明日は、また魚釣りかなあ。
「明日の今頃、持ってきますね」
さすがにあの量を、ロング亭に卸すのはミゲルさんが大変そうだ。
今後は商業ギルドで買い取って貰おう。
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ロング亭での夕食は、ワニ肉だった。
ワニ肉なんて初めて食べる。話によると、鶏のように淡泊だとか。食べやすいとも言われていて、正直おいしそうなんですが。
「はいよ!今日のワニ肉さね!」
主食の穀物粥に、ワニ肉のステーキ!なんともおいしそうだ!
「ワニは焼くだけじゃなく、煮込み料理にも使えるんよ!」
なるほど、明日は煮込み料理ですか!
「楽しみです!」
「そりゃ良かった!あんたの手柄だからね!」
女将さんが食堂のお客さんに向けて大々的に伝えた。
「ワイドさんに乾杯!」
「「ワイドさんに乾杯!!」」
俺は皆から祝われた。旨いもん食ってみんな幸せそうだった。
夕食を食べ終わって部屋に戻ろうとしたところ、女将さんに呼び止められた。
「ほら、これ先に渡しとくから!ワニの魔石!」
「ありがとうございます!」
マッガクロコダイルの魔石は、薄い水色に輝いていた。
正八面体を縦に伸ばしたような結晶体で、鋭利な頂点は指をやるといまにも切れそうな鋭さがあった。
この魔石でポーションを作るとまた違うんだろうか?