レッドボア討伐
転生から6日目。
俺は宿の朝食を食べ終わると、荷車を借りるべく冒険者ギルドへ向かい、貸し出し料銀貨3枚を払って荷車を確保した。
二輪の手押し車で、正直持っていくだけでも大変そうだ。
まあ、動き出せば大丈夫だろうと楽観的に考え、今晩のボア肉ステーキを夢見るのだった。
今日、討伐するのはボアの中でも赤猪と呼ばれる種で、貴族様達にも食される良い肉なんだとか。
出現場所は北門の草原を抜けた丘、都市アヤゴンと都市アンノークの間にある丘陵地帯に生息しているらしい。
正直、丘を手押し車で移動なんて無理な話だが、そこはなるべく平坦な道を行くかなだらかな道を進んでいこうと考えている。
なにせ豚肉といえども、肉は肉だ。体力があるうちに確保しておきたい。まあ猪肉なんだけれども。
木々と草が多い茂る中、ちょうどいい開けた場所に手押し車を置く。
後は魔獣を狩るのみだ。
もちろん、薬草も採取していく。ここらへんの薬草にはロスマリヌスという種類が存在するらしい。小さく細長い葉に、甘い爽やかな芳香があり、料理にも使われるもので、農民にも市民にも貴族にもよく売れるそうだ。
採集袋にロスマリヌスを入れていく。
こうして集中して採取するのは時間を忘れて没入できる。
30分頃たった頃だろうか。ゴソゴソと茂みが揺れる音がする。
俺は剣を構え、四方を警戒した。
フゴッ・・・フゴッ・・・
猪だ!
ここで一匹仕留めたい。俺は剣を上段に構え、鼻が見えた瞬間振り下ろした。
ブヒーッ!!
奇襲を掛け、驚いたボアが悲鳴に似た鳴き声を出す。
そして冷静を取り戻したのか、怒った調子でこちらに向くと、毛を逆立てて突進してきた。
「くそっ、思ったよりタフだし、でかいぞ!」
突進した勢いでこちらに来るのを、タイミングを計って横に躱し、躱し際に四足の一本を薙いで切った。
途端に体勢を崩した猪に、その眉間を狙って面を打ち続けた。
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ・・・
暴れまわっていたボアは、次第に動きが小さくなった。そのうち動きが無くなり、ぐったりと地面に倒れ伏した。
「・・・ふぅ。こりゃ大変だ。」
気を抜いた瞬間にこちらがその牙にやられそうだ。
そして、後から気が付いたんだが、毛色は赤だった。ビンゴ!!
そんな感じで、ロスマリヌスを採取しながらレッドボアを討伐していった。
「今日のところはこれでいいだろう。初めてにしては上出来かな?」
俺はレッドボア4体をコートに積み、その牙と薬草を入れた採集袋を置いて都市アヤゴンへと帰路についた。
日はもう暮れかかっている。レッドボアを探すにも大変だった。
どちらかというと待ち伏せしている方が多かったんじゃないだろうか?
群れに合わなくて良かった。もし囲まれていたら牙と蹄でズタズタにされているだろう。
しかも雑食性だろう。もしかしたら食われていたかもしれない。
腕も振り続けて重かった。しんどい。
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北門に入り、まず始めにロング亭へと足を運んだ。
「ロングさん!ボア肉を仕入れたよ!」
店の前で女将さんが目を丸くしていた。
「う、裏に回っておくれ!」
俺は言われた通り店の裏に回った。すると旦那さんのミゲルさんが驚いた顔をしたかと思うと、ニコニコしながら近づいてきた。
「あんた、立派なのを狩ってきたねぇ!」
女将さんも近寄ってきて、レッドボアを品定めするようにじっくりと眺め出した。
「これで、ボア肉も食べれますよね!」
俺は嬉々として言った。
「もちろんさね、今日は銅貨3枚にまけとくよ!」
「それで、毛皮とかはあんたに返せばいいか?」
旦那さんも話に加わってきた。
「そうですね、毛皮も売れれば売りたいので、それでお願いします!」
「魔石もあるんだが」
「魔石も、ギルドで換金します!」
「そうかそうか!」
すると女将さんが、
「魔石は鍛冶屋や、武器屋にも卸せるよ!そっちの方が儲かるかもね!」
と助言してくれた。
「ありがとうございまっす!」
「しかし、立派なボアだねえ!」
それ、最初に聞きました。でもこんなに良く言ってくれるもんだから、俺も嬉しくなってくる。
「これ、香草なんですが、これも付けときます」
そう言って、ロスマリヌスを3株ほど女将さんに手渡した。
「まあ!いいの!?ありがたいわあ」
ミゲルさんが、魔石は夕食が終わったら渡すと言ってくれた。毛皮は削いだ後、吊るして乾かすんだそうだ。手を使わせてすみません。ありがとうございます!
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ロング亭を後にして、コートを引きながら冒険者ギルドへと向かう。
コートはギルド裏に返し、ギルド内へと入る。
「ミラリスさん、クエスト完了しました!」
採集袋を渡すと、奥に持っていき精算される。
「今日はレッドボアの討伐お疲れさまでした!薬草の採取も終わらせたんですね!」
「レッドボアって、結構大きいんですね。思ってたよりも一回りも二回りもしてびっくりしましたよ」
「レッドボアは、定期的に討伐しないと畑を荒らしたりしますし、最悪人が襲われたりするんですよ!」
やっぱり、人間も食うんか。
「はい、精算が終わりました!レッドボアが4体、サービアが100株、ロスマリヌスが20株で銀貨7枚と銅貨19枚です!」
「・・・ちなみに、レッドボアは一体当たりどのくらいなんですか?」
「銀貨1枚です!」
思ったよりも少なかった。
日本円で言えば2千円か。
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俺は疲れた身体を癒すべく、ロング亭へ夕食を食べに戻った。
すると俺の姿を見て、女将さんが革袋を片手に寄ってきた。
「あんた、今日はありがとうねぇ!これ、貰ってよ!」
そう言って手渡されたのが、銀貨4枚と、銅貨2枚だった。
そう言えば、行商許可証は見せたんだっけか?
俺は許可証を女将さんに見せる。
「初商売が、ロング亭で良かったです!また、仕入れますね!」
「あらぁ、あんたホントに商人登録してたのねぇ!見込みあるわ!」
ロング亭が、いい商売相手になりそうだ。
「そうそう、ボアから魔石を取ったんだったわ。はいこれ」
「ああ、ありがとうございます!」
4つの赤い魔石を渡してもらった。赤、というより深紅に近いかな。
俺は初めて見るレッドボアの魔石をまじまじと見る。
武器屋で見た魔石とも違うようだ。
「女将さん、ボア肉は週一ぐらいの頻度でいいかな?」
すると女将さんの笑顔が更に深くなった。
「いいのかい!?助かるよ!」
「明日、またレッドボアの討伐に行くから、明日もお願いしますね!」
「楽しみにしてるわぁ!」
そう言って背中をバンバン叩かれた。こういうのも悪くないね。
「ボア肉のステーキ出来たよ」
奥から声が聞こえる。ミゲルさんだ。
「あいよ!あんたの注文、持ってくるね!」
やったぁ、肉だ!俺は舌鼓を打ちながら、ボア肉ステーキを待つのであった。
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夜になったが、武器屋を覗いてみると、スミスさんがまだ居るようだった。
店に入ると、「もうすぐ閉めるよ」と声を掛けらえた。
「おお、あんたか。生きてるようでなによりだ」
「今日はこれを買い取ってもらいたくてね」
「なんだ?魔石じゃねえか!おまえ、魔獣を4体ヤったのか!?」
スミスさんはよほど俺の腕を過小評価してるみたいだった。失礼な!
「ふうん、見たところレッドボアの魔石っぽいな。どれ、こっちで買い取ってやろう。」
俺は、魔石を一つ手に取って、「これは記念に取っておきます」と伝えた。
「あんたも変わった人だなあ。まあ、いいけど」
スミスさんはカウンターに銀貨6枚を置いた。
へ?こんなにするの?
「どうした?魔石3個で銀貨6枚だよ」
「ちょっと待ってくれ!魔石って、討伐報酬の2倍するの!?」
「まあ、貴族用の装飾品になるんだから、そんくらいするさ。加工すれば、更に付加価値が付くさ」
「ど、どんくらい?」
「そうだな、この魔石一つでカットと磨き次第で・・・金貨1枚いくかな」
「なんとっ!?」
「まあ、職人の腕次第さ。なに?興味あんのか?」
魔石も金になるんだなあ・・・
俺はカウンターの前で呆然と立っていた。
「おい、店を閉めたいんだが!?」