採取クエスト
俺は絶望した―――
あんなにがんばって銀貨2枚と銅貨13枚。
今にしてみるとヘクサーの様子にちょっと違和感を覚えたんだ。
宿代だけで銀貨5枚。食事を入れると銅貨15枚。
ここの世界の連中は朝と夕だけ食べるそうだが、俺はできれば昼も食べたい。
今は金もあるが、このままだと将来尽きてしまう。
初日であるからそこまで心配しなくてもいいんだろうが、俺はもうちょっと小金になるかと期待していた。
「はあぁーーー」
俺はげんなりしながら冒険者ギルドのテーブルに掛けた。
クエスト見てもよく分かんないしなあ。文字読めないしなあ。
するとしばらく経ってから、ミラリスが手に何かを持ってやってきた。
「ワイド様~」
「なんですか・・・」
話を聞くと、より難易度が小さいものを紹介してくれるようだ。
「こちらの依頼なんですけど、薬草採取とかはいかがでしょうか?労力はさほど要らないですし、単調な作業が主要になっています」
「薬草・・・そうですね、それもいいかもしれません・・・」
「では!こちら、薬草3種の採取をお願いします!」
俺は疲れた身体をミラリスの方へ向け、説明を聞いた。
薬草の内容はミンシア、フレッシュミンシア、サービアだそうだ。
どれも葉に指を擦るといい香りがするらしい。薄荷とかセージみたいなもんか。
明日からにしよう・・・
依頼書だけ貰って、俺はギルドを後にする。
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収穫袋に今入っているのは蜘蛛の腹だ。雑貨屋のエミリーに頼まれた糸がその膨れた腹の中に納まっている。
雑貨屋の扉を開いて中に入る。
「いらっしゃい」
俺はエミリーに頼まれた蜘蛛の腹を収穫袋から取り出した。
「取ってきたよ」
「あ、ありがとうございます!」
エミリーは蜘蛛の腹を受け取ると、糸の出口から指をつまんで糸を出した。
「蜘蛛の糸って、ねばねばしてるじゃないですか。でも、丈夫で粘りのない糸もあるんですよ。粘着性の糸よりかは量が少ないんですが、品質の高い弾力性のある布が作れるんじゃないかと思って」
「へえー、そうなんだ。」
俺は腹から糸を紡ぐエミリーを見ながら、よく知ってるんだなと感心した。
「ねばねばした糸も役に立つかもしれないな」
「えっ?」
独り言のように発した俺の言葉は、エミリーの中で閃きの種になったような気がした。
「これから、試作品をつくるんですよね?また来た時には見せてね」
「はい!」
エミリーは楽しそうに、良い返事をした。
「あ、えと、これ報酬金になりますっ」
手に受け取ったその重みは、銀貨1枚にして重く感じた。
「・・・っ、銀貨1枚でも稼ぐの大変だあああ」
俺は今にも溢れ出しそうな涙を堪えて、銀貨を握りしめた。
「だ、だいじょうぶですか!?」
エミリーが心配してくれる。
「大丈夫、大丈夫。初クエストで頑張ったけど、見合うお釣りが小さかっただけだよ・・・」
そしたらエミリーから、冒険者ギルドの報酬について、軽く教えてくれた。
「・・・冒険者ギルドでの報酬ですが、魔物の難易度によって討伐報酬金は決められているんですよ。たとえばスライムだと10体で銅貨1枚。100体でやっと銅貨10枚なんです」
「な!なんだってー!!」
俺が倒したスライム100体は銅貨10枚だったとは。
まだスピアやスパイダの方が金になるというものだ。
俺は今日稼いだ銀貨3枚と銅貨13枚で、宿屋で銀貨2枚足りず、食事は2食になることを考えて、これから上手くやっていけるのだろうかと不安を抱いた。
「・・・宿戻って寝よ」
雑貨屋のエミリーに挨拶して、俺は宿に戻った。
******************
宿1階の食堂の今日の夕食はボア肉ではなかった。
硬いパンに、ニンジンやらジャガイモやらいっぱい入ったスープだった。
俺は女将さんに今日は肉は無いのかと聞いてみた。
「今日はボア肉は出ないんですか?」
「毎日ボア肉は食べれないさ。食べれるとしたら貴族だろうね。」
そこで俺は女将さんに、もしボア肉を卸せば毎日食べれるか聞いた。
「それなら出せれるかもしれないけど、鮮度が落ちるかもね。ボア肉は大体、保存食として乾燥させるから。」
「そうなのか」
ボア肉のステーキ自体は、案外希少だったりするのかな。
「もし、手に入ったらその時は買ってくれますか?」
「期待しておくよ」
女将さんはまんざらでもない感じで、前向きに考えてくれたようだ。
「そういえば、自己紹介がまだでしたよね?俺はワイドといいます。」
「あたしゃ、ナターシャだよ。ナターシャ・ロング。奥で料理してるのはミゲル。私の旦那さね」
そう言って、厨房の方へ目を向けると、せっせと料理を作っているおじさんがいた。
いつもお世話になってます!まだ日は浅いけど。
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転生から4日目。
依頼書から大体の薬草の特徴は分かった。
俺は大型の採集袋を肩に掛け、北門へと足を運んだ。
薬草は北門に広がる草原に多く繁茂しているらしい。
行商許可証を門番に掲げながら、俺は北門をくぐり抜けた。
「さあ、採るか!」
早速、同じ種類であろう薬草が繁茂している地面を掘った。
葉っぱが微かに触れると爽やかないい香りが漂ってくる。
地道な作業ではあるけれど、俺は苦に感じずせっせと薬草を採取した。
昼前には作業を終え、冒険者ギルドへと向かう。
魔物討伐よりは楽だし、採取する量も多い。
単価が気になるところだけど、こればっかりはラミレスに聞くしかない。
冒険者ギルド奥のカウンターに採集袋を持っていき、報酬を待つ。
ラミレスが報酬金を持ってくる。
「ワイドさん、こちら銀貨8枚になります!」
「はい、8枚・・・8枚?」
俺は半日で銀貨8枚を手にしていた。
「内訳を聞いてもいいですか!?」
「はい、ミンシア100株で銅貨10枚、フレッシュミンシア75株で銅貨15枚、サービア270株で銀貨6枚と銅貨15枚です。」
ミンシアはスライムと同じか。フレッシュミンシアはミンシアと比べると単価は高い。サービアなんて銀貨6枚だ。
「サービアは2株で銅貨1枚なんですよ?良かったですね!」
もしやミラレスさん、俺に気を使って割のいいクエストを紹介してくれました?
なんにせよ、少し未来が明るくなった気がします!ありがとね!
「薬草はどれもポーションの材料になるんですが、サービアはその効果が大きいので単価も他に比べて大きいんです。詳しいことは薬屋さんに行けば聞けるかもしれません」
「そうか!ありがとう!」
俺は報酬金を受け取ると、ギルドを後にした。
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正直、サービアの単価がわりかし高いのが助かってはいるけど、使用されるポーションに関しては関心は無かった。しかし、薬屋を探して薬草の効能とかを聞く分には楽しいかもしれない。そう思って薬屋を探していたが、なんと雑貨屋の隣にあったではないか!
俺は薬草の、とくにサービアの話しを聞けると思って薬屋に入った。
「こんにちはー」
「いらっしゃい」
中年の男性がカウンターに座っている。
「どんなポーションをお探しで?」
「実は、薬草を採取した際、サービアの単価が高いのを知ったもので。」
すると男性はいかにも!といった感じで話し始めた。
「そう!サービアはポーション作成の際に、より効果と品質を高めてくれる薬草です!ほとんどの種類のポーションに含まれているといっても過言ではない!そもそもサービアの名前の由来は"救う"という意味からきている!おかげで商売としても助かっている訳だ!」
「な、なるほど」
「必要になるのは抽出する薬草と、水と、魔力だ。特にサービアは魔力を吸収しやすい。そのことからもとても貴重になっている!魔力自体、持っている人は限られてくる訳だが」
「そ、それで?」
「なに、魔力がなくても茶として飲むのも悪くない。肝心なのは飲みやすさ、そして効能だ!魔力が無くても十分に生活を潤してくれる!」
「サービアの効能というのは・・・?」
「おお!聞いてくれるか!サービアは"若返りの薬草"とも呼ばれているのだ。老いた身体もサービアを使えば、心は安らかに身体も健康になれると言われているのだ!」
熱意がすごい。薬草に関してこれほどまでに語るとは。
「それで、君はサービアのことを聞きにここへ来たのかい?」
俺はサービアのこともそうだが、ポーションもどのように作られるのか興味を持った。
「ええ、なにぶん単価が高いのが魅力的で。それに話を伺っているとポーション作成にも興味が湧きました!」
「そうかそうか!それは何よりだ!では奥に来ると言い!ポーションがどのように作られているか見せてあげよう!」
「ええ!いいんですか?」
「いいとも。見せるだけならね。一般人がそうそう作れない理由もあるから。」
渡りに船だ。ちょうどいい。
俺は一緒に奥の部屋に案内された。
「ああ、私はマックという。君は?」
「ワイドです。よろしくお願いします!」
「ワイドくん!なかなか見る目があるようだ!」
通された部屋には、薬草を抽出する装置が置かれていた。装置といっても三脚の下にオイルランプのようなものがセットされ、フラスコが上に置かれているだけだ。
「まんま茶出しじゃないか!」
思わず叫んでしまった。
「それだけじゃないさ。」
部屋・・・というより研究室の奥で人影がビクッと動いた。
「な、誰ですか・・・!?」
驚かせてしまったらしい。
「す、すいません。思わず。」
俺は奥にいる女性・・・いや、ロン毛の男性に謝った。
「ニードくん!こちらはワイドさんだ。ポーションの作成に興味を持ってきてくれたんだ。さあ、見せてあげなさい!」
俺、サービアの説明を聞きにきただけなんだけど大事になってない?興味は出たけど。
「ああ、見学者ですか?分かりました。」
そう言ってニードと呼ばれた、俺と同じくらいの年の人が作業の途中、こちらへやってきた。
「ワイドさんはサービアから抽出されるポーションに関心があるそうなんだ。よろしく頼むよ!」
「・・・はい、分かりました」
ニードさんはいそいそと準備を始める。
「まず、サービアの葉を20枚。そしてフラスコに水を5分の4入れる。ここで水からサービアを入れる場合と湯から入れる場合の二通りの方法があります。今回はお湯からにしましょう。沸騰してきたらサービアの葉を全部入れ、火を止め、蒸らします。その間、魔力を込めます。」
「どのくらいの時間、蒸らすんですか?」
「大体、4ナーゼくらいです」
ふむ、新しい単位が出てきた。どうしよう。
そうこうしている間に、フラスコの中にあるサービアの色が、お湯に溶け出していく。そしてその色素が魔力に反応するかのように、その色を薄ピンクに変化していった。
「おお、色が変わるんですね!」
「そうだとも。奇麗だろう?」
マックさんが答えてくれた。今、ニードさんは魔力を注ぐのに集中しているからだ。
「なるほど、魔力が使える者がいないとポーションは完成できないんですね?」
「ああ、そうだとも。ポーションの質にもかかわる。一般人には作成不可能ということさ!」
どうりで。まあ俺も魔法は使えるけどショボいから無理だろうな。
「できました」
体感3~4分といったところだろうか?奇麗な薄ピンク色のポーションが出来上がった。
「これを薬瓶に濾しながら入れて完成です」
これで一通りの工程が終わった。
「このポーションで、どのくらいの値段になるんですか?」
「これは銀貨1枚だね。」
サービア2株で銅貨一枚としたら、ポーションにすることで銅貨39枚の利益差である。
「ちなみに、サービア茶で銅貨2枚だよ」
「え、その差って魔力の有無ですか?」
「そうだとも。」
この世界での魔力の価値が高いことが分かった。これはどの商品でも同じだろうか?
「大変ありがとうございました。ポーション作成って奥が深いんですね!」
「興味を持ってくれたようでこちらとしても嬉しいよ!」
マックさんも嬉しそうだ。
俺はポーション作成の研究も楽しそうだと思い始めていた。
「何かある前に、ポーションを買いに来てもいいのだよ?」
「はい、手持ちがある時にまた来ますね!」
薬屋を後にしながら、ポーションの商売もいいかもしれないと思い始めた。