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くろがね姫の離婚  作者: 春凪 志苑
9/14

根。

猫の額ほどの畑に、豆や菜っ葉やイモや麦。

稲は青い頭を垂れ、まもなく黄金色に輝こうとしている。

「救世軍が国主の野郎をやっつけちまったから、土地はおいらたちのもんになったんだ。自分で耕したとこは、自分のもんにしていいんだぞ」

切り拓いたばかりの土地で、丁寧に石ころを取り除きながらイザギが言う。

「どんどん耕して、でっかい田んぼ作るんだ」


「姉ちゃん、これ」

ツツジが赤い花をクロガネの髪に挿す。

自分のひっつめ髪にも挿して、

「おそろいだ」

にっこり笑う。

ツツジは何をするにもクロガネの手を引っ張って、食事の支度、掃除、水汲み。

姉ちゃんは座ってればいいよ、と、クロガネの利かない左腕を気遣う。


村人たちが鉄の腕を目にとめ、

入れ替わり立ち替わり物珍しげにやって来た。

「へぇ、巫女さんかい」

奇異な姿の余所者。

しかし恐れることは無いと、ツツジの笑顔が訴える。

「巫女さんねぇ」

ひそひそ話に花が咲く。

けれども、時が経てば少しずつ、固い結び目がほどけるように、

かたい空気も緩んでいくかに思われた。


夜は橙色の灯り。

陽気なイザギの笑い声が響く。

ツツジの笑顔が、クロガネを包み込んで広がる。


昼はやわらかな日の光。

涼風が、頭の中の曇りをとり払うように吹き抜ける。


クロガネは、黒髪を風に躍らせたまま。

しばらく天を仰いでいたが、

己の左腕を見つめ。

それから、野良仕事に精を出す村人たちを眺め。

やおら畔道を歩き出した。


「イザギ」

山裾の斜面で、汗を散り飛ばしながら切り株を掘りおこしていたイザギは、ふと顔を上げた。

「おう。どうした? 」

クロガネが鉄の左腕を差し出す。

「この腕、使えまいか」

「使うって? 」

「わ、…私も、…やってみる」


堅い土に、鉄の腕を突き刺す。

石にぶつかれば、その下に手首をさし入れ掘りおこす。

さすがに切り株を取り去るには力が足りなかったが、それでも必死に腕を動かした。

「おい、無理すんなよ、いくら腕が鉄っつったってよ、女の身体で力出すにゃ限界があんだろ」

イザギの言う通り、うなされるほどの痛みを伴っても、少しもはかどらず。

ただ、己の非力を思い知らされるばかり。

「だから。無理すんなって」

イザギが慰める。

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