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くろがね姫の離婚  作者: 春凪 志苑
13/14

朽ちる。

黒い盗人が持ち去ったもの。


クロガネは、

ブツン、ブツンと骨を切る衝撃に飛び起きた。

盗人の背中が闇に紛れて逃げていく。

空を掴もうとして、激しい痛みが襲いかかる。

折しも雲間に月が現れ、

クロガネの変わり果てた姿を照らし出した。


己の姿。

両の腕が、…消えている。

鉄の左腕が無い。

白い右腕も無い。


痛みを通りこし、驚きを通りこし、

心の臓が止まる寸前で、クロガネは気を失った。


このまま死ねるか。

…いや、死ねはしない。


クロガネは、再び目を覚ました。

両腕には、血止めの包帯が巻かれている。

気付けば、部落長が呆れ顔で座っていた。

「誰がこんなことをしでかしたのかはわかりませんが、」

冷たい水に布を絞って、クロガネの額にあてる。

「もうこれ以上、村を汚すことはやめていただきたい」

ため息まじりに呟いた。

「とんだ似非巫女だ」

「殺すなら早う殺せ」

部落長は苦笑した。

「馬鹿馬鹿しい。鉄の腕が無いあなたを封じ込めても意味が無いでしょう。…熱が下がったら、どこへなりとお行きなさい」


追放。

村へやってきたときと同じ、身ひとつの姿で、

クロガネはどこへ行き着くとも知れない道を歩き出した。

姿が小さくなっても、村人の誰ひとり見送りにはこない。

鳥さえ飛ばぬ。

雨さえ降らぬ。


それでも罪ある、人間は、

歩かねばならぬ本能をただ、受け入れる。


風の噂。


両腕の無い女が、両腕の無い絵描きに拾われた。

けれども口で絵筆を扱えず、金にならぬと追い出される。


両腕の無い女が、足で布を織る機織りに拾われた。

けれども機を上手く操れず、いたたまれずに飛び出した。


あちらの村、こちらの町で、

役立たずと足蹴にされ、道を這いずりながら歩く様。

後ろを影が追いかける。

報告をうけた影の主は、

そのたびに、そうか、とこともなげに呟く。


月日はいつの世も等しく、ただ淡々と流れるのみ。

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