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くろがね姫の離婚  作者: 春凪 志苑
10/14

雫。

毎日の日課。

太陽が昇る頃、兄妹は母親の墓へ出かける。

クロガネも連れ立って、野の花を摘みながら歩く。

「母ちゃん、今日も一日、お守りください」

イザギが可笑しそうに、

「おめぇ、ここにぶっ倒れてたんだぜ」

朝露の滴。

クロガネは、こんもりした土の表面を撫でながら、そっと祈りを捧げた。


澄んだ空気を纏った、和らいだ日々。


収穫の日。

イザギの土地からは、一年を過ごすには余りあるほどの作物がとれた。

「すげぇや。こんな大豊作は、おいら生まれてこのかた見たことねぇ」

「…豊作…」

「部落の奴らも羨ましがるぞ、きっと」

ツツジがふと呟いた。

「姉ちゃんがお祈りしてくれたんだ」

「あぁ? …そうか。そうだよな。…クロガネ、ありがとよ」

「いや、…」

ツツジはクロガネにすがりつき、

「姉ちゃんはすごい巫女様なんだ」

「そうだ、これ見たら部落長だっておめぇのことぜってぇ認めるぞ」

思い立ったらすぐ足の動くイザギは、その日のうちに部落長を連れてきた。

「…これはまたえらく出来が良いですね」

「だろ? クロガネが祈ったからよ」

「鉄の腕…。そういえば、西の向こうの国では、鉄の神が『知恵』を授け『豊作』をもたらすと聞いたことがあります」

「だろ? だから言ってんじゃねえか」

「いや、南だったかな」

「どっちだっていいだろ」

「北…?」

「だからクロガネをよ、」

「あれ」

「まだ方角のこと考えてやがったらブッ飛ばすぞ」

「これはまずい」

「あぁ? 」

「今年は村全体で実りが良いのです。あまり良すぎると来年が心配だ」

「なんだぁ? 次は凶作だってぇのか? 」

部落長は頷いて、

「悪い気が流れ込まないように、早く巫女を立てなくては」

「だからおいらがさっきから、」

「今度の集まりで、クロガネさんを推薦してみましょう」

「…お、おう」

では、と誰にともなく会釈をし、ツツジの頭を撫でて、部落長は帰っていった。


誰も気付かない、裏山の繁みがざわつく音。

ツツジがフイと振り返るも、

その影はとうに消え失せて。


生きものたちが、温もりを求めて土深くもぐり始める。


一晩中、霧雨の降った次の日の朝。

湿り気の残る黒土を踏んで、部落長がクロガネを迎えにやってきた。

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