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8.私にしかできないこと

 今から七千年前、世界に初めて魔力を持つ人類が誕生した。

 魔力は内から湧き出る強大な力だった。

 使い方を模索し、術として確立するのに千年。

 そこからさらに、文明の発展へとつなげることに二千年かかった。

 魔術が最も広がり、その系統を増やしたのは四千年前のことだったという。

 しかしそこには、単なる文明の発展とは異なる背景があった。

 

 魔物の誕生。


 人間ではなく、動物でもない新たな生命が生まれた。

 魔力を宿したその生き物は、他の生物を無慈悲にむさぼり食らう。

 人々は生き延びるため、戦う術を身に着ける必要があった。

 それ故に、魔術は大きく派生した。

 生きるために人々は力を付けた。

 まるでそれに対抗するように、魔物たちに変化が生まれた。

 より大きく強い個体が次々に誕生し、野生的だった魔物は知性を身に着け始める。

 ちょうどこの頃から、人間に近い形をした魔物が誕生し始める。


 そして――


 災厄と呼ばれる魔神が生まれた。

 圧倒的な力、破壊の限りを尽くす怪物。

 その一体で、全人類の存在が脅かされることとなる。

 人々は絶望し、恐怖しながらも戦った。

 多くの血が流れながら、魔術師たちは手を尽くし、百年かけて魔神を封印した。

 

 という伝承が、現代にも伝えられている。

 真実か否かは定かではない。

 しかし真実だとすれば、いずれ人類は再び、魔神の恐怖と相まみえることとなる。

 

「――あの伝承は本当だ」


 殿下は断言する。

 おとぎ話でしかなかった物語を完全肯定した。


「探検家、冒険家たちが発見した古代の遺物。それを優秀な研究者たちが調べ、かつて大きな戦いが起こったことは立証されている。詳細までは不確かだが、魔神と同等の怪物がいたのは間違いない」


 殿下の説明を聞きながら、私はごくりと息を飲む。

 かつて人類を脅かした魔神。

 本当にそんなものがいて、今もどこかで眠っているとしたら……怖いと思うのは当たり前だろう。


「この文字が、魔神と関係している……ということですか?」

「確証はないがな。一緒に発見された壁画に、見たことがない怪物と戦う人間が描かれていたんだ。その隣に、ルーン文字が刻まれた石板があった」

 

 ルーン文字は魔術のために生み出された文字で、それぞれに固有の意味を持つ。

 本来は魔術以外で使用されない。

 ただし、同じルーン魔術師同士の連絡用暗号として用いられたという歴史もある。

 文字は文字で、ルーン魔術師ならば、ルーンに刻まれた術者の意図を汲み取る技術がある。

 

「これまでも時折発見されているんだ。ルーン文字が刻まれた石板は……ただ解読は難航していた。一文字の意味はわかっても、文字列になった時に何を伝えたいのかさっぱりわからない。推測しかできなくて、研究者たちも頭をかかえていた。そこで――」


 殿下は指をさす。

 まっすぐに。


「私……」

「そう! 君なら石板から直接、ルーン文字の解読ができるんじゃないかと思ってね。いや、きっと君にしかできないことだと思う」

「私にしか……できないこと」


 殿下は私を見つめながら、小さく頷く。

 私だけができること。

 他の誰にもできない……優秀な姉にも、天才と呼ばれている殿下にもできなくて、私にしかできない。

 そんな風に言われたら、心が高ぶらないはずない。


「が、頑張ってみます!」

「引き受けてくれるんだな?」

「はい! 少しでも殿下のご期待に応えられるように頑張ります!」

「――そうか。期待してるよ。メイアナ」


 わざわざ名を呼び、重ねるように期待という言葉を口にする。

 他の誰でもない。

 私に期待してくれていると宣言するように。

 心が、身体が奮い立つ。

 生まれて初めての感情がこみ上げる。

 期待に応えたい。

 この人を失望させたくない。

 成果を見せて、褒めてもらえたら……きっと、言葉にできないくらい幸せだろう。

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