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5.変わり始める

「それじゃ、正式な手続きがある。悪いが一緒にきてくれるか?」

「はい!」


 私は殿下に連れられ研究室を出て行く。

 テーブルには仕事が山盛りに残っている。

 レティシアが文句を言わないのは、殿下が一緒にいるからに違いない。

 後で何を言われるのか、正直怖くなる。

 廊下に出た私は、殿下に尋ねる。


「あの、殿下……」

「なんだ?」

「本当に私で……姉はルーン魔術が使えないだけで、それ以外は完璧です」

「……君は凄いな。あんな扱いを受けて姉を庇うのか」

「え……?」


 今の言い方はまるで、私と姉の関係性を知っているような……。


「君が姉に対して劣等感を抱いていることは知っている。確かに彼女は優秀だ。だけど、自分のほうが優秀だからって、仕事をさぼって遊んでいいわけじゃないよな?」

「――! で、殿下は……」


 知っているの?

 本当に?

 驚きで身体がぶるっと震える。


「ははっ、君をスカウトする前に色々調べさせてもらったんだ。フェレス家に優秀な魔術師がいることは聞いていたけど、正直ガッカリしたよ。今までサボった分、彼女にはしっかり働いてもらおう。そのほうが君もスッキリするだろ?」


 殿下はいたずらな笑顔を見せる。

 子供みたいな笑顔に、心がざわっと揺さぶられる。

 スッキリ……か。


「そう、ですね」


 正直、そう思う。

 私は姉に劣っていた。

 だけど、それを理由に私へしたことが正しいとは微塵も思っていない。

 レティシアも一度くらい夜になっても帰宅できない苦労を味わえばいいと思う。


「ルーン魔術は独学か?」

「え、あ、はい。自分で勉強しました」

「大変だっただろ? 資料もろくに残っていないし、誰も教えてくれないからな」

「はい。でも、面白かったですし、私にはこれしかなかったので」


 夢中になって勉強した。

 その結果、こうして殿下に見つけてもらえたのなら、あの時間も無駄じゃなかったのだろう。


「だからって、遅い時間まで仕事した帰り道まで練習しなくてもいいだろ?」

「あ、見てたんですか?」

「偶然な。夜の散歩をしていたら、水で遊んでる君がいた」

「す、すみません!」


 誰も見ていないと思っていたら、まさか殿下に見られていたなんて。

 一番見られて恥ずかしい人じゃないか。


「ははっ、謝ることないだろ。あれを見て確信できた。君なら適任だとね」

「そ、そうなんですか」

「ああ、探しまわったけど君だけだった。ルーン魔術を本当の意味で身に着けているのは。君はそれだけ特異な存在だ。もっと胸を張れ!」

「は、はい!」


 殿下の言葉は強くて、でも温かくて。

 弱い私の背中を押してくれる。

 前へ進む足取りも、少しだけ軽くなった気がする。


「それでその、私は何をすればいいのでしょう……」

「あー詳しくは後で話す。超極秘な任務があるんだ」

「極秘……」

「ああ、古代の遺産を調査する。そのためにルーン魔術が必要不可欠だったんだよ」

「古代の……」


 遺跡か何かが発見されたのかな?

 まだよくわからないけど、私の魔術が役に立つというのなら。


「が、頑張ります!」

「ああ、期待してるよ」


 初めての期待に応えたい。

 こんなにも前向きな気持ちで誰かと話せたのも、生まれて初めてかもしれない。


  ◇◇◇


「なんなのよ!」


 バンとテーブルを叩く。

 ひらひらと書類が落ちていく。

 メイアナとアレクトス殿下がいなくなった研究室で、レティシアは悔しさを露にしていた。


「メイアナが天才……? 馬鹿じゃないの」


 いつも自分が選ばれていた。

 あらゆる分野で上にいる。

 婚約者だって、わざわざ破棄してまで自分を選んできた。

 負けている部分は一つもない。

 メイアナより、自分がはるかに優れている。

 そう自負している。

 だが……。


 今回選ばれたのはメイアナだった。


 無能な妹が、天才王子に認められていた。

 初めて感じる敗北感に、レティシアは心と身体を震わせる。

 

「はぁ……」


 いつまでも怒り続けてはいられない。

 メイアナが不在な今、テーブルの上に積まれた仕事は自分でやらなければならない。

 否、彼女が第二王子の元へ行った以上、これから先も……。


「な、なんなのよこの量!」


 レティシアは知らなかった。

 仕事量が増え続けていたことに。

 全てメイアナに任せていたから、気づく余地もなかった。

 彼女が補佐になる前の仕事量の、約二倍。

 二年前でもギリギリだったものが、倍になって圧し掛かっている。


「こんな量……一日で終わるわけ……」


 そう、普通は終わらない。

 同じように宮廷で働く魔導士よりもはるかに多い。

 それはレティシアが優秀だと思われているからこそ。

 そして、メイアナが増え続ける仕事量を、必ず最後までやりきっていたから。

 

 レティシアは天才である。

 現代のスケールで、魔術師としての才能はトップクラスと言える。

 しかし、彼女は慢心していた。

 メイアナが全部やってくれるから、自分が頑張る必要がない。

 それ故に、学ぶことを怠った。

 積まれた書類の中には、知らない単語もちらほら見える。

 彼女はわからない。

 だけど、メイアナなら理解できる。

 魔術師としての才能は上でも、知識と経験はすでに、メイアナに抜かれていた。

 ようやく実感する。

 

 そして――


 この日を境に、二人の関係は大きく変わる。

 姉の出がらし、無能な妹。

 

 メイアナはいずれ……王国最高の栄誉を手に入れる。

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