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46.ルーン魔術は時代遅れ?

あけましておめでとうございます!!

 ルーン魔術は時代遅れ。

 どんな技術も、知識も、次代の流れと共に変化し、進化していく。

 人々が学び、培い、よりよい形へと最適化される。古の時代に生まれた魔術も、時代を重ねるごとに変化し、現代の形へと進化した。

 ルーン魔術は古代の遺物だ。

 遥か昔、まだ魔術という技術が一般的には広まっていなかった時代に生まれた、いわゆる最初の魔術だと言われている。

 歴史的に深い力ではあるけれど、現代においてそれは、文字通り前時代的だった。


 テーブルに置かれたルーンストーン。

 刻まれている文字に指をかざし、文字に宿った想いを読み取る。


「――【ᛊ(ソウェル)】」


 ルーンストーンが明るく輝き始める。

 刻まれしルーン文字【ᛊ】、その意味は太陽、光。眩い太陽の輝きに似た光が、カーテンで区切られた部屋を明るくする。


「う、うーん……」


 私は大きく背伸びをして、ベッドから起き上がる。

 輝きが弱くなって足元が見えなくなる前に、ベッドから立ち上がり、締め切ったカーテンに手をかける。

 外は快晴、時間は朝。

 東の空に輝く太陽が、燦燦と眩い光を放ち、寝ぼけた瞳を大きく開かせる。


「眩しい」


 ルーンストーンの光とは比較にならないほど大きくて、強い光りに意識がハッキリと目覚めさせられる。

 朝日が部屋を照らすと、ルーンストーンは役目を終えたように光を閉じた。

 昨日のうちに準備しておいた着替えが、ベッドの横に畳まれている。

 私は着替えを手に取り、朝の仕度を始める。

 寝ぐせを解かし、身だしなみを整えて、歯を磨き、朝食も自分で作って軽く済ませる。

 生活するために必要な設備は、この部屋に揃っている。

 一つ一つの設備も綺麗で新しい。さすがは王城の一室。

 そう、私はフェレス家を出てからずっと、殿下の計らいで王城で暮らしていた。


 メイアナ・フェレス。それが私の名前。

 魔術師の名門フェレス家の次女として生まれた私には、魔術師の才能がなかった。

 もっと正確に表現するなら、現代における優秀な魔術師の素質が、私には欠けていた。

 代わりに備わっていたのは、ルーン魔術という時代遅れと呼ばれた術式を扱う力だ。

 現代では使い手も減ってしまい、ある意味希少になった技術ではあるけれど、珍しいだけで特別だとは思われない。

 時代遅れのルーン魔術にしか適性がなかった私は、フェレス家の落ちこぼれで、冷遇されて生きてきた。

 特に現代魔術の才能があったレティシアお姉様とは、ことあるごとに比べられていた。

 お姉様はできるのに、どうして私にはできないのだ。

 ルーン魔術なんていくら勉強しても、現代魔術には遠く及ばない。

 私は一生、お姉様の影に隠れて、馬鹿にされながら生きていく。そんな暗くて悲しい未来しか、自分でも浮かばなかった。

 そんな私を見つけてくれたのが殿下だった。

 あの日、殿下と出会い、話す機会が得られなかったら、今でも私はフェレス家で辛い日々を送っていたに違いない。

 殿下と出会い、殿下の下で働くことができる今を、私は誇りに思う。

 ずっと自分が好きになれなかった。私なんてなんの取柄もなくて、お父様たちが言うように、役立たずの面汚しだと、自分でも思っていたから。

 でも、殿下はこんな私を必要だと言ってくれた。

 君の力が必要だ。だから、力を貸してほしい……そう言ってくれた。

 心が震えるほど嬉しかったと、時間が経過した今でもハッキリと覚えている。


 着替えを終えた私は、大きな姿鏡の前に立つ。

 宮廷魔術師の制服に身を包み、どこもおかしなところはないかチェックする。


「よし!」

 身だしなみはバッチリだ。

 殿下直属の部下であり、宮廷魔術師でもある私は、多くの人から見られる立場にある。

 私が粗相をすれば、殿下の評判が悪くなってしまう。

 昔よりも身だしなみや、他人からどう見られるかを気にするようになった。

 臆病になったわけじゃない。ただ、殿下に迷惑をかけたくない。それだけだった。

 朝の仕度を終えた私は部屋を出る。

 部屋を出てすぐ、見張りをしている騎士の方と視線が合った。


「おはようございます」

「おはようございます。メイアナ様」


 私の挨拶に、騎士の男性も丁寧に答えてくれた。当たり前のことだけど、私には嬉しかった。


「今朝もお早いですね」

「そんなことはありません。皆さんのほうがずっと早起きじゃありませんか」

「我々はこれが仕事ですので。本日はどちらに?」

「騎士団隊舎に顔を出してから、殿下のところに行く予定です」

「そうですか。皆様にもよろしくお伝えくださいませ」

「はい」


 ここで暮らすようになったばかりの頃は、今とは違う意味で視線にビクビクしたり、話しかけられるとドキッとしてしまった。

 さすがに慣れてきて、こうして他愛のない会話ができるようになったのも、一つの成長だと思っている。

 私がここでの生活に馴染んだように、王城で働く人々にとっても、私が暮らしているという状況を当たり前だと思うようになってきたようだ。

 王城の中を歩いていても、変な目で見られることはない。

 そういう小さな変化もあって、自分にとって安心できる場所だと、身体が覚えてくれたことも大きいだろう。

 とてもいい変化だ。

 フェレス家を出た時は、正直ちょっぴり不安も大きかった。

 曲がりなりにも生まれ育った家を出て、一人で生きていくことを選択したのは私だ。

 自分で決めたこと、覚悟していたことでも、不安がないわけじゃなかった。

 上手くやっていけるだろうか。

 今までフェレス家に、お父様たちに守られていた部分も少なからずある。自分の一人の力で、貴族として、魔術師としてこれから……。

 そんな不安が今でもあるけれど、殿下や他のみんなが一緒にいてくれる。そう思うだけで、臆病な私の心は安らぎを感じる。

 自分でもわかりやすくて呆れてしまいそうだ。

 それを嫌だとは、一切思わないけど。


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