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43.散歩でもしよう

 リージョン殿下と別れた私は、今度こそ殿下のいる部屋に向かう。

 決まった時間に訪問する予定があるわけじゃないけど、なんとなく毎日同じ時間に出向いている。

 私は自然と足を速く動かした。

 部屋の前にたどり着く。

 トントントンとノックを三回して、殿下を呼ぶ。


「殿下、メイアナです」


 三秒ほど待った。

 返事はなく、静寂が返ってくるばかりだ。

 私は首をキョトンと傾げ、もう一度扉をノックする。


「殿下?」


 呼びかけても返事がない。

 眠っているのだろうか。

 だとしたら起こすのは申し訳ない。

 ただ念のため、寝ているかどうかの確認だけしたかった。

 殿下の自室だし、許可なく入るのは失礼だろう。

 そこで私の特技が役に立つ。


「【ᛗ(マンナズ)】」


 私は部屋の扉にルーンを刻む。

 【ᛗ】に宿る意味は、人。

 人の気配を感知したり、迷い人を探索したり、人に関する何かを見つけ出す効果を生む。

 扉に刻まれたルーンは光り、中に人がいれば輝きを維持する。

 中に人がいなければ……。


「消えた?」


 光は消えてしまう。

 ルーンによる探知の結果、部屋に人の気配はない。

 心配になった私は慌てて扉を開けた。


「殿下!」


 案の定、誰もいない。

 ベッドの布団は綺麗に畳まれていて、部屋も整頓されている。

 窓も閉まっているし、荒らされた形跡はない。

 つまり、自分で出て行かれたんだ。


「まだ安静って言われてるのに」


 殿下はどこへ?

 私はキョロキョロと部屋の中を探す。

 もちろんいない。

 痕跡らしきものも残っていない。

 もう傷は回復しているし、歩き回る程度なら平気だと言われているけど。


「殿下……」


 心配だ。

 陛下からあの話を聞いてしまったこともあり、余計に不安になる。

 とは言え、殿下だってわかっているはずだ。

 さすがに遠くへは行っていないはず。

 殿下の性格から考えられるとしたら……。


「執務室?」


 予想を立てた私は急いで部屋を出た。

 向かったのは殿下が普段、職務を熟している執務室だ。

 殿下の性格なら、一か月も仕事を放置してしまったことを歯痒く思っているはず。

 身体が十分に動けるなら、もう仕事を始めてしまっても大丈夫だろう。

 そう考えたに違いない。

 決めつけのような予想を抱き、私は執務室の扉をノックする。


「殿下、いらっしゃいますか?」

「――その声、メイアナか」

「――! やっぱり」


 ここにいたんだ。

 私はホッと胸を撫で下ろす。


「入ってもよろしいですか?」

「ああ」

「失礼します」


 私は部屋に入る。

 窓が開いているのか、緩やかな風が吹き抜ける。

 テーブルの上に積まれた書類がパタパタと風でなびく。 

 殿下は椅子に座らず、テーブルから書類を手に取り眺めていた。

 まったく、予想通りすぎて呆れてしまう。


「よくここがわかったな」

「殿下のことなので、仕事を始めているのではないかと思いました」

「ははっ、正解だ。もう十分に回復した。これくらいなら平気だろ」

「ダメです。お医者様にも安静にしているように言われているはずです。傷は治っても、体力まで戻ったわけではないんですから」


 多少不敬でも仕方がないと割り切り、私は殿下に進言する。

 もちろん、殿下もわかってはいるはずだ。

 だから私に言われても怒ったりはしない。


「君は心配性だな」


 そう言いながら、殿下は書類をテーブルに戻した。


「いつもより遅かったし、今日は来てくれないのかと思ったよ」

「少し用事がありました」


 リージョン殿下と話したことは、わざわざ口にしなくてもいいか。

 なんとなくそう思って話さなかった。


「あの二人は? 元気に暴れているか?」

「今は休憩していると思います」

「そうか。退屈な思いをさせて悪いな。俺がもっと頑丈だったらよかったんだが」

「十分凄いです」


 かなり深く重い傷だった。

 一か月という期間も医者から言われていた最短の治療期間でしかない。

 通常なら二か月はかかる傷を、その半分で治癒させた。

 魔術による治癒は高度で、特に他者を治療するのは難しい。

 治癒は殿下の数少ない不慣れな魔術だった。

 それでもこの回復スピードは驚異的だ。


「医者からもう、普通の生活には戻っていいと言われているんだ。書類仕事くらいは平気だと思うけどな」

「お医者様には仕事のことも話したのですか?」

「いや、してない」

「であれば、次にお会いする時に確認してください」


 私は医者じゃないから、殿下の身体のこともハッキリとは明言できない。

 医者がいいと言えば問題ないし、言われていないのなら安静にすべきだろう。


「そうだな。じゃあ仕事は止めよう。代わりに、散歩に付き合ってくれないか?」

「お散歩ですか? 構いませんがどちらまで? あまり遠くへは」

「大丈夫、距離はそんなに離れていない。王城の裏手に丘がある」

「丘、ですか」


 そういえばそうだった。

 王城自体、王都でも高い場所に建っている。

 行くには王城を越えないといけないから、私は一度も行ったことがない。


「何かあるのですか?」

「……墓があるんだ」

「え、お墓?」

「……ああ、母上の墓だ」


 殿下が私の隣をすれ違う。

 一瞬だけ見えた横顔は、悲しそうに映った。

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