37.力比べ
「ほ、ホントに貴族だったんですか?」
「なんだよ。その質問何度目だ? そんなに気になるかよ」
「だ、だって、全然見えないし」
リージョン殿下たちが去った執務室で、私たちは残っている。
ソファーに豪快に座っているカイジンと、シオン君はソファーの後ろに隠れて話していた。
私は殿下に視線を向け、尋ねる。
「殿下はご存じだったんですよね?」
「ああ、まぁな。こいつが自分から言わなかったから黙っていた」
「別に言ってくれてもよかったぜ。オレにとっちゃ家柄なんてどーでもいいことだからな。屋敷を出てもう十年以上経つしよ」
「じゅ、十年!?」
思わず大きな声を出して驚く。
カイジンの年齢は、今年で二十五歳になるらしい。
つまり十五歳、成人より前から屋敷を飛び出し、武者修行という名の旅をしていたことになる。
盗賊や魔物、世の中は危険でいっぱいだ。
子供が一人で旅をするなんて、それだけで自殺行為と言える。
よほどの度胸、それとも覚悟をもって旅立ったのか。
それとも単なる衝動的な出発か。
カイジンは面倒くさそうにしていて、詳しく語る気はなさそうだった。
「レムハウンド家は遠縁だが王族の血筋なんだよ」
「お、王族?」
「ああ。もっとも何百年も前に分かれてるから、もう血も薄くなってる。今はただの辺境貴族の家系だから、メイアナも知らなかったんだろう」
「な、なるほど……?」
カイジンが王族の血筋……。
じっと改めて彼を見つめても、まったくそうは見えない。
比べる対象がアレクトス殿下だから余計に。
「うっるせーな。いいだろ家柄なんて! それより戦いの話をしようぜ! 力比べはいつするんだよ!」
「えぇ……さっきの話聞いてなかったんですか?」
「あん?」
「ひぃ!」
ちょっと睨むだけで怯えるシオン君。
ソファーの背に隠れながら、反撃するように言う。
「この後すぐですよ! リージョン殿下が場所を用意して、そしたらもう戦うんです」
「そうか。もうやれんのか。はっ、楽しみだぜ」
「ボクは全然楽しくない……」
「カイジンは特殊だから気にするな。俺も今回ばかりは気乗りしない。こんな争いに意味はない……それでもやらなきゃ、兄上は納得しないんだよ」
そう言いながら殿下は窓の外を眺める。
どこか遠い目をしながら、憂いに満ちた表情を浮かべていた。
対立しているとはいえ、実の兄と戦わなければならない。
殿下のお心は、私では測りかねる。
いいや、肉親で争わないといけないのは、私も同じか。
「……お姉様」
二度の顔合わせで、一度もちゃんと私と目を合わせてはくれなかった。
お姉様のことだから、私に対抗意識を燃やしてくると思っていたのに。
まるであの場にいることが不本意であるように。
もしも望んでないのに、無理矢理連れてこられたのだとしたら……。
ほんの少し、リージョン殿下に苛立ちを感じる。
せめて誰も傷つかないように。
そう願って時間を待つ。
そして、わずか一時間半後――
私たちは騎士団が所有する模擬訓練場へと招待された。
屋内、屋外、地下と様々な環境に合わせた訓練場がある中で、リージョン殿下が指定したのは屋外。
森林と川、小さな滝まである自然を模した場所。
すでに準備はできており、訓練場の東西に分かれ、水色の大きな水晶が目立つタワーが立っている。
私たちの陣営は東に陣取る。
「こいつを壊せば勝ちか。めんどくせールールだな」
「けが人を少しでも減らすための配慮だ。兄上もその辺りは考えてくれている」
「はっ、甘い奴らだ。いざ戦場に立てば、どちらかが死ぬまで終わらねーってのによ」
「勘違いするなカイジン。これは戦争じゃない。ただの力比べだ」
殿下が鋭い視線でカイジンに詰め寄る。
少し緊迫した空気が流れたが、カイジンがため息をこぼす。
「わかってるよ。ほどほどにしてやる」
「頼むぞ」
「おう! その代わり、オレは自由にやらせてもらうぜ」
「そうだな。今回は急遽決まった戦いだ。綿密に作戦を立てる時間も、それを実行するチームワークもない。だから簡単に役割だけ決めよう」
今回のルールは、どちらが先にタワーを破壊できるか。
タワーを攻める役割と、守る役割に人員を分ける必要がある。
「兄上の性格的に、守りの人員は少なくして、攻めのほうを多くするはずだ。多くとも守りは二人……いや、一人の可能性が高い」
「じゃ、じゃあボクたちは守りを多くしますか?」
「そうしたいが、攻めが弱いと結局負ける。相手のタワーを誰が攻めるか……」
戦闘開始の五分前まで、私たちは役割分担と簡易的な作戦を話し合った。
そして時間になる。
合図は森の中央に、大きな狼煙があがる。
「開戦だ」
訓練場の広さと、タワーの距離から考えて接敵まで最短で十分。
殿下曰く、リージョン殿下の性格なら、最初はまっすぐ中央突破を目指す。
その予想通り、彼らは来た。
「やっぱりお前は守りか、アクト」
「兄上こそ」
攻めてきたのはリージョン殿下とノーマン様、その奥にお姉様の姿もある。
人数もメンツも、アレクトス殿下の予想通り。
「守りは騎士団長か」
「ああ、彼一人で十分だからな」
「……そうか。よかった」
アレクトス殿下は笑みを浮かべる。
私たちの守りは三人、殿下と、私と、シオン君。
攻めを任されたのは猪突猛進――
◇◇◇
「てめぇがオレの相手かよ!」
「……不服か?」
「いや、強そうで安心したぜ!」
鬼神と騎士団長が対峙する。
本日ラストの更新です!
第二章もいよいよ大詰めですね!
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