36.頑固な王子たち
一週間を待たずして、私たちは再び対面することになった。
アレクトス殿下の応接室に、リージョン殿下と彼に集められた三人が揃う。
彼らに相対するように、私たちはアレクトス殿下の傍らに立つ。
天才と呼ばれた自他ともに認める王国最高の魔術師。
宮廷の見習いから第二王子付きの宮廷魔術師に抜擢されたルーン魔術師。
若く気弱だけど、剣を抜けば誰より強く頼れる勇者。
そして、鬼神のごとき力を持つなぞの旅人。
「この四人で、遺跡探索へ向かいます」
殿下は兄であるリージョン殿下に宣言する。
指定された期日以内に四人目を揃えた。
これで条件は達成し、私たちは予定通り、遺跡探索を始められる。
ただし当然のように、リージョン殿下は反論する。
「お前にしてはよく頑張ったな、アレク。だが残念ながら穴だらけだぞ」
彼はニヤリと笑みを浮かべ、四人目として集められたカイジンに視線を向ける。
目を合わせたカイジンは鋭く睨む。
「そこの彼、素性も定かではない者を人数に加えるなんて、とても大役を任された王子のやることとは思えないな」
「なんだてめぇ」
「落ち着けカイジン」
にらみつけるカイジンを殿下が諫める。
王子相手でも一切物怖じしない姿勢は、逆にさすがだと思ってしまった。
ただ、リージョン殿下の言っていることは一理ある。
遺跡探索は王国の未来を決めるかもしれない重要な任務だ。
それに、どこの誰かもわからない人を加えて、万が一にも失敗してしまったら?
責任を取らされるのはアレクトス殿下だ。
国民への被害が出れば、たちまち信用を失ってしまう。
実績があり、信頼できる立場の人間だけを集めるべきという意見は、私も同意したくなる。
「その点は問題ありません。彼も貴族ですから」
「え?」
思わず、小さな声が漏れてしまった。
カイジンが貴族だという殿下。
この状況でハッタリを口にした、とは思えない。
まさか本当に?
「嘘はよくないな、アレク」
「俺が嘘をつくと思いますか? 紛れもない事実です。カイジンの服、袖のところに入っている紋章に見覚えはありませんか?」
「……剣と盾、割れた太陽の……!!」
リージョン殿下の顔色が変わる。
紋章に心当たりがあった、という顔をする。
アレクトス殿下が笑みをこぼす。
「気づきましたね?」
「その紋章……そうか。お前はレムハウンド家の、あの田舎貴族の人間か」
レムハウンド家?
知らない名前だけど、殿下たちが知っているということは名の知れた貴族なのだろうか。
リージョン殿下の苛立つ表情が気になる。
そのレムハウンド家と王族で過去に何かあったのかもしれない。
というより、本当に貴族だったのか。
そちらの驚きのほうが大きくて、私はカイジンのほうを向く。
「なんだよ」
「貴族、だったんですね」
「別にいいだろ。肩書なんざ強さを求めるのに関係ねー」
「そ、そういう問題じゃないですよ……」
シオン君も呆れていた。
最初から貴族の家出身だと教えてくれたら、私たちも信用できたのに。
殿下も、気づいていたなら教えてほしかったな。
しかしこれで……。
「問題はありませんよね? 彼も権威ある立場の人間だ」
「……いいや、まだ穴はあるぞ」
リージョン殿下は引き下がらない。
「確かに立場はあるみたいだな。だがそれはこちらも同じ。いやむしろ、俺が集めた人員のほうが優秀だ。彼らには実績がある。長く宮廷に勤めた者、騎士団を率い、数々の凶悪な敵を退けた。地位だけではなく、社会的な信用も備わっている。対してそちらはどうだ? まだ若く、実力も不確かだろう?」
「彼らが劣っていると言いたいんですか?」
「そう怖い顔をするな。世間、周囲の評価の話をしているんだよ」
実績……か。
確かに、騎士団長やノーマン様は功績を積み上げていて、信頼もある。
でもお姉様……レティシアの実績は、半分以上は私が彼女の代わりに作ったものだ。
リージョン殿下のお言葉だし、声に出して否定はできないけど、少なくとも私は認められない。
「要するに実力が不安だと言いたいんですね」
「そういうことだ。これは我が国の命運をかけた重要な任務なのだからね」
「ですが実力なら備わっています。元より兄上が提示した条件は、四人目を揃えることだったはずです。それを達成した時点でこの話は終わりでしょう」
「だから、その面々に不満があると言っているんだ。伝わらないな」
リージョン殿下は頑なに認めようとしない。
この頑固さは少しだけ、アレクトス殿下に似ている気がする。
もっともリージョン殿下の場合は、駄々をこねている子供のようにも見えて、少し幼稚だ。
「なら、どうすれば認めてくれるのですか?」
「そうだな。実力があるというなら競い合おう。お前の四人と、俺の四人で」
「……そっちは一人足りませんが?」
「心配するな。今だけ、この俺が加わってやろう」
リージョン殿下はニヤリと笑みを浮かべる。
対するアレクトス殿下は目を細める。
二人の王子は視線をぶつけ合う。
「力比べをしようじゃないか」
「……わかりました。それに勝ったら引き下がってくれるんですね?」
「約束しよう」
アレクトス殿下はリージョン殿下の言葉を聞き、私たちに視線を向けて確認を求める。
「悪いが付き合ってくれるか?」
「いいんじゃねーの? 力比べは好きだぜ」
「ボ、ボクも……少しは頑張ります」
「殿下が決めてください。私たちは、殿下についていきます」
「……ありがとう」
殿下は視線を戻し、宣言する。
「受けて立ちます」
遺跡探索まであと一歩。
おそらくこれが最後の関門になるだろう。