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35/50

35.勧誘、するの?

 盗賊の掃討作戦から二日後。

 騎士団が事後処理に追われる中、私は殿下と一緒に食堂にいた。

 お皿が運ばれる音。

 咀嚼の音と、食べ物が喉を通る音。

 食事の音がこれ見よがしに聞こえる中、私たちは豪快に食べる彼のことを見ていた。


「美味いなこれ! 無限に食えちまえそうだぜ!」

「無限にはやめてほしいな。俺たちの分がなくなるから」


 殿下は呆れてため息をこぼす。

 一時はバチバチに敵意をぶつけ合った相手の前で、無防備に食事を頬張る。

 この姿を見ていると気が抜ける。

 戦っている時は猛獣、怪物みたいだったけど、今はなんというか……犬?


「ぷはー! 食った食った。大満足だぜ」

「それはよかった」

「おう、ありがとよ。つーか王族だったのかよ。どぉーりで目立つ格好してんなと思ったぜ」

「気づいてなかったのか。騎士団も一緒だったのに」

「あれが騎士団か、へぇ……」

「こいつ……もしかしてバカなんじゃ……」


 ぼそっと殿下の口から呆れと一緒に気持ちが漏れていた。

 私もちょっぴり思ってしまったから否定はしない。

 

「お前、名前は?」

「オレはカイジンだ」

「あんなところで何をやってたんだ?」

「見てわかるだろ。盗賊がいるって言うからぶっ倒してたんだよ!」

「どうして?」

「んなもん、強くなるために決まってるじゃねーか」


 当たり前だろ、みたいなどや顔を見せるカイジン。

 殿下は面食らい、私も理解できずに困惑する。


「つまりなんだ? お前は、修行的な理由で盗賊を倒してたのか?」

「修行じゃなくて殺し合いだ! 生ぬるい戦いじゃ成長できねーからな。つっても、どいつもこいつも雑魚ばっかで退屈だったけどよぉ」


 カイジンはため息をこぼしながらやれやれと首を振る。

 彼は長く旅をしているらしい。

 当てもなくいろんな土地をめぐり、偶然盗賊の噂を聞いてアジトにたどり着いたとか。

 どこから来たのか殿下が尋ねると、彼はあっけらかんとして言う。


「北のほうだったかなぁ。適当に歩いたから方向もイマイチ覚えてねーよ」

 

 強くなるために戦いを求め、敵を求めてさまよう。

 武者修行、のようなものをしていたらしい。

 そこまでして強さを求める理由が気になる。


「どうして、そんなに強さを求めているんだ?」


 同じことを考えたのだろう。

 殿下が尋ねた。

 するとカイジンはニヤリと笑みを浮かべて言う。


「男だからだよ」


 彼は拳を握り、楽しそうな笑みを見せて続ける。


「男に生まれたなら誰だって目指すだろ! 最強ってやつをよぉ!」


 自信満々に、得意げに語る。

 中身のない理由を。

 堂々と、何の偽りもなくシンプルに。


「お前やっぱり……」

「バ、バカですね」

「あん?」

「ひぃ、な、なんでもないです!」


 ずっと殿下の後ろに隠れていたシオン君が、カイジンの話にツッコミを入れた。

 睨むカイジンの視線に負けて、また殿下の背後に隠れる。


「おい、ホントにあの時のガキか?」

「ああ、シオンが勇者だ」

「勇者ねぇ……」

「普段はこんな感じだけど、戦いになれば強いぞ」

「そ、そんなことないですよ……」


 消え入りそうな声で否定しているけど、シオン君の声はカイジンに届いていない。


「北か。出身はこの国じゃないのか?」

「いや、一応ここのはずだぜ」

「どこの……ああ、なるほどな」


 殿下はカイジンの姿を見返して、何かに気付いたらしい。

 少し意地悪な横顔を見せ、カイジンに尋ねる。


「お前、強くなりたいんだよな?」

「おう! 目指すは最強だ」

「なら、魔神に興味はないか?」

「殿下!?」

「ま、まさか……」


 私とシオン君は息を飲む。

 おそらく同じ予想が頭に過っただろう。

 殿下の次の言葉はきっと……。


「カイジン、俺たちと一緒に遺跡に入らないか?」

「あん? 遺跡? なんださっきから魔神とかよぉ。わけわかんねー話しやがって」

「説明してもいいが、その場合は後に引けない。だから先に選んでくれ」

「選べってなんだよ。魔神なんて聞いたことがねーな。強いのか?」

「ああ、おそらく歴史上最強の敵だ」


 比喩でも脅しでもない。 

 魔神の強さは人類史が証明している。

 多くの犠牲を経て討伐することは叶わず、封印するしかなかった最強の敵。

 そう、最強。

 

「――いいね。面白そうだ」


 その言葉を聞いた途端、カイジンの目の色が変わった。

 あくまで強くなるために。

 彼は愚直にどこまでも、強さを求めているんだ。


「なら聞くか?」

「おう。話してくれよ」


 殿下はカイジンに、遺跡についての情報を与えた。

 どこの人間かもわからない。

 信用しようがない相手を、どうして四人目に選んだのか少し不安だった。

 その不安を見透かしたように、シオン君がぼそっと教えてくれる。


「だ、大丈夫だと思いますよ。あの人の心……ギラギラしてるけど、綺麗ですから。悪い人じゃ……な、ないと思います」


 心の形は偽れない。

 シオン君の目にそう見えるのなら、きっと悪人ではないのだろう。


「はっ、いいじゃねーかよ! 乗ってやるぜ」

「言ったな? もう覆らないぞ?」

「おう! その面子に加わってやるよ! 魔神てのが本当にいるかは微妙だが、あんたらは強い。強い奴のところには、もっと強い奴らが集まる。ここにいりゃ、オレはもっと強くなれそうだ」

「ははっ、ブレないな。けどおかげで、揃った」


 殿下は拳を握る。

 意図せずして見つかった四人目。

 その正体もわからない。

 殿下が決めた人で、シオン君も悪人じゃないと言っている。

 それなら私は、二人を信じよう。

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