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31.どど、どうしよう!

「どど、どうしましょう。一週間で四人目を見つけないとメイアナさんが……」

「……うん」


 シオン君は不安を纏った表情でオドオドする。

 私も不安だった。

 リージョン殿下の介入はまったく予想していないことで、このまま順調に遺跡探索を始めると思い込んでいたから。

 きっと予想できたのはアレクトス殿下だけだっただろう。


「でも、大丈夫だよきっと。殿下が必ず見つけるって言ってくれたんだから」

「メイアナさん……」


 不安そうなシオン君と一緒に、殿下の後姿を見つめる。

 彼は執務室の窓から外を眺めていた。

 振り返らず、背を向けたまま言う。


「――ああ、必ず見つける。なんとしても期限以内に」

「私もお手伝いします」

「ボ、ボクも! やれることがあるか、わからないですけど……」

「……ふっ」


 殿下は背を向けたまま小さく笑った。

 そしてゆっくりと振り返り、優しい笑顔で私たちに言う。


「ありがとう。心強いよ」


 その表情は少しだけ、泣いているようにも見えた。

 しかしそう感じたのは一瞬で、彼は気を取り直すように大きく深呼吸をする。


「よし。まずは現状の確認をするぞ」

「はい」

「は、はい」


 私たちはテーブルを挟んでソファーに腰かける。

 一呼吸置いて、殿下が話し始める。


「ここ数日、騎士団に声をかけてきた。一般隊員じゃ今回の探索にはついてこれないから、役職以上に限定して。が、残念ながらいい回答は得られなかった」

「で、殿下の頼みでも、聞いてもらえないことがあるんですか?」

 

 シオン君がオドオドしながら尋ねる。

 殿下は小さくため息をこぼす。


「騎士団は王国のものだ。俺自身のものじゃない。命令権を持つ者は複数いる」

「あの、これを聞くべきか迷ったのですが……リージョン殿下が、圧力をかけたのでしょうか」


 私も尋ねる。

 殿下の前で、実の兄を悪く言うのは忍びない。

 だけど確認したい気持ちが勝った。


「……兄上だけじゃないな」

「え?」

「大臣たちの中にも派閥があるんだ。俺や父上に賛同してくれる者もいれば、兄上に従う者もいる。おそらく支持者も協力している。そうでなければ、兄上の意向だけで騎士団が俺の頼みを渋るとは思えない」

「で、でもなんで、騎士団長はあの人の味方をしているんでしょうか」


 私と殿下の会話に割り込むように、シオン君が疑問を口にする。

 そこは私も気になっていた。

 騎士団長のことを詳しく知っているわけではないけれど、あくまで騎士団のトップが一人の王子に肩入れするというのはどうなのかと。

 

「それに関しては、個人的立場もあるんだろう。あの人は、兄上の教育係だったんだ」


 教育係は王族が子供の頃、日々の生活の中で様々なことを学び経験するために、専属で指導する者のことを言う。

 一般的な言い方をするなら、家庭教師みたいなものだ。

 

「兄上が小さい頃からの付き合いがある。だからあの人は基本的に、対立した場合は兄上の味方をする。もちろん、行き過ぎたことは止める。今回は強引だけど、兄上の意見も一理ある」

「だからって勝手に……国王陛下はどうお考えなのでしょう」

「父上は……正しい結果を残したほうを支持する。どちらかに肩入れはしない。今回も同じだ」


 陛下はあくまで公平に判断する。

 多少の強引さや卑怯さも、結果が伴えば許容される。

 大事なのは結果であり、過程ではない。

 その考え方は貴族も同じだ。

 私が生まれ育ち、捨てたフェレス家でも。

 つまり、国王陛下の助力は得られそうにない。

 騎士団の方々を勧誘するのは難しそうだ。


「宮廷の職員に声をかけるのはどうでしょう」

「それはありだ。宮廷まで兄上の声は届いていない。ただ、前にも言ったが最後の一人は身体能力が高く、シオンの隣で戦える人間が相応しい。宮廷で戦闘能力を持っているのは魔術師か魔導士だ。その戦力は、俺と君で足りている」

「ですが……」

「ああ、わかってる。そんなことを言っている場合じゃない。だけどな? 俺たちの目的は兄上と張り合うことじゃない。遺跡を探索し、魔神の復活を未然に防ぐことだ。ここで妥協して、本来の目的に支障が出たら意味がない。選ぶなら、最高の四人目がいい」


 殿下の意志は固いようだった。

 言いたいことはわかるし、私もテキトーな人を加えるべきじゃないと思う。

 ただ厳しい現状も事実だ。

 勇者であるシオン君の隣に立てる猛者が、そうそういるとは思えない。

 

「探すしかないな。最悪王都の外の人間でも……あ、しまった忘れていた」

「殿下?」


 殿下は頭に手を当てて顔をしかめる。


「明日から騎士団に同行して、盗賊のアジトに乗り込むことになっていたんだ」

「と、盗賊ですか?」


 そんな危険そうな任務に同行する予定だったの?

 私は素直に驚いた。

 殿下は頭を悩ませている。


「かなり大規模な任務だ。出発して戻ってくる頃には最短でも五日後だ。その間探せないのはきつい」

「そ、それならボクたちも協力すれば、は、早く終わりませんか?」

「シオン」

「あ、すみません。やっぱりなんでも」

「ううん、それだよシオン君」


 私はいい提案だと思って、彼を支持する。


「殿下! その任務に私たちも協力させてください。少しでも早く終わらせて、四人目探しに時間を使えるように」

「メイアナ……助かる。ありがとう」

「私は殿下の部下ですから」


 殿下一人に大変な思いはさせない。

 私でも、殿下に時間を作ることくらいできるはずだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 国王陛下は結果を公平に判断するとの事だけど、誰もなしえなかったローリエ遺跡の石板を解析するという偉業も成し遂げたし、王城に隠された入り口も見つけた。第二王子はメイアナの才能を見抜いた。…
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