表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/50

27.似た者同士?

「えっと……」


 私は戸惑う。

 あなたは心が綺麗です。

 その理由を教えてください、という質問を受けて、なんと答えるのが正解なのだろうか。

 第一、心の綺麗さって何だろう?

 私には他人の心は見えない。

 心がどういう形をしていて、どんな色をしていて、人それぞれの違いもわからない。

 シオン君に教えられるまで、自分の心がどんな形をしているのかなんて考えたこともなかった。

 悩み、考え、最適な答えを思い浮かべる。

 結果、振り絞る様に口から出たのは……。


「……わかりません」


 この一言に尽きる。

 お姉さんらしく振る舞おうとして失敗し、私はしょんぼりする。


「ごめんなさい。上手く答えられなくて」

「い、いえ! ボ、ボクが変な質問したのが悪いんです! ごめんなさい、ごめんなさい!」

「シオン君が謝らなくても」

「違うんです。ボクいつも空気読めなくて……だから友達もいないし、誰かと話すのも苦手で……」


 徐々に声量が小さくなる。

 シオン君は自信のなさが態度に出ている。

 でも、逆に言えば苦手なのに、勇気を振り絞って話をしてくれたということだ。

 やっぱり私が悪いかな。

 シオン君の勇気にちゃんと応えられなかった自分が不甲斐ない。


「ねぇシオン君、心ってどんな風に見えるの?」


 だから今度は、私から質問することにした。

 わからないなら理解する努力をしよう。

 ルーン魔術を学んだ時と同じだ。 

 知らないからわからない、知識がないから考えられない。

 彼の言葉も、問いかけも、知れば応えられる。


「心が見えるって、どんな感じなのかな」

「えっと、形はみんな違います。大きさも、見える場所は大体同じで、ここです」


 シオン君は語りながら自分の左胸を指さす。

 彼を真似て自分の同じ場所を触る。

 ドクンドクンと鼓動が聞こえる。

 

「心臓?」

「は、はい。その辺りに浮かんで見えるんです。メイアナさんのも、そこにあります」

「私の心……綺麗って言ってくれたよね」

「はい! すごく綺麗です! 見ていると吸い込まれそうになるくらい!」


 シオン君は目を輝かせて語る。

 緊張はしつつも前のめりに、少しだけ興奮しているように見えた。

 そんなに私の心は綺麗なのか。

 と、改めて頭で考えると無性に恥ずかしくなる。

 それと同じくらい、興味が湧く。


「ど、どんな形?」

「花、です」

「花?」

「なんの花かは、わからないですけど……」


 シオン君はもじもじし始める。

 チラッと目を合わせ、すぐ逸らしを繰り返す。

 何か言いたげな雰囲気を感じた私は、優しく彼に言う。


「いいよ。なんでも言って」

「――は、はい! 実はその……以前に一度だけ、宮廷でメイアナさんをお見掛けしたことがあったんです」

「そうだったの?」

「はい。とても忙しそうにしていて、見たのもほんの一瞬でしたけど」

 

 見習いとして働いている頃だろう。

 報告のために研究室を出て宮廷を歩き回っていたこともある。

 騎士団隊舎と宮廷は隣合わせにあるし、接点は少ないけど見かけることはある。

 どこかですれ違っていても不思議じゃない。


「その時にも心が見えて……けど、つぼみだったんです」

「つぼみ?」

「はい。それでも十分綺麗でした。けど、花が咲いたらもっと綺麗だろうなって思って、だから印象に残っていて……」

「今は、花が開いてるの?」

「はい!」


 シオン君はキラキラと瞳を輝かせて返事をした。

 彼曰く、心の形は変化するらしい。

 その時々の心境や置かれた状況によって、大きくはなくとも日々変化している。

 私の心は花の形をしていて、初めて彼が見つけた時はつぼみの状態だった。

 それが今は、綺麗に咲いているらしい。

 

「だ、だから思わず、声に出ちゃいました」

「そうだったんだ。もしかして、さっき理由を聞いたのはそのせい?」

「はい。つぼみが開いていたのが、どうしてなのかなって。ボクには心は見えても、変化の理由まではわからないので」

「変化の理由……か」


 私は目を瞑り、自分の左胸に手を当てる。

 自分の心をイメージする。

 ここに、花が咲いている。

 宮廷で働いていた頃はつぼみが閉じていたらしい。

 それが今、咲いている。

 私は目を開ける。

 

「きっと、解放されたからだと思う」

「解、放?」


 私はこくりと頷く。


「ずっと落ちこぼれだって言われて、自分はダメな人間なんだって思ってた。けど、そうじゃないんだって教えてくれた人がいた」


 その人は私を選んでくれた。

 優秀な姉ではなく、私が必要だと言ってくれた。


「成果を出したらちゃんと認めてくれる。よくやったって、褒めてくれる。その一言がずっとほしかった。だから、私の心が綺麗になってくれたのは、殿下が私を認めてくれたからだと思う」


 つぼみだった花に水をくれた。

 花開く機会をくれた。

 心の花が咲いてくれたのは、殿下の言葉に励まされたからだ。

 

「殿下のおかげで自分に自信が持てるようになった。だから私は、殿下の役に立ちたいんだ」

「――やっぱり、綺麗です」


 シオン君は言う。

 ぎゅっと、自分の胸の前で手を握りながら。


「そうやって素直に言えるのは、メイアナさんの強さだと思います。強くて、綺麗です」

「ありがとう。シオン君」


 そう言える君の心も、きっと綺麗なのだろう。

 勇者に選ばれる人の心が綺麗じゃないはずないから。


「……ボクも、そんな風になりたい、です」

「なれるよ、きっと」

「本当、ですか?」

「うん。だって私がなれたんだから、誰だってなれるんだと思うよ」


 大事なのはきっかけだ。

 それさえ掴めば、人は変われる。

 私はそれを知っている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』

https://ncode.syosetu.com/n2188iz/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ