26.その質問、困ります
「シ、シオンです! よろしくお願いします!」
「二度目だな」
「よろしくお願いします」
シオン君が私たちに向かって深々と頭を下げる。
改めて、シオン君が遺跡探索のメンバーに加わった。
騎士団隊舎にある応接室に移動し、対面で座った私たちは彼に状況を説明する。
「シオン、お前には俺たちと一緒に、遺跡の調査に参加してもらうぞ」
「はい。えっと、ローリエの遺跡、ですか?」
「いや、そっちはもう終わってる。俺の隣にいる優秀なルーン魔術師のおかげで、新たに遺跡を発見することができた」
「メイアナさんが遺跡を? す、すごいですね!」
ぴょこんと背筋を伸ばし、私のことを褒めるシオン君。
殿下も得意げな顔をしている。
優秀と言ってもらえる優越感は、何度味わっても心にしみる。
特に、本当の意味で才能溢れる二人に言われるのは、他の誰かに言われるより大きい。
「そ、それって、騎士団が王城で動き回ってたのと、関係あるんですか?」
「お、さすがに気づいてたか。正解だ。遺跡は王城の地下、入り口はメイアナが見つけてくれた。中庭の噴水から降りられる」
「噴水? そんな場所にあったんですね。ボ、ボクもよく行くのに気づきませんでした」
「俺もだよ」
「ルーンで隠されていましたから。それに噴水は大きかったので、意識して観察しないと水底にルーンが刻まれていると気付けないと思います」
普通の人なら何かの模様だと思うだけだ。
日ごろからルーンに触れ、見慣れていた私だから気づけたのだろう。
殿下はさらに詳しく説明する。
ローリエの石板に記されていたのは、魔神が封印された場所と、いずれ復活する可能性があること。
その遺跡こそ、噴水の先にある。
入り口が厳重に閉ざされていて、破壊は難しく解除も時間がかかる。
入退場の権利はルーンが刻まれた腕輪四つのみ。
「殿下と、メ、メイアナさんも参加するんですよね?」
「ああ、もちろん」
「足手まといにならないように頑張ります」
「そ、そうですか」
よかった、と小さく呟く。
シオン君は私たちが一緒だと聞いて、どこかホッとしている様子を見せる。
そして気付く。
「あの、もう一人の方は……?」
私と殿下は視線を合わせ、揃ってシオン君に視線を戻す。
「まだ決まってないんだ。現状俺たち三人だけだ」
「そ、そうなんですね」
「ああ。あと一人、どうするかな」
殿下は自分の顎に手を当てて考える姿勢をとる。
シオン君以外のメンバーを思い浮かべているのだろうけど、パッと浮かんでいない様子だ。
勇者以上の逸材は中々いないのは理解できる。
「最後の一人も動ける人員が望ましい。魔術師はもう二人いる。魔神が封印された遺跡となると、魔物が巣喰っている可能性が高い。シオンと一緒に戦えるやつが……」
「騎士団の方々に募集をかけるのはどうでしょう?」
私は無難な意見を殿下に提案する。
騎士団の方々なら、シオン君のことも知っているし、日々厳しい訓練で鍛えている。
探せば適任者はいそうだけど。
殿下の反応は微妙だった。
「悪くないが、騎士団はいろいろと面倒だからな。シオンは例外だが」
「面倒?」
「まぁな。騎士団はあくまで王国を守る組織で、俺の直属の部下じゃない。命令権は王族、大臣たちがそれぞれ持っている。シオンは俺が連れてきたから問題ないが、他の隊員を個人的に引き抜くとうるさい奴がいるんだよ」
殿下はやれやれと呆れながら首を横に振る。
私は首を傾げる。
騎士団は殿下一人のものでないことは理解している。
それでも殿下には命令権があって、遺跡の調査は重要な任務の一つだ。
魔神が封印されているなら、未然に危機を防ぐことも騎士団の仕事だと私は思う。
殿下が口にしたうるさい奴、とは誰のことだろう。
陛下は違う気がする。
だとすれば同じ王族で、殿下のお兄さんの……。
「とりあえず、俺のほうで何人か当たってみる。二人はその間、悪いが待機していてくれ」
「わかりました」
「は、はい」
「すまないな。なるべく早く、っと忘れていた。この後で騎士団のミーティングに参加するんだった。悪いけどここで待っていてくれないか? ニ十分くらいで終わるんだ」
殿下は忙しそうに席を立つ。
「わかりました。待機しています」
「悪いな。まぁせっかくの機会だ。二人で好きに話でもしているといい」
「はい」
殿下は軽く手を振り、そそくさと応接室を出て行く。
相変わらずお忙しい人だ。
ご自身が優秀な魔術師でもあるから、王国にとっても貴重な戦力の一つにカウントされている。
殿下は騎士団の任務にも時折参加していた。
きっとそのためのミーティングなのだろう。
さてと……。
殿下がいなくなり、二人だけになった応接室を静寂が包む。
広い部屋に二人きり。
テーブルを挟んで向かい合い、前を向けば顔が見える。
殿下は話をするようにと言っていたけど、私自身あまり会話が得意なほうじゃない。
特に初対面の異性で、歳もいくつか離れている。
シオン君も人見知りするのだろう。
オドオドと落ち着かない様子だ。
ここは年上のお姉さんとして、場を和ませる何かを……。
「あ、あの!」
とか思っていたら、意外にもシオン君から声をかけてくれた。
勇気を振り絞り、声を大きくして。
私は少し驚きながらも、穏やかに優しく返事をする。
先を越されてしまった分、受け答えはしっかりしようと思った。
「どうしたの?」
「メ、メイアナさんの心は、どうしてそんなに綺麗、なんですか?」
「え……」
彼が尋ねてきたのは、とても答え難い質問だった。






