23.仲間探し
私は殿下に入り口の発見と、その先で見つけた扉について報告した。
執務室の椅子に座り、殿下は私の報告に耳を傾ける。
「庭の噴水か。予想外のところにあったな。通りで見つけられないわけだよ」
「ルーンで隠されていました。魔術師でも感知はできなかったと思います」
「君だから見つけられた、ってことか。石板に続けてお手柄だ」
「ありがとうございます」
殿下はしっかり私のことを褒めてくれる。
この一言が聞けただけで、これまでの苦労も吹き飛ぶ。
もっとも、今回はそこまで苦労はしていない。
「それで、例の腕輪がこれか」
「はい」
殿下が座る椅子の前、テーブルの上には台座にはまっていた四つの腕輪が並んでいる。
錆びてはいるけどルーンはくっきり残っている。
見た目は磨けば綺麗になるだろう。
「この腕輪が、扉を潜る鍵なんだな?」
「おそらくそうです。扉、というより壁は鉄に近い金属で出来ていました。硬度はわかりませんが、相当な硬さです」
「扉の周りは?」
「土と岩、地面です。ただ横から侵入はできません。軽めに砕いて確認しましたが、扉以降も同様の金属で覆われていました。そしてすべてに、無数のルーンが刻まれていました」
扉、壁、台座。
確認できたほぼすべてにルーンが刻印されている。
それも十や二十という易しい数字ではない。
文字通り無数、数えることすら困難な数のルーンが重ねて刻印されている。
「石板の時のように解読はできないのか?」
「難しいです。今回は規模が違います。それに、ルーン自体が外からの魔力を拒絶していました」
「拒絶?」
私はこくりと頷く。
石板のルーンは合計百二十文字。
対して今回のルーンは、少なく見積もっても万を超えている。
たった百文字程度で三週間かかった。
同じやり方で解読したら、何年もかかる。
加えて刻印されたルーンは、術者の意志で外部からの干渉を拒絶している。
読み解くことも難しく、強引な破壊すら今回は望みが薄い。
唯一解読ができたのは、腕輪に刻まれているルーンのみであることを、殿下に改めて伝えた。
「そうか。なら、鍵を使って出入りする他ない、か」
「はい」
殿下は腕を組んで悩む。
憶測を含むけど、この腕輪を装着している者だけが、扉の奥に進むことを許される。
腕輪は四つしかない。
「ルーンで閉ざされているということは、内部にも同様の仕掛けがあると考えたほうがいい。四人のうち一人はメイアナ、君が適任だ」
「はい!」
私は力強く返事をした。
殿下に言われるまでもなく、そのつもりでいた。
ルーン魔術への対策は私にしかできない。
何より、興味があった。
文献以外でルーンに触れる機会があまりになかった私にとって、古代の遺産に触れることは願ってもないチャンスだ。
この遺跡探索が、私自身の成長に繋がる。
そうすればもっと、殿下の役に立てる。
「あと二人か」
「二人?」
「ああ、君と、俺で二人」
「殿下も探索に加わるおつもりですか?」
驚いた私は尋ねる。
すると殿下は不服そうな表情を見せて。
「なんだ? 俺と一緒は嫌か?」
「ち、違います! 私は、嬉しいです」
以前されたのと同じ、意地悪な質問をしてきた。
私はすぐに否定して、恥ずかしさに耐えながらも本音を口にする。
「ははっ、冗談だって。そうか、嬉しいか」
そう言いながら、殿下も少しだけ嬉しそうに笑う。
「安心しろ。こう見えて俺は強い。自慢じゃないが、この国で俺以上の魔術師はいない。ルーン魔術を除いて、な」
「それは、存じております」
アレクトス殿下は魔術の天才だ。
多くの才ある魔術師たちが集う宮廷であっても、殿下の才覚には及ばない。
第二王子にして、現代最高の魔術師。
改めて凄い人物と、こんなにも近くで話している。
「どうせ少数なんだ。テキトーな人材より、実力があって信頼できる人間がいい」
「はい」
それには激しく同意する。
殿下が同行されるなら、殿下が信頼している方を加えるべきだ。
他人と接するのは苦手だけど、殿下が選んだ人なら、きっと大丈夫。
「殿下はもう誰にするかお考えなのですか?」
「そうだな……一人、候補はいる。まだ若いが才能だけで言えば、この国一だ」
「王国一の才能?」
殿下がそこまでハッキリ言う人物がいる?
誰だろう。
パッと頭に浮かばない。
強い人で思い浮かぶのは、王国が誇る騎士団の方々かな。
あとは宮廷魔術師……でも殿下のほうが……。
考えてもわからない私は、素直に尋ねることにした。
「どんな方なのですか?」
「――勇者」
ぼそりと、殿下は口にする。
ニヤリと笑みを浮かべながら。
「この国でただ一人、聖剣に選ばれた者」
「聖剣……そんな人がこの国に?」
「ああ、いる。ちょうどいい」
殿下は椅子から立ち上がる。
「今から会いに行こう。スカウトだ」
「は、はい!」
聖剣に選ばれた人……勇者。
一体どんな凄い人なのだろう。
私は屈強な男性を思い浮かべ、ワクワクしながら殿下と共に部屋を出た。






