22.秘密の入り口を探せ
仕事の邪魔をしないように殿下の執務室を出る。
私が向かったのは研究室だ。
自室の隣にもう一部屋、私専用の研究室を頂いている。
必要な道具は全て揃い、宮廷で働いていた頃の環境に近づけた。
不自由は一つもない。
本当にありがたい限りだ。
「さてと」
さっそく探索を始めよう。
と言っても、すでに騎士さんたちが総動員され探している。
それでも見つかっていない状況だ。
闇雲に探しても見つからないのは明白。
少し頭をひねろう。
遺跡が地下にあることは間違いない。
仮に王城を移動することができれば簡単に見つかるだろうか?
殿下が言っていたように深い場所にあったら?
そもそも移動なんて不可能だ。
騎士たちは私より王城に詳しい。
その彼らが捜して見つけられない時点で、王城の設備と繋がっているわけじゃない。
入り口が隠されているのか、塞がっているのか。
魔術師の感知にも引っかからないという話だった。
魔力が弱いのか、遠いのか。
もしくは……。
「ルーンによって隠されているか……」
ルーン文字に宿る魔力は感知が難しい。
同じルーンの魔術師でも、直接触れるか近づかないとわからない。
ただの魔術師には見つけられない。
ルーンの痕跡を辿るなら、同じくルーンがいい。
私は棚から透明な平たい水晶を取り出し、内側にルーンを刻む。
「【ᚲ(ケーナズ)】」
ルーンを刻まれた水晶は、即席のルーンストーンとなる。
【ᚲ】に込められた意味は松明、船。
探索を得意とするルーン文字。
これを刻印したルーンストーンは、術者の探し物を見つける。
ふわっと浮かび上がり、どこかへ向かって動き出す。
ルーンストーンが通った場所は、うっすらと魔力の線が残る。
私が文字に込めた願いは、ルーンの痕跡を辿ること。
動き出したということはつまり、この王城のどこかにルーンが刻印されている。
可能性が高まる。
私はルーンストーンが作った軌跡を追う。
「どこに……」
繋がっているの?
ルーンストーンは部屋を出て廊下を走る。
少しずつ移動速度が上がるのは、目的地に近づいている証拠だ。
右へ曲がり、左へ、まっすぐ。
道中に騎士とすれ違い、石を追いかける私を不思議そうな顔で見ていた。
端から見れば遊んでいるように見えるのだろうか。
確かに石を追いかける姿は滑稽かもしれない。
そう思うと恥ずかしいけど、気にしたら負けだ。
「遊んでるわけじゃない。お仕事中!」
と、自分に言い聞かせる。
ルーンストーンは速度を増し、ついに追いつけなくなる。
軌跡を追っていくと……。
「外?」
軌跡は外へ、中庭へと続いていた。
王城の敷地は広い。
中庭も豪華で広々としている。
中央に白くてきれいな噴水があるのが特徴的だった。
ストーンの軌跡は、中庭の中心に向かっている。
そして……。
「ここで止まってる」
噴水の上で停止し、浮かんでいる。
私は噴水を観察した。
ただの綺麗な噴水だ。
私は水の中を覗き込んで、思わず笑ってしまう。
「はははっ……私も間抜けだね」
こんな近くにあって、気づかなかったのか。
波打つ噴水の水面。
その奥に【ᚠ】の文字が刻まれていた。
「【ᚠ(フェフ)】のルーン……意味は富、財産」
すなわち、それらを隠すための偽装。
間違いなくここに何かある。
「まずは水を止めないと」
王城の誰に連絡すれば、噴水の水って止まるのかな?
パッと思いつかない。
何より、今すぐ中を確認したいという好奇心が勝る。
私は自然と水面に手を伸ばす。
「――【ᛚ(ラグズ)】」
水面にルーン文字を刻む。
固形じゃないものに刻んだ文字は一定時間で消える。
私は一時的に噴水の水を操り、水底が見えるように流れを調整した。
これで直接触れられる。
文字がこれだけ大きいと、上からなぞるのは難しい。
ただし今回の場合、ルーンを起動させる必要がない。
【ᚠ】のルーンは隠すためにある。
だから、ルーンを破壊してしまえば効果は失われる。
ルーンの魔術師なら破壊も簡単だ。
文字に宿る魔力を、急激に乱せばいい。
「開いて」
刻まれたルーンの一部に触れ、その形を崩し魔力を流す。
調和を失ったルーン文字は効力を失い瓦解する。
パラパラと何かがはがれる音がした。
瞬間、噴水の底がひび割れる。
バキバキバキと大きな音を立て、砕け散った底の先に、地下へと続く階段が顔を出す。
「見つけた」
ここが遺跡の入り口だ。
けど、中は真っ暗でよく見えず、先も長いように思える。
もしかすると入り口へ続く道、かもしれない。
少し危険だけど確かめてみよう。
私は探索に使ったルーンストーンを刻印しなおし、明かりに変えて階段を下る。
地下は寒い。
噴水の影響か湿気もひどい。
一段一段ゆっくり、慎重に下っていく。
そして……。
「扉?」
仰々しい金属の扉がそびえたつ。
他に建物や入り口はない。
扉というより、壁だ。
「……開く、のかな……」
開け方がわからない。
扉の隣を照らすと、何やら見慣れない台座があった。
台座には四つの腕輪がはまっている。
「これは……」
そのうちの一つを手に取り観察する。
腕輪の側面にはルーン文字が刻まれていた。
刻まれた文字の意味を読み解き、理解する。
「そういうこと……」
やっぱりこれは扉だ。
遺跡の入り口。
ここを通るための鍵が、この腕輪だと。






