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21.王城で迎える朝

 朝が来る。

 太陽はいつも変わらない。

 世界で何が起ころうと、人の心に変化があろうと、何食わぬ顔で空に上がる。

 目覚めたくない朝だって、もう朝だぞ、起きろと輝く。


「……ぅう」


 少しだけ、憂鬱な朝だった。

 この感覚も久しぶりだ。

 私はゆっくりと瞼を開き、重たい身体を起こす。


「……」


 ぼーっとしながら時計を見る。

 ほんの少しだけ、普段より遅い目覚めだった。

 別に仕事が嫌になったわけじゃない。

 ただ、疲れているんだ。

 ローリエでの長期任務から帰還して、私は一つのけじめをつけた。

 生まれ育った我が家に、家族に、お別れを告げた。

 覚悟した上での決別。

 居心地のいい場所じゃなかったし、家族に対しての愛情も……受けたことがないから知らない。

 それでも尚、何も感じないことはなかった。

 曲がりなりにも十数年ともに過ごしたのだから、心が揺れるのは当然だ。

 こればっかりはさすがに、自分を情けないとは思いたくない。


「ふぅ……よし」


 パンと顔を両手で叩く。

 ちょっと痛いくらいがちょうどいい強さだ。

 身体は元気で、心が疲れている。

 これから仕事だ。

 あまり心配をかけたくない。

 空元気でもいいから、気合を入れていこう。

 今日からまた、新しいお仕事が始まるんだ。


 朝食は軽めに済ませる。

 部屋の中にキッチンもトイレも、シャワーもあるから便利だ。

 鏡の前で寝ぐせをとかし、服を着替えて歯を磨く。

 靴を履き替えて、最後の身だしなみをチェックする。

 ピッチリ決まっている、はず。

 私は部屋を出て、職場へと向かう。

 と言っても、急ぐ必要はない。

 だってここは……。


「本当……人生何が起こるかわからないなぁ」


 王城の中なのだから。

 

「おはようございます。メイアナ様」

「あ、はい。おはようございます」


 部屋を出てすぐ、見張りの騎士さんに挨拶をされた。

 慣れない経験でオドオドしながら歩く。

 朝は執務室に来てほしいと言われているけど、まだ早いだろうか。

 ローリエでのことを思い返す。

 殿下は私よりも早起きして仕事を始めていた。

 きっと今も、部屋で書類と向き合っているに違いない。

 私は少しだけ歩くペースを上げた。

 そうしてたどり着いたのは、第二王子の執務室。

 深呼吸一回、トントントンとノックする。


「――なんだ?」

「メイアナです! 殿下」

「ああ、入ってくれ」

「失礼します」


 ガチャリと扉を開ける。

 思った通りの光景が広がってホッとする。

 殿下はテーブルに向かい、書類に手をかけていた。


「おはよう、メイアナ」

「おはようございます。アレクトス殿下」


 深々と頭を下げる。

 顔を挙げると、殿下は仕事の手を止めていた。

 殿下は優しい声色で尋ねてくる。


「ちゃんと眠れたか?」

「はい。ぐっすりでした」

「そうか。それならよかった」


 殿下は嬉しそうに笑顔を見せる。


「お部屋の手配までして頂いて、本当にありがとうございました!」

「いいさ別に。部屋なら余ってるし、父上も了承してくれた」


 私はフェレス家を出た。

 屋敷には戻れず、宿なしになった私に住む場所を提供してくれたのは殿下だった。

 王城の一室に住まえばいいと、陛下に提案してくれたんだ。

 驚いたのは、それをあっさりと了承した陛下に。

 家をなくして、まさか王城で暮らすことになるなんて思いもしなかった。


「本当にありがとうございます。私の我儘を聞いてくださったご恩は、一生忘れません」

「大袈裟だなぁ。これは成果をあげた者への正当な報酬だ」

「いえ、報酬なら特例書だけで十分でした。ここまでしていただけるなんて、本当に……」

「律儀だな。別に、君のためだけってわけじゃない。これから始まる仕事にも、王城にいてもらったほうが都合がいいからな」

「はい」


 これから始まる仕事、と殿下は口にする。

 ローリエでの仕事が終わっても、私は殿下の部下のままでいられる。

 そのことが密かに嬉しかった。

 まだ傍で働ける。

 この喜びが続くように、今日も頑張ろうと思う。


「殿下、私は何をすればいいでしょうか」

「そうだな。今、騎士たちに王城の内外を捜索させている」


 魔神を封じた遺跡は王城の地下にある。

 ルーンの石板を解読したことで、かつて起こった魔神との戦いと、その顛末を私は知った。

 この地で魔神との戦いが起こり封印し、封印を守る様に街ができて、国が形成された。

 つまりこの国は、魔神の封印を守護するために形成されたものだった。

 石板の知識のおかげで、国の成り立ちまで知ることになるとは予想外だったけど、それ以上に重要なのは、魔神が復活する可能性があること。

 そして、魔神に施されている封印には、ルーン魔術が不可欠であることだ。


「残念ながら今のところ発見できていない。魔術師も動員して魔力の流れを探ってるが……よほど深い場所にあるのか、感知できないほど微弱なのか」

「では、私もその探索に加わればよろしいでしょうか?」

「ああ、そうしてくれ。俺も手伝いたいんだが、見ての通りの状況だ」


 テーブルの上に積み上げられた書類。

 殿下は忙しそうだ。


「これが終わったらそっちへ行く。すまないが頼めるか?」

「もちろんです」


 忙しい殿下の分もしっかり働こう。

 殿下が来た時に発見できていたら、褒めてもらえるかな?


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