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19.今さら遅い

 陛下への報告を終えた私は、フェレス家に一度戻ることにした。

 長旅で殿下もお疲れだった。

 遺跡の探索を今すぐ始めたいところだけど、二日ほど休みを取ることになった。

 陛下からも、そのほうがいいと言われている。

 早急にというのは、体調を整えた後に素早く、という意味合いだったみたいだ。

 というわけで、私も二日間は自由の身になる。

 この国で、王都で私が帰る場所は一つしかない。

 たとえいい思い出が一つもなくても、フェレス家が私の家……。


「すぅーはぁ……」


 私は屋敷の前で大きく深呼吸をする。

 すっかり帰りが遅くなり、夕暮れ時になった。

 お姉様は仕事を終えて帰ってきているだろうか。

 できれば全員いてほしいと思いつつ、意を決して屋敷の中へと入る。

 自分の家に帰るのに、どうしてこんなにも覚悟がいるのか。

 私にとってこの屋敷は、牢獄みたいな場所だ。

 許可なくして自由に出ることも許されず、使用人からも避けられて居場所がなかった。

 国のトップは陛下だけど、この屋敷の王様は……。


「ただいま戻りました。お父様」


 この人、私の父親。

 フェレス家現当主、アルベルト・フェレス。

 

「戻ったか、メイアナ」

「はい」


 執務室にいた父に帰還の報告をする。

 何も言わずにローリエに行ったこと、怒られると覚悟していた。

 けれど意外と、表情は穏やかだ。


「ちょうどいい。今から夕食にしよう」

「は、はい」


 おとがめなし?


「そこでゆっくり話を聞こう」

「……はい」


 いいや、簡単に終わるはずがない。

 私はごくりと息を飲む。

 夕食の部屋に入ると、遅れてお母様も現れた。


「あら、お帰りなさい、メイアナ」

「はい。お母様」


 珍しいことに、お母様のほうから挨拶をしてくれた。

 今まで一度もなかったことだ。

 いつもはお姉様とだけ話して、私のことは無視されるのに。

 不気味なくらい自然に話している。

 なんだろう、この違和感は……。


「座りなさい。食事をしよう」

「お姉様は?」「レティシアはまだ宮廷にいる」

「忙しいみたいね。ここのところ毎日帰りが遅いのよ」

「そう……なのですね」


 お姉様はまだ仕事をしているらしい。

 少し前の私のように、あふれんばかりの仕事と戦っているんだ。

 気の毒ではあるけど、本来の形に戻っただけ。

 私に押し付けていた分のしわ寄せだ。

 同情はできない。

 ただ、そのことに対してお父様たちがどう思っているのかは……少し気になった。

 なんとも思っていないのか。

 それとも、見せないだけで憤りを感じているのか。

 後者だとすれば、発散の相手はいつも私だ。

 

 静かに食事が始まる。


「メイアナ、アレクトス殿下の下で働いていると聞いたが、本当か?」


 静寂を破ったのはお父様だった。

 何の前置きもなく、質問だけを口にする。 

 私は自然と食事の手を止める。 


「はい」

「そうか。ローリエへも、殿下に同行したのだな」

「はい」

「何の仕事をしていたんだ?」

「それは、まだお答えできません」


 肉親であっても、ここは譲れない。

 陛下からも、遺跡が発見された後で正式に発表すると言われている。

 それまでは内密に。

 質問されることは予想していたので、焦らない。


「……そうか。それが殿下のご意向なら聞きはしない。ともかく、よくやった」

「――!」


 お父様が私を褒めた?

 今まで一度も、褒めたことがないお父様が……。


「本当に驚いたわ。まさか貴女が殿下に気に入られるなんて!」

「お母様」

「ねぇ、殿下とはどんなことをきっかけに知り合ったの? 普段はどんな話をされるの?」


 こんなにも上機嫌に、子供みたいにはしゃいで語り掛けるお母様なんて……知らない。

 私の前ではいつも不愛想に、目すら合わせてくれない人が……。


「殿下のご年齢も確か近かったわね」


 今は私のことをまっすぐ見て話している。

 お父様も上機嫌に見える。

 喜ばしいことだ。

 生まれて初めて、家族らしい食卓を囲んでいる。

 そのはずなのに……。


 気持ち悪い。


 そう思ってしまった。

 これが、私の心の叫びだと気付くのに、時間はかからなかった。

 だから――


「お父様、お母様! 大切なお話があります」

「なんだ?」

「どうしたの? そんなに怖い顔をして」


 覚悟してきた。

 私は今日、この場で生まれ変わると。

 大きく深呼吸を一回。

 気持ちを整えてから、一枚の封筒をテーブルに置く。


「これは?」

「陛下から頂いた特例書です」

「特例?」

「はい。その紙には私の……私個人の貴族としての地位を保障する旨が書かれています」


 簡潔に伝えた一言。

 聡明なお父様とお母様が、その意味を悟る。

 驚く二人は私を見つめる。

 ダメ押しでハッキリと、私の口から伝えよう。


「お父様、お母様……私は今日を以て、フェレス家を出ます」


 それは家を出るという単純な意味ではない。

 フェレス家という貴族の家系から抜けるという意味……すなわち、縁を切るという意味だった。

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