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18.褒美を頂くなら

「行くぞ」

「はい」


 見張りの騎士に殿下が視線を向ける。

 何かの合図をした後で、その騎士が別の入り口から中へと入った。

 仰々しい扉とは別に、騎士たちが出入りする扉もあるらしい。

 十数秒待って騎士が戻ってきて、殿下に入室の許可が下りたことを伝達した。


 そして――


 扉が開く。

 この国で一番高貴な場所へ。

 私たちは赴く。

 赤い絨毯が伸びる先に一段上がって、玉座がある。

 そこに、私たちの王様が座っていた。

 私と殿下は絨毯の上を進み、途中で膝を突く。


「ただいま戻りました。父上」

「――うむ。よく戻った、アレクトス。そして……そなたがメイアナ・フェレスか」

「はい!」

「よい返事だ。二人とも顔をあげなさい」


 私は恐る恐る、頭をあげる。

 見上げた先に座る陛下と、顔を合わせる。


「長旅ご苦労だった。アレクトス、メイアナ」


 国王陛下の顔を知らないわけじゃない。

 この国で、王都で暮らしていて、顔を見たことがない人のほうが少ない。

 一般の方でも、パレードや演説で顔を見る。

 私も何度か見たことがある。

 立派な髭を生やし、シワの数が威厳を感じさせ、王たる雰囲気を漂わせる。

 こんなにも近くで見ているのに、思った以上に威圧感がなかった。

 拍子抜けするほど、穏やかな表情をしていた。


「大事な報告があると聞いたが、何がわかったのだ?」

「はい。その報告は私からではなく、解読に成功したメイアナからさせていただきます」

「ほう、石板の文字を解読できたのか」

「はい。彼女はルーンを操る魔術師です」


 殿下の視線と、陛下の視線が私に集中する。

 期待と興味が入り混じる。

 緊張はしないほうが難しい。

 だからこそ、できるだけ大きな声で、まっすぐ前を見よう。


「ご報告させていただきます!」


 弱い自分を誤魔化すように。

 緊張より、不安より、勇気を奮い立たせるように。

 時間にして十分もなかった。

 私は陛下に、石板を通して見た情報を伝えた。

 四千年前に何が起こったのか。

 魔神と戦い、この地の奥深くに封印していることも。

 

「この城の地下に、遺跡があるというのか?」

「はい。石板にルーンを刻んだ術者の記憶では、この城の地下に魔神と戦った人類の拠点があります」

「では石板があった遺跡はなんだ?」

「あれは術者の研究施設です。彼はあそこでルーンの魔術を研究し、魔神を永久に封じる術と、いずれ復活することを後世へと残しました」


 私のようなルーンを解読できる術師が現れることを期待して。

 自分のような悲しい思いを、未来の誰かがしなくてもいいように、と。

 偉大な魔術師が未来に残したメッセージを、私は受け取った。


「そうか……理解した。アレクトス! 騎士団の一から三番隊までをお前の管理下に置く。早急に遺跡探索に取り掛かれ」

「はっ!」

「素晴らしい成果だったぞ、メイアナ。お前の働きのおかげで、我々はいずれ起こる悲劇を未然に防ぐチャンスを得た。王国、民を救う足掛かりを作ったのだ。まさしく英雄と言えよう」

「わ、私は与えられた業務を全うしただけです。英雄などと……」

「謙遜しなくてもよい。このワシが認めているのだ。胸を張るがよい。お前は、お前にしかできない偉業を成し遂げたのだ」


 陛下の激励が、私の心を突き抜ける。

 今、やっとわかった。

 陛下とこんなに近く接しているのに、気が抜けてしまうのは……。


「よく頑張ったな、メイアナ」

「殿下……」


 陛下が、私の隣にいるこの人に似ているから。

 考えてみれば当然だ。

 だって陛下、私のことを認めてくれた殿下の御父上なのだから。

 私の頑張りが、殿下だけじゃなくて、陛下にも認められた。

 これ以上の幸福はない。

 嬉しさがこみ上げて、涙が出そうになる。


「メイアナよ、調査にはお前も加わってほしい。お前の力が必ず必要になる」

「はい!」

「うむ、よい返事だ。さて、此度の成果の褒美を与えないとな。メイアナよ、何か望むものはあるか?」

「望むもの……ですか」


 陛下から褒美を頂けるなんて、予想していなかったから驚く。

 急に問われてもすっと答えが出ない。


「なんでもよいぞ」

「……」


 私に必要なもの……私が望むもの。

 お金は働けば手に入るし、これまで見習いとして働いたお金は手つかずだ。

 地位も、私は一応持っている。

 名誉は……欲しいとはあまり思わない。

 全員に認められなくてもいい。

 ただ、ちゃんと見てくれる人が、一人でもいいからいてほしい。

 その願いは叶っている。

 願わくばこの先も、殿下の隣で働けるように……。


「ないのか? 望みは」

「父上、いきなり聞かれても簡単には出ませんよ」

「む、それもそうか。すまなかったな、では後日改めて――」

「一つだけ! お願いしてもよろしいでしょうか」


 私は声を大きく口にする。

 殿下と陛下は揃って驚く反応をした。

 我ながらずうずうしい願いを思いついた。

 けれど、私には必要なことだ。

 これから先、しがらみを脱ぎ去って、前へと進むために。


「私は――」


 今の自分を、脱ぎ捨てる。


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