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17.災厄が眠る場所は

 目の前が真っ白になった。

 石板のルーン文字は、それ自体が一つの術式となっていた。

 全ての文字を解読し、最後まで読み切ること。

 それこそが発動条件だったらしい。


「ここは……」


 真っ白な世界だ。

 自分だけが何もない空間に浮かんでいるような。

 それとも立っている?

 見えないけど地面がある。

 いいや、それだけじゃない。

 夢のような世界で目を凝らすと、見えてくるものがある。


「これは……記憶?」


 誰かの、記憶。

 おそらく石板にルーン文字を刻んだ術者の記憶だろう。

 見知らぬ景色が広がる。

 まさか古代の、四千年前の世界か。

 街がある。

 今の街並みとは全然違って、粘土を固めて作られた一階建ての家が並ぶ。

 地面と家の壁の色がほとんど一緒だ。

 今よりも建築技術が発達していなかった時代ならではの景色。

 現代を生きる私には新鮮だった。

 何よりも……。


「平和だ」


 人々は今ほど裕福ではなくとも、自由に生きていた。

 幸せそうだった。

 記憶の主も、妻と子供に恵まれて、幸せな日々を送っている。

 しかし、ある日突然悲劇は起こる。

 空が漆黒に覆われた。

 太陽は隠れ、月もなく、ただただ暗闇が世界を包んだ。

 これこそが魔神の誕生。

 生まれ落ちてすぐ、人々を恐怖のどん底へと突き落とした。

 太陽が漆黒に消え、魔物たちが活性化する。

 人々は魔物たちとの戦いを余儀なくされ、戦乱は広がる。

 多くの血が流れた。

 流れる必要がなかった血がほとんどだ。

 術者の家族も、魔物によって殺されてしまった。


「ひどい……」


 術者は怒りに震えた。

 魔物に対する怒り、魔神に対する憎しみを抱く。

 優れたルーン魔術師だった彼は、最前線で魔神と戦う道を選んだ。

 多くの同胞が倒れながら、前だけを向き突き進む。

 しかし魔神の力は強大すぎて勝機が見えない。

 戦うほどに人類側の戦力はなくなる。

 そこで彼らは考えた。

 勝利することではなく、戦いを終らせる方法を。

 ルーンの魔術師たちを総動員して、魔神を封印する術式を生み出した。

 当然、魔神の封印は容易いことではない。

 最後の決戦でも血は流れた。

 それでも人々は意地を見せ、見事魔神を封印した。

 人々は勝利したのだ。


 しかし、ルーンの魔術師は気づいていた。

 この封印が永遠ではないことを。

 いずれ遠い未来で、魔神の恐怖が世界を襲うことを。

 だから残した。

 後世に、偉業としてではなく、託すために。


  ◇◇◇


「――アナ! メイアナ!」


 大声で名前を呼ばれて、私の意識は覚醒する。

 視線の先には心配そうに私を見下ろす殿下の顔があった。

 肩と頭を支えられ、背中にも殿下の腕が回っている。


「殿下……?」

「よかった。目が覚めたか」

「えっと、私……」

「気を失ったんだよ。ルーン文字を読み切った途端に」


 石板の記録を見ている間、私は気を失っていたらしい。

 梯子から落ちる私を殿下が受け止め、目覚めるまで何度も呼び掛けてくれていたようだ。


「すみません殿下、ご心配をおかけしました」

「大丈夫なのか?」

「はい。身体に異常はありません。石板に刻まれていたルーンが発動しただけです」

「ルーンが……何があったんだ?」


 心配そうな表情で殿下が私に尋ねる。

 私はゆっくりと身体を起こし、殿下と改めて顔を合わせる。


「魔神が封印されている場所がわかりました」


 殿下は大きく目を見開く。

 話すべきことは色々あるけど、まずは一番殿下が知りたいことを伝えよう。

 私は見た。

 術者の記憶を、四千年前の真実を。


「……どこだ?」

「……王都」

「――!」

「王城の地下に、魔神を封じている遺跡があります」


  ◇◇◇


 ガタンゴトンと馬車が揺れる。

 出発した頃より揺れは小さくなった。

 整備された道を通っている証拠だ。


「帰ってきたんだ」


 窓の外を見る。

 石板の調査を終えて、私は王都へと帰還した。

 久しぶりに見る王都の景色だ。

 わずか数週間の出来事だけど、王都から出る機会がなかった私にとって、この数週間は大きく長かった。

 王都が懐かしいと感じるほどに。


「父上へ報告に行く。準備はいいな?」

「は、はい!」


 緊張するけど、これも私の役目だ。

 解読した内容を国王陛下に報告する。

 私は殿下と共に王城へと帰還し、玉座の間へ向かう。

 先に話があることは、騎士さんが陛下に伝えてくれている。

 陛下は私たちが来るのを待っている。


「緊張してるか」

「はい」


 廊下で殿下に尋ねられた。

 当たり前だ。

 陛下とお話する機会なんて貴族でも滅多にない。

 私にとって初めての体験だ。

 だけど不思議と、怖いとは思わない。

 なぜだろう?


「わかったことを報告するだけだ。俺も傍にいる」

「はい」


 殿下が一緒だとわかっているからかな?


 いつの間にか私はたどり着いていた。

 玉座の間に。

 仰々しい扉の先に、この国の王様が待っている。

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