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13.楽しいと思えること

 ルーン文字は魔術のために作られた文字。

 文法や単語はなく、一文字一文字に意味が込められている。

 それ故に、意志疎通のための言語には適していない。

 だからこそ、ルーン魔術師だけが解読できる暗号として用いられる。


「えっと、昨日は三段目まで終わったから、四段目からか」


 石板に梯子をかけ、四段目の文字が書かれている場所の手が届くところへと登る。

 ルーン文字の石板を解読する方法は地道だ。

 一文字に含まれる意味を読み取り、わかった意味を組み合わせて連想する。

 術者の魔力によって刻まれたルーン文字には、術者の意志が宿る。

 こうしたいと、ああなってほしいとか、曖昧なものから具体的な指示までバラバラだ。

 石板には直接文字が刻み込まれている。

 しかし触れるとわずかに魔力が通っている。

 石板を見つけた者が解読できるように、書き手が魔力を込めて刻んだに違いない。

 つまりこの石板は、ルーンを扱える魔術師が解読することを前提にしている。

 励ましの意味ではなく、文字通り私にしか解読できない。

 私は四段目の最初の文字【ᛉ】。


「【ᛉ(アルギズ)】」


 石板の上からなぞると、わずかに魔力が活性化する。

 【ᛉ】の意味は防御、擁護。

 何かを庇い、守ると言う意思が込められることが多い。

 この文字からも同様に、守るという意思が伝わってくる。

 おそらくこの解釈は間違っていない。 

 私は視線と指を左に移動させる。


「次は……【ᚦ(スリサズ)】」


 同様に上からなぞり、魔力の活性化を感じる。

 ルーン文字の起動には成功した。

 【ᚦ】の意味は巨人、怪物、いばら。

 直接的に大きな人を表すこともあれば、強大な力、恐ろしい何かをイメージする場合もある。

 大きさも物理的なものか、精神的なものかで異なる。

 今回の場合は、魔神の強大さを表しているのだろう。

 と同時に、その脅威が茨のように世界各地へ広がっていったことも。


 こんな風に一文字ずつ、込められた意味を理解していく。

 文字に宿る意志、感情を読み取り、時代背景や前後の文字に込められた意味をヒントにして。

 正解を知るのは刻印した術者だけだ。

 採点する人は、四千年前の人物で、とっくの昔に亡くなられている。

 憶測を含む解読は、結果だけが成否を分ける。

 この石板は何を描き、何を伝えているのか。

 殿下の推測通りなら、魔神に関する何らかの秘密が書かれているはずだ。

 それを読み解くことが私の仕事。


「次は……」


 こうして時間は過ぎていく。

 地下にいると日の動きが見えないから、時間の感覚がわからなくなる。

 定刻になると、見張りの騎士さんが声をかけてくれる。


「メイアナ殿、そろそろお時間です」

「あ、はい」


 ちょうど四段目を解読し終わったところで、仕事を終える時間になった。

 一日大体一段から半分くらいのペースか。

 情報が増えるにつれ解読のペースも上がっていく。

 このまま行けば、一週間以内には全て解読が終わりそうだ。

 殿下から滞在の期限を最大一月と言われている。

 

「なんとか間に合いそう」

「そうか。順調そうで何よりだな」

「はい。え、殿下!?」


 梯子の下に殿下がいる。

 いきなり声をかけられた私は驚いて、勢いよく振り向いた。

 

「い、いつからいらしていたんですか!」

「ついさっきだ」

「今すぐ降ります!」


 殿下を見下ろすなんて無礼すぎる。

 私は慌てて梯子を下りようとした。


「急がなくていいぞ。落ちたら大変――」

「あ――」


 忠告とほぼ同時に、梯子がぐらんと揺れる。

 その拍子にバランスを崩し、私は梯子から放り出されてしまう。

 下は固い岩の地面、頭から落ちたら大けがをする。

 どんくさい私は恐怖で目を瞑った。

 ふわっと、抱きかかえられる。


「ったく、危ないって言っただろ?」

「――殿下」


 梯子から落ちた私を、殿下が優しく受け止めてくれた。

 さながら姫を抱き上げる王子様のように。

 なんて、私は姫じゃないけど。

 彼はゆっくりと私を下ろす。


「大丈夫だったか?」

「は、はい。すみませんでした」

「怪我がなかったならいいさ。というより軽かったな。ちゃんと食べてるのか?」

「はい! 出された物は全部!」

「そういえばそうだったな」


 殿下が楽しそうに笑う。

 私の不注意を怒ることもなく、ただ心配してくれた。

 この方は本当に……。


「さぁ、帰ろうか」

「はい」


 私は殿下と一緒に別荘へと向かう。

 外はすでに夕日が沈み、星々が輝く夜になる。

 今夜は満月が綺麗だ。


「月が綺麗ですね」

「そうだな。王都より街の光が少ないから、星も月もよく見える。こういうのも悪くないな」

「はい」


 穏やかな時間が過ぎる。

 仕事の疲れもほどほどに、誰かとゆったり会話しながら家に帰る。

 王都では一度もできなかった体験をしていた。

 しかも相手は王子様。

 なんて贅沢なのだろう。


「解読は順調そうだな」

「はい。あと一週間以内には終わりそうです」

「早いな。無理してないか? 滞在期間ならまだ余裕があるぞ」

「大丈夫です。むしろ楽しくて、早く仕事がしたいって思えるくらいですから」


 こんな気持ちになったのは初めてだ。

 仕事は辛いもので、誰かの代わりにやるものだった。

 姉に押し付けられたから仕方なく……自分の成果にもならない。

 今は違う。

 私に与えられた私だけの役割だ。

 この穏やかな時間も含めて、私は幸せを感じている。

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