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10.初めての感情

 ガタンゴトン。

 馬車が揺れる音だけが響く。

 私と殿下は同じ馬車に乗っている。

 狭い馬車の中で二人きり、手を伸ばせば簡単に届く距離間。

 出発して数分しか経っていないのに、私の緊張はピークを迎えていた。

 

「メイアナ」

「は、はい!」

「急に大きな声を出したな」

「すみません……」


 突然声をかけられた私はテンパってしまった。

 殿下を驚かせてしまったことを反省する。

 こほんと小さく咳払いをして、改めて殿下と向き合う。


「どうされましたか?」

「沈黙は苦手でな。何か話そうかと思ったんだが、聞いてもいいか?」

「何でしょう?」

「どうしてルーン魔術を身に着けようと思ったんだ?」

「それは……他に使えなかったからです」


 自信のなさから声量が尻すぼみになる。

 殿下は続けて問いかけてくる。


「他って色々あるだろ? 過去も含めたら魔術の系統なんて何十とあるんだ。まさか全部試したのか?」

「はい。試しました」

「全部って、全部か?」

「はい。文献に残っているものは全て」


 私がそう言うと、殿下は目を丸くして驚く。

 そんなに驚くことだったかな?

 いいや、それだけ試してルーンしか使えなかったのか、という呆れの驚き?

 だったら納得できるけど、殿下にそう思われるのは悲しい。

 他の人に思われるよりも、心にちくりと刺さる。


「凄いな。それだけ試すにはかなり時間がかかっただろう? 知識だって必要だ。相当努力しただろ?」

「え、あー……どうでしょう」

「努力したんだよ。そこは素直に、はいと答えればいい」

「は、はい! 頑張りま、した?」


 頑張ったことを誰かに伝えるのは、なんだか不思議な感覚だ。

 今まで頑張っても口にできなかったから。

 言ったところで、誰も認めてくれなくて……。


「その知識もあったから、ルーンを使いこなせたんだろう。正しい努力の仕方をしたな」

「――ありがとう、ございます」


 努力を褒めてもらえた。

 心がぶわっと逆巻きだし、震えて涙がこみ上げてくる。

 私は涙をぐっと堪えた。

 泣くよりも今は、目いっぱいに笑いたかった。


「じゃあ他の系統のことも調べたんだろ? ルーン以外で面白いと思ったのはなんだ?」

「えっと、地脈系は難しくて、でも面白かったです」

「地脈か、あれも奥が深いからな」


 それから、私たちは魔術の話で盛り上がった。

 天才魔術師と呼ばれている殿下も、私以上に魔術に詳しい。

 ただ詳しいだけじゃなくて、独自の解釈をしていたり、応用を試したり。

 楽しんで魔術を学んだことが感じ取れた。

 私も、ここまで深く魔術の知識を語り合えたのは初めてで、楽しさに時間を忘れた。


 そうして時間は過ぎ、疲れて眠り夜を超え……。


 いつの間にか朝になる。

 ちょうど目が覚めたところで、私たちを乗せた馬車が止まった。


「ついたぞ」

「ここが……」


 ローリエの街。

 古代の遺跡が見つかったという場所。

 王都に比べて街の規模は十分の一くらいだけど、広さは同じくらい。

 特徴的なのは、街の中に川が流れていたり、林があったり、芝生があったり自然が取り入れられているところだ。

 ローリエの街は自然と人工物が上手く融合している。

 観光地としても有名な街でもあった。


「荷物の移動は騎士たちがやってくれる。俺たちは遺跡へ行こうか」

「はい」


 殿下と一緒に馬車を降りて、騎士数名が同行して遺跡へと向かう。

 遺跡は街の中心から外れた川辺にある。

 子供たちが遊んでいたところ、偶然人が通れる穴を見つけた。

 穴を広げてみると、地下へと続く階段が発見され、中を調査した結果四千年前の遺跡だったと判明したらしい。

 私はワクワクしていた。

 任務で遠出することも初めてだし、遺跡へ入るのも初めてだ。

 仕事なのはわかっていても、子供みたいな好奇心がこみ上げてくる。

 それを見抜かれたのか、殿下は私の横顔を見てクスリと笑った。


「で、殿下?」

「いや、君は顔に出やすいな」

「そ、そうでしょうか」

「ああ、わかりやすいよ。気持ちはわかるけどな。俺も同じだ」


 殿下も、ワクワクしている?

 そう言われると少しだけ、殿下の表情から期待が感じ取れる、気がした。

 そうして現場に到着する。

 入り口の穴は整備され、騎士が見張りで立っている。

 階段を下り地下へ向かう。

 魔導具のランタンが等間隔で設置され、足元を照らす。


「この遺跡からは、戦闘に使われたとされる魔導具の残骸も発見されている。研究者たちの予想では、魔術師たちの前線基地だったんじゃないかと言われてる」

「前線基地……この地で戦いが起こったのでしょうか」

「かもしれないな。それを知る鍵が……」


 私たちはたどり着く。

 魔導具でライトアップされた石板の前へ。


「ここに隠されているかもしれない」


 石板は私の身長の三倍はある。

 見上げるほど大きな石板には、見慣れたルーン文字が刻まれていた。

 横に十二文字、縦に十行……ルーン文字の文章としてはかなりの長文だ。

 私はよく見るために、一歩前へ出る。


「解読できそうか?」


 私は石板に触れる。


「わかりません」


 断言はできない。

 絶対できると言い切れるほどの自信はない。

 それでも……。


 私は振り返る。


「やってみます」


 この人をガッカリさせたくない。

 

「頼んだぞ。現代唯一のルーン魔術師」

「はい!」


 頑張ろう。

 私に初めて期待してくれた人のために。

 彼の目が、私を選んだことが、正しかったと言えるように。

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