第2話
そんな平和な生活も少し変化が訪れた。
ハイエルフの別名は『調停者』
これは全世界の共通認識。
調停者のハイエルフの調査を拒否しても勝手に侵入してとことんまで調査される。
森の生物達はこの世界の強者達。
森にちょっかいをかけて滅んだ文明は山ほどある。
太古の昔から世界中に点在する原始の森にはドラゴンが住み着き、ドラゴン達は森の『報復者』
ドラゴンが住む森にちょっかいをかけると滅ぼされる。
何本か森の木を切るぐらいなら、数日で元に戻るので誰にも文句は言われないし、ドラゴンも元に戻るのであれば報復しない。
逆に言えばドラゴンが動く時は破壊と滅亡しかない。
それで始めに動き出すのが『調停者』である、その森に住むハイエルフ。
しごく争い事を好まぬハイエルフが出来事の調査を行い森の生物と相談する……人族の中ではいわゆる『森の裁判』と呼ばれる恐怖の出来事だ。
人族の法律、立場なんかも一切考慮されない森のルールの裁判。
龍の森にハイエルフは俺の前にはいなかったので、龍の森の生物が訴える相手はドラゴンの長老達。
ドラゴンは調べないし手加減もしない。
匂いをたどり暴れる。
森の中での争いは弱肉強食なので生きるか死ぬか。
森の争いではドラゴン達は知らんぷり。
例え種族が滅んだとしても森の自然淘汰としてとらえられている。
森の生物がドラゴンに訴えるのは『森の外の生物』との争い事のみ。
つまり人族との争いだ。
つっても人族は龍の森の中に入れないので……争いと言っても森の外に出てっちゃった子供を探して欲しいってのがほとんどのようだ。
ほとんどはすぐに見つかるのがパターンで、ドラゴンの命を受けた森の周辺に住むワイバーンが運んできて終了。
そんなワンパターンばかりだが……お宝を見て欲望に負ける人族は多数いる。
そんなヤツらに見つかると、珍しい龍の森の種族の子供は大金で売られる。
ドラゴンの逆鱗にわざわざ触りにいくのが人族。
後は逃げれば良いし証拠もないだろとたかをくくり逃げてる途中で街ごとドラゴンブレスで滅ぼされる。
違う理由もある。
報復者の習性を利用して森の子供を誘拐して、敵対国家の首都に運び込んだ後殺害。
敵対国家の首都ごと滅ぶという狂気な自爆テロみたいな事も何回かあったようだ。
管理者から
【やたらに滅ぼすのはやめてほしいんだけど】
と言われ
ドラゴンの答えは
「調停者のハイエルフを配属してよ」
んでもって、俺が龍の森の王のハイエルフとしてやってきた。
だから龍王の挨拶の後にしばらく雑談して、帰る前に言われたのが
「調停者の仕事もできればお願いします。」
だった。
意味がわからず詳しく話を聞いて納得したけど。
別に暇してるし、龍王はすでに友達だしで依頼があれば受けると返事した。
龍の森の西の方にある岩山に住むロックライガーという種族が困っているので協力して欲しいと古龍の長老から依頼がきた。
古龍の長老にロックライガーの巣に転送魔法で送ってもらい、まずは事情聴取。
聞き込み開始。
いなくなったのはまだ先月に生まれたてのロックライガーの四つ子の一頭。
ゴールデンレトリバーぐらいの大きさのメス。
名前は『ニャル』
はしゃいで走り回って遊んでるうちに森の外まで行っちゃった。
ニャルがいなくなった事に気付くのが遅れ慌てて種族総出で追いかけたが森の外の草原を抜けた辺りで気配も匂いも消えてたらしい。
急いでドラゴンに相談したとの事。
2日前か……急がないとな。
気配がなくなった場所までロックライガーに乗せてもらって移動。
モコモコのフワフワで乗り心地は最高。
自分のモフモフ好きを忘れてたわ。
鱗姿のドラゴンと人族姿に変化したドラゴン。
その他に周辺で見かけるのは恐竜。
リッチが連れてくるのは配下のアンデットばかり。
モフモフが周囲にいないので忘れてたわ。
ロックライガーは地球のアジア象よりもデカくてモフモフで乗れる……最高やん。
仲良くしたいし他の子供もむちゃくちゃ可愛いし、マジメに仕事しないとな。
まずはロックライガーを巣に帰し、魔法を使ってニャルの痕跡を探す。
ふむふむ。
近くに咲いている花が複数あったので魔力を通すと様々な角度からの映像が浮かぶ。
ここでニャルは箱に入れられてるな。
少し移動したところで罠にかかったようだ。
箱を運んでいるのは盗賊じゃなくて正規の騎士団のように白銀に輝くフルプレートアーマーを全員が装備してるとこまで見えた。
映像をドラゴンの長老に魔法で送るとアーマーに描かれてる紋章から、龍の森近くの人間国家『アーリンドル』で森の一番近くに領地を持つ『エッシェンバッハ辺境伯家』の紋章……と酷似してるが、偽物であると長老達によって断定された。
自爆テロパターンみたいだな。
映像の中の紋章に描かれてるドラゴンのしっぽの鱗の数と形が違うんだと。
マジか。スゲーな。
引き続き調査を求むとお願いされちゃったよ。
よっしゃ頑張りましょう。
微かに残る痕跡をたどっていくと西にある道に続いていて、そのまま痕跡を追いかける。
微かに残る痕跡を追っているので小走り程度のスピードしか出せないんだが、全力疾走する馬車を置き去りにしていく。
エッシェンバッハ辺境伯家の領地の関所に到着。
痕跡をたどり貴族用出入口で横入りしてステータスカードを見せると最優先で入場させてもらえた。
並んでいた貴族は御者まで含めて誰一人として文句も言わなかった。
顔も隠してないし長い髪は首の後ろぐらいに縛ってあって長い耳が丸見えになってる。
調停者なんて初めて見たよ。
って言葉を後ろに聞きながら。
俺が横入りしようとした時に列に並んでいる先頭の馬車の上に乗る御者が文句を言おうとして、俺の金髪の長い髪と長い耳を見て自分の手で物理的に口をふさいで文句を飲み込んだぐらいにはハイエルフは恐れられている。
ドラゴンやハイエルフに国境なんてない。
それは人族の中での取り決めであって、調停者や報復者には適用されない。
入国時や街に入るときなんかは便宜上ステータスカードを見せるだけで、人族の法律の縛りの外にいるからだ。
ハイエルフやドラゴンは土地の侵略すらする気もないし。
ハイエルフは調停者としての調査が終われば、何日かは人族の街で遊んだりもする事もあるが、基本的に森の住人なんで用が済めばとっとと森に帰る。
遊ぶためのお金も冒険者ギルドに、森の中の貴重な薬草やポーション、森の中にしかいない魔獣の素材なんかを売って金を稼ぐので……全世界のどこでも大歓迎な『お客様』でしかない。
……って龍王に調停者をやる上での特典として教えてもらってた。
関所を兼ねた街は想像してたよりも大きな街だった。
街の名前は『ジャリストン』
過去にここに関所の街を作ったエッシェンバッハ辺境伯家の5代目当主の名前がつけてある。
俺が痕跡をたどりニャルを探していると、パトロールしていた警備兵のチームが俺の不審な動きに気付いて近づいてきて、俺の耳を見て一瞬停止。
持っていた槍を後ろに置き、両膝を地面につけて握った右手を胸に当てるこの国の最敬礼で挨拶してきた。
「調停者様、お忙しいところ申し訳ありません。ジャリストン第8警備隊隊長『ザクビーザー』と申します。何かの事件でしょうか?」
「うん。僕は龍の森のハイエルフで名前は『ホープラー』。ロックライガーから依頼を受けてね。子供のニャルという女の子を探してるんだ。匂いの痕跡をたどってきたらこの建物の裏口に続いててね。できれば手伝ってほしいんだけど。」
「はっ、了解いたしました。何でもご命令ください」
俺の手伝って欲しいという言葉を受けて後ろにいた隊員が応援を呼びに警備隊本部と、ここから一番近い警備隊支部に何人かが走って行った。
「この裏口と表の正面玄関と逃げ道が無いように封鎖して欲しい。中に入っての捜査は僕がやるよ。」
「了解いたしました。5分ほどお待ちいただければ応援が駆けつけてまいります」
「すまんね。これはお礼。先渡ししとくよ。」
アイテムボックスから出したのはハイポーション。
5本。
1本づつ手渡しする。
ザクビーザー隊長は目を見開いて受け取りお礼を言われた。
「貴重な物をありがとうございます。」
「いいよいいよ。手伝ってもらってるのはこっちなんだから」
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