突入部隊
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──突入部隊
直樹率いる警察と民間警備企業の対テロ部隊は宰司宅を包囲したまま、動けずにいた。屠龍によるロケット弾の攻撃を受けて宰司は生き残っているのだ。
では、どうするべきか?
「強行突入を以てして被疑者の身柄を確保する」
直樹は警察と民間警備企業の対テロ部隊にそう説明する。
「突入部隊は屠龍を盾にして突入。爆発物に警戒しながら、室内において被疑者を確保する。抵抗する様子があれば射殺して構わない。我々の任務はテロリストを制圧することだ。そのためならば被疑者が死亡しても許される」
直樹が説明するのに、警察と民間警備企業の対テロ部隊の指揮官たちは頷いていた。
「相手はテロリストだ。全力で事に当たろう」
テロリスト相手ならば裁判は必要ない。
そういう常識ができてから何年が経っただろうか。ニューヨークのふたつの塔が崩壊してから、世界は対テロと名をつけて、裁判なしの暗殺作戦を繰り返してきた。日本でももはやこの手のことは常識になりつつあった。
テロリストは殺していい。
新宿駅で1500名の犠牲者を出してから、日本人すらもそう思い始めていた。
だから彼らは重武装の民間警備企業に警察業務を肩代わりすることを委ねたのだ。いざテロリストが現れたときに彼らがテロリストを武力制圧してくれることを期待して、彼らの仕事を任せたのである。
「それでは割り当てを説明する。A班は民間警備企業チーム、B班は警察チーム。同士討ちを避けるために赤外線ストロボを使用。暗視装置はサーマル。間違っても味方を撃つな。また室内は狭いため、跳弾に警戒。まあ、言うまでもないか」
直樹がいちいち指示しなくとも、民間警備企業と警察の対テロ部隊はその手の作戦をちゃんと把握しているだろう。
「それでは作戦を開始。配置につき次第連絡せよ」
「了解」
こうして民間警備企業と警察の対テロ部隊は配置に付き始めた。
「アーマードスーツを流石に撃破はされないだろうが……」
だが、アーマードスーツの攻撃を凌ぐ可能性がある。
『A班配置についた』
『B班配置につきました』
それぞれの部隊から報告が上がる。
「突入開始。屠龍は突入口をロケット弾で作れ」
『了解』
宰司家に再びロケット弾が叩き込まれ、屠龍の浸入するスペースが確保される。
それから民間警備企業と警察の対テロ部隊が突入していく。
民間警備企業と警察の対テロ部隊は宰司宅内部をゆっくりと進んでいく。屠龍が登れない狭い2階には警察の対テロ部隊が昇っていき、確認を行う。だが、宰司は2階にはいなかった。
「2階に敵影なし」
「引き続き1階の捜索を続けろ」
民間警備企業と警察の対テロ部隊が1階の部屋を一部屋ずつ捜索していく。
「被疑者確認、被疑者確認!」
「投降しろ! もう逃げ場は──」
民間警備企業の対テロ部隊が宰司を見つけたとき、宰司は思わぬ行動に出た。
結界を展開したまま屠龍に体当たりを食らわせたんだ。
屠龍は倒れなかったが、後方に押しやられる。
「撃て、撃て!」
「射殺しろ!」
民間警備企業の対テロ部隊が宰司に向けて発砲する。
すると、全ての銃弾は弾かれ、跳弾が発生する。
「撃ち方止め! 撃ち方止め!」
「後退しろ! 後退しろ!」
パニックに陥りかけながらも、民間警備企業の対テロ部隊が室内から脱出する。
「A班。目標は排除できたのか?」
『いいえ! 目標は奇妙な──バリアを展開! 銃弾が通じない!』
「バリア?」
そこで直樹は思いなおす。宰司も勇者だ。何かしらの能力を持っていると。
「A班、撤退。B班も室内から撤退しろ。外から撃ちまくれ」
『了解』
屠龍が室外に出て、そこから50口径の重機関銃や40ミリグレネード弾の攻撃を浴びせる。銃声と爆発音で周囲の空気が揺さぶられ、直樹は結果を確かめるためにサーマルセンサーを搭載した双眼鏡を掴む。
宰司は生きていた。あれだけの鉛玉と火薬を食らっても生きていた。
「屠龍を残し、残りの部隊は撤退。屠龍全部隊に通達。ロケット弾で目標を攻撃せよ」
『了解。ロケット弾を使用する』
14体の屠龍が一斉にロケット弾を発射する。ロケット弾を前には民家は虚しく崩れ去るだけであり、屠龍の操縦士は次々にロケット弾を発射していく。
そして、榴弾を撃ち終えた屠龍はまた静かに宰司宅を監視し始めた。
「やりすぎでは?」
「これぐらいは必要だろう」
相手は化け物だ。これでもまだ生きている可能性がある。
やがて静寂が訪れ、何もかも終わったかのように思われた。
だが、終わってはいなかった。
瓦礫が蠢きく音がし、瓦礫の中から宰司が姿を見せた。
「畜生。化け物だ……」
警察の対テロ部隊の隊員がそう言った。
「クソッタレ。狙撃班、目標を狙え」
『了解』
瓦礫の中から出てきた宰司に向けて狙撃班が正確にその頭を狙う。
だが、攻撃は弾かれた。
「ロケット弾も、重機関銃も、グレネード弾も、狙撃も通用しないってのか」
宰司はただその身を固めつつ、前進していた。
迫りくる宰司に民間警備企業と警察の対テロ部隊がパニックに陥りかける。
彼らはプロとしてその場にいたが、こんな状況での対処の仕方なと学んでいない。
「屠龍に攻撃を続けさせろ。とにかく弾と火薬を叩き込め!」
屠龍があらん限りの銃弾と爆発物を宰司に叩き込む。
それでも宰司は止まらない。止まらずに進み続ける。
もはや、これまでかと直樹が思った時、彼はあることに気づいた。
「ガスを使え」
「ガス? 催涙ガスですか?」
「そうだ。装備しているだろう?」
「了解」
結界の中に隠れていても、外気を取り入れなければ呼吸ができずに死亡する。
その外気に催涙ガスを混ぜてやれば?
ここにきてようやく対策らしい対策が上がってきた。
「催涙ガス発射」
全員がガスマスクを付け、宰司に向けて催涙ガスを発射する。
白い煙が宰司の周囲を包み、彼の姿を覆い隠した。
効果はあるのか? ないのか?
「煙が晴れます」
頼む。効果があってくれと直樹は祈った。
煙が晴れたとき、そこには全く無事な宰司がいた。
「効果を認めず! 効果を認めず!」
「クソッタレ!」
ガスすらも聞かなかった。
どうすればあの男を殺せる?
そこで直樹は気づいた。宰司の右足に傷があるのに。
これまでの攻撃は全く効果がないと思っていたが、効果はあったのだ。ただ、それが攻撃に対して、あまりにも些細な効果しか及ぼしていないだけで。
「攻撃を継続する。弾が切れるまで屠龍も対テロ部隊も狙撃班も撃ち続けろ」
「しかし……」
「いいからやるんだ」
直樹は有無を言わせずそう命じた。
「撃ち方始め、撃ち方始め」
また爆発音と銃声が鳴り響く。
「“魔弾の射手”」
直樹もドイツ製の自動拳銃を抜くと一発だけ発射した。
発射された一発の銃弾は宰司の意識外のある僅かな隙間をぐるりを回って通り抜け、宰司の胸を貫いた。それと同時に結界が消え、大量の銃弾を火薬が直接宰司に叩き込まれる。それによって宰司は死亡した。
死亡したのだ。ただ、誰かを守ることを願った少年は銃弾と火薬でミンチにされて、呆気ない最期を迎えたのだった。
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