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家族の危機

……………………


 ──家族の危機



『犯人は今回明確に次の被害者について予告しているんですね』


『ええ。ただ、民間警備企業も警察も、この手の犯行予告は攪乱目的だとする見解が多く、実際に予告された人物が狙われるかは分からないんですよね』


『なるほど。そう言う見方もあるわけですね』


『実際に犯行予告を出せば、それだけ民間警備企業も警察は非常に警戒します。そのことは犯人も理解しているはずです。それなのに予告をするということは、犯人の自信の表れか、あるいは捜査を攪乱する目的のはずです』


 ニュースが今回の予告について報じている。


 ニュースも流石に誰に犯行予告があったのかは報じていない。


 だが、ネットで爆発的に拡散した画像が宰司の手元にもある。


『坂上宰司。次はお前の家族だ』


 血を帯びたナイフで壁に刻まれたメッセージを宰司も読んでいた。


「宰司!」


 凛之助がセーフハウスに飛び込んできた。


「夏姉がまさかとはと言っていていたが、行くつもりか?」


「ええ。いくつもりです」


 宰司は決意していた。連続殺人鬼が次の犯行を予告した自分の家族の下へと。


「それがどれだけ無謀な行為か理解していない君ではあるまい」


「ええ。分かっていますよ。危険だってことは。けど、行かないって選択肢は最初からないんです」


「……ともに生き残ると約束したではないか」


「すみません。けど、やらなきゃいけないんです」


 そこで宰司のスマートフォンが鳴る。


『宰司君!? 行こうとしてないよね!? 罠だよ! 民間警備企業の対テロ部隊と警察の対テロ特殊作戦部隊が周囲で待機しているのを確認している! 民間警備企業はアーマードスーツまで動員しているよ!』


「ありがとうございます、夏妃さん。でも、行きます」


『なんで!? リンちゃんと一緒に戦ってくれるんじゃなかったの!?』


 夏妃が電話の向こう側で叫ぶ。


「宰司。君は私にとって大切な同盟者だ。何故行くのかだけは教えてくれないか?」


「家族だからです。確かに俺に理解を示してくれるような両親じゃありません。それでも血のつながった関係なんです。凛之助さんだって夏妃さんが大事でしょう? 俺も両親が大事なんです。それだけです」


「そうか」


 凛之助は頷いた。


『リンちゃん! そこにいるんでしょう! 宰司君を止めて! 民間警備企業と警察は宰司君を殺すつもりだよ! 彼の能力がいくら強力でも耐えられるかどうか分からないでしょ!? それに耐えられたとしても、どこに逃げるの!?』


「夏姉に説明してやってくれ」


 凛之助がそう頼む。


「夏妃さん。お世話になりました。ですが、俺も家族が大事なんです。凛之助さんが大事な夏妃さんなら理解してくれますよね?」


『……そんなのずるいよ。君は殺されに行くようなものなんだよ? どういう顔をして見送ればいいっていうの? 絶対にこんなの許容できないよ。私はせっかくリンちゃんに出来た友達をなくしたりはしたくない……』


「すみません、夏妃さん」


『分かったよ。家までは生体認証スキャナーに引っかからないようにしてあげる。無事に家族と再会ぐらいはできるように。けど、そこからはどうなるか分からないよ。民間警備企業、警察、日本情報軍。全てが君に牙を剥く。待ち構えているのは想像できないような殺意だからね』


「はい。最後までありがとうございます、夏妃さん」


『最後だなんて言わないで』


 夏妃はそう言って通話を切った。


「家族を守るのだな、宰司」


「ええ。今度は向こうからの挑戦です。動画であれだけ挑発したんです。挑発が自分に返ってくるということは予想しておくべきでした。ただ、俺個人を狙うならともかく家族を狙うなんて。卑怯な奴です」


 宰司は悔しそうにそう言う。


「……この戦争は卑怯者が勝利し、誠実なものから死んでいく戦いだ。卑怯であるということは勝利に近いということになる。だが、そんなことが許されてたまるものか」


 凛之助は感情を込めてそう言う。


「私も同行しよう、宰司。ふたりであれば切り抜けられるかもしれない」


「ダメです。夏妃さんも言ったように死にに行くようなものです。凛之助さんは夏妃さんという守らなければならない人がいるじゃないですか。途中で放りだしたりしたらいけませんよ。本当に悲しませてしまいます」


「……それでいいのか、君は」


「いいんです。家族を守ろうとした。この事実があればいいんです。確かに卑怯者が勝利し、誠実なものから死んでいく戦争かもしれません。ですが、誠実さは名を残します。卑怯者は唾を吐かれます。それでいいじゃあないですか」


 宰司はそう言って笑った。


「君の意見を尊重する。よく戦い、そしてできるならば勝利してくれ」


「はい、凛之助さん。これまでお世話になりました」


「私の方こそ世話になった」


 宰司がセーフハウスを去っていく。


「雪風」


『なんでしょうか?』


 凛之助のスマートフォンの画面に雪風のアバターが現れる。


「宰司はどれほどの可能性で生き残れる?」


『生存できる可能性は限りなくゼロです。ほぼ間違いなくなく宰司様は死亡します』


「勇者としての能力を考えてもか?」


『はい。民間警備企業は10体規模のアーマードスーツを準備して待ち構えています。これに勝利できる可能性はほぼありません』


「そうか……」


 凛之助が呟くように言う。


『この演算結果を聞いてもお止めにならないのですか?』


「もう宰司は覚悟を決めている。戦士の目をしていた。それを止めるのは逆に非礼だ。宰司のためを思うならば送り出してやるべきだ。結果がどうなろうとも。彼は自分で自分の道を選んだ」


「願わくば、我が友が生き残らんことを」


 凛之助はそれだけを願った。


 そのころ宰司は自宅へと向かっていた。


 生体認証スキャナーは夏妃が保障した通り、宰司を認識せずにいる。宰司の自宅を包囲している警察と民間警備企業の対テロ部隊も宰司の現在地を掴んではいなかった。


 だが、彼は着実に近づきつつある。


 竜の顎門へ。


 動員された民間警備企業の部隊はアーマードスーツ14体、狙撃犯4チーム8名、強襲突入部隊2個小隊60名。警察の対テロ特殊作戦部隊は神奈川県警のSAT(特殊急襲部隊)に加えて、警視庁からも応援が到着。


 宰司はそんな大部隊が待ち構えている場所へと進みつつあったのだ。


 雪風の分析通り、宰司が生き残る可能性はゼロに近い。


 それでも宰司は自宅へと向かう。


 両親とは不仲なままだ。帰ってきても怒られるだけだろう。彼らは自分たちが殺人鬼に狙われていることに気づいているのだろうか? 警察から連絡は行ったのだろうか? あるいは民間警備企業から連絡は来たのだろうか?


 どうであれ、実際に連続殺人鬼は宰司の両親を襲ったりはしないだろう。テレビで言っていたようにはったりだ。それに警察や民間警備企業が予告された殺人を阻止できなければ、それだけで問題になる。


 それでも宰司は挑戦に応じる。


 自分は連続殺人鬼のように姿を隠して逃げたりはしない。戦う。


 そう決意しても死ぬというのは少し怖いなと宰司は思った。


……………………

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