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現場検証

……………………


 ──現場検証



 日本情報軍は直樹に現場検証を行わせることを許可した。


 ただし、現場の撮影などは禁止。現場検証後は日本情報軍情報保安部のチェックを受けることになっていた。


 本当にこの国の司法は逆転してしまったのだなとアリスは思う。


 日本情報軍による秩序。日本情報軍が有する日本国。


 警察は今や片隅に追いやられ、小さな事件ぐらいしか扱わせてもらえない。


 日本情報軍が全ての権力を掌握していると言っていい。


 それでも直樹は警察官としての役割を果たそうとしている。


「現場はここです」


 アリスは海宮市シティビルに直樹を案内した。


「ふむ。通常の爆薬を使ったものではありませんね」


 それはそうだ。ロケットポッドで攻撃されたのだからとアリスは思う。


「特殊な軍用爆薬か? いや、ロケットランチャーのようなものだろうか?」


 形成炸薬の爆弾が使われたことは間違いなさそうだと直樹は言う。


 確かにロケットポッドのロケット弾は形成炸薬弾だった。あれならば装甲車や戦車ですらも撃破できただろう。


「ふむ。形成炸薬弾を何発も並べて爆破した。そのせいで支柱が崩壊した。今日日の若者なら形成炸薬弾の作り方ぐらい、簡単にネットで探し出せるでしょう。問題はどこで爆薬を入手したか、ですね」


「本当に坂上宰司がここでテロを行ったと、そう思っているのですか?」


 アリスが疑問に思ってそう尋ねる。


「ええ。何なら東海林大河もグルでしょう。彼らが野次馬狙いで犯行に及んだ可能性は未だに否定できないものですよ」


 直樹はあっさりとそう言う。


 直樹の目にはこの犯行現場しか映っていない。ここに至るまでの過程を見ていない。そして、彼は結論のための証拠を集めようとしているだけだ。


 坂上宰司はテロリストである。その証拠を集めようとしているのである。


 結論ありきの捜査手法は正しいとは言えない。それは視野狭窄に陥っているだけである。だが、濡れ衣だろうと冤罪だろうと、相手をどうにかして犯人扱いするためには持ってこいの手法である。


 直樹はまさに宰司にテロリストの烙印を押し、冤罪で逮捕しようとしている。


 冤罪で逮捕し、そして消すために。


 日本の自由民主主義も堕落したが、警察もそれと同じくらい堕落したものだとアリスの皮肉.exeが呟く。


 彼らは日本情報軍と民間警備企業に仕事を取られ鬱屈しているのだろうか。まさか、直樹の願いは警察が再び日本で権力を握ることなのだろうかとアリスは考える。


 それならば確かに日本の治安を守る仲間という言葉に嘘は出ないはずだ。どちらが主導権を握るかだけの話であって。


「爆薬の出どころの鑑識は行いました?」


「ええ。ですが、それをお教えすることはできません」


 奇妙な関係だ。日本情報軍は警察に捜査を許しながらも、肝心の情報は渡さない。徹底して国籍不明のアーマードスーツが日本国内で暴れたことを隠したいらしい。


「となると、爆薬の出どころは大陸系犯罪組織かあるいは、軍からの漏洩品か」


「軍からの漏洩品ではありませんよ」


「本当に爆薬の出どころを教えては貰えないのですか?」


「残念ですが」


 爆薬の出どころがヴィルトカッツェn製造元のアトランティス・ランドシステムズであることがバレれば、アーマードスーツに辿り着かれてしまう。それはなんとしても避けなければならない。


 少なくとも今は上は警察に教えるなと言っているのだから。


「では、大陸系犯罪組織の仕業ですかね。あそこも一時期軍用品が漏洩して、騒ぎになりましたから。今もストックがあるんでしょう。そして、その思想に問わず、武器弾薬を売り捌いていると」


 そこで直樹があることに気づいた。


「ここの壁、塗り直されていますね。何かあったんですか?」


「さあ? 私は把握していません」


 壁が塗り直されているのはそこに銃痕が刻まれていたからだ。アーマードスーツが機関銃を乱射したために、壁には酷い銃痕が刻まれており、それを隠すために日本情報軍と民間警備企業は壁の塗り直しを行ったのである。


「明らかに爆発の後に塗り直されていますね。本当に何もご存じないんですか?」


「気になられるならば市ヶ谷(国防省)に問い合わされては?」


「結構です。日本情報軍情報保安部には睨まれたくないものですからね」


 市ヶ谷(国防省)の日本情報軍情報保安部にこの件を根掘り葉掘り調べていることが知られれば、警察官であろうとも日本情報軍情報保安部にマークされる対象になるだろう。かつては警察が軍を見張っていたが、今は軍が警察を見張っているのだ。


「ですが、もう手遅れかもしれませんね。スマホは盗聴されている形跡がありますし、メールやSNSも監視されている気配がする。これが単なる被害妄想であればいいんですが」


 日本情報軍の監視体制を否定する方法は相手を精神疾患だというレッテルを貼ることだった。そんな事実はない。全ては対象の妄想に過ぎない。そのようにレッテルを貼ってしまうことが平気で行われるのだ。


「被害妄想でしょう。ストレスが溜まってるのでは?」


「そうかもしれません。今度、医者に診てもらいますよ」


 今では精神科に通院することに忌避感を抱く人間は少ない。というのも、人間は何らかの形で精神疾患を抱えているのが普通であり、早期にナノマシン治療などを受ければ、人生をストレスなく過ごせる。と、そう宣伝されているからだ。


 いわゆるカジュアルな精神科のイメージ戦略。メティスなどを始めとする医療用ナノテク事業者が広めた新しい精神科のあり方。


 このイメージ戦略によって確かに発達障害の早期発見率とストレス緩和治療は成功したし、今の社会はストレスが確かに多いのだ。ストレスに起因する精神疾患を早期に相談、治療できればそれは良いことだろう。


 たとえ、メティスを始めとする医療用ナノテク産業が儲けようと、精神疾患の治療がそのまま軍の戦闘適応処置として運用されようと。


 そう、鬱病をナノマシンとカウンセリング、投薬で治療する方法と、戦闘適応処置の過程は非常によく似ているのだ。どちらも問題の出来事にストレスを感じさせないことを狙って行われる。社会人の鬱病の原因が仕事ならば仕事からのストレス軽減を。兵士のストレスの原因が殺人ならば殺人からのストレス軽減を。


 両者はよく似ている。


「しかし、これで海宮市シティビルは設計上の問題などで倒れたわけではないと分かりました。これは明らかにテロによるものです。そしてテロの現場には坂上宰司と東海林大河がいた。これが事実です」


 別の勢力が存在したことについて直樹は知らない。その別の勢力こそが海宮市シティビル倒壊の原因であることを直樹は知らない。知らされていない。意図的に隠されている。意図的に。そう、意図的に。


 日本情報軍としては直樹の能力を把握しておきたかったのだろう。それが宰司の結界を貫けるものであるならば貫いて宰司を殺害してもらう。そうでないならば、大した脅威ではないとして直樹は後回しにする。


 いずれにせよ、勇者同士で殺し合ってもらうために日本情報軍は駒を動かしている。


「納得できましたか?」


「ええ。この国でテロは許されない。どのような形であれ」


 直樹は力強くそう言った。


……………………

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