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公安警察の仕事

……………………


 ──公安警察



 神奈川県警警備部に公安警察は位置している。


 相次ぐ人員削減の波は押し寄せていたが、今は直樹と始めとする警察庁及び警視庁からの増援で辛うじて稼働できる状況を維持していた。


 直樹は神奈川県警には出向という形で配属されている。


「ようこそ。公安警察へ。天沢アリスさん」


「天沢で結構です。それで我々の提供した情報は確認していただけましたか?」


「ええ。大変興味深いものでした」


 日本情報軍が公安警察に渡した資料はテロの容疑者のひとり『坂上宰司の個人情報』、また同じくテロの容疑者のひとり『臥龍岡凛之助の個人情報』、そして容疑者のひとりとしてマークしている『東海林大河』の個人情報。


 公安警察がどこまで信用できるか分からないが、公安警察を勇者と魔王が殺し合ってくれれば御の字と日本情報軍は資料の提供に同意した。


「しかし、連続殺人事件の犯人について分かっているなら、もっと早く教えていただきたかったですな。そうすればもっと有意義な捜査ができたかもしれなかったのに」


「我々も東海林大河について情報を手に入れたのは最近です。これまでは詳細不明でした。それに公安警察をどこまで信用したものかと」


「同じく日本国の治安を維持するために発足した組織ではありませんか。どこに信頼できない要素があるというのですか?」


 そういう態度が信頼できないのだとアリスは思っていた。


「同じく日本国の治安を守るからこそ、リソースの奪い合いになることを懸念しているのです。今の日本国の秩序を破壊する結果になるのではないか、と。今の日本国は安定しています。秩序を乱す必要はありません」


「そうですね。同意します」


 嘘を吐いた。アリスは瞬時にそう判断した。日本情報軍仕込みの尋問術を多目的光学センサーと正確な演算の行える頭脳で分析できるアリスにとって、相手の嘘は容易に分かる。直樹は、今、嘘を吐いた。


 狙いは日本情報軍による秩序の破壊か? 警察利権の奪還が目的か?


 たとえそうであったとしても、人間になりたいというだけのアリスの実に利己的な目的より公共的な目的だ。それにアリス自身もこの日本情報軍が作り上げた監獄が居心地がいいとは思っていなかった。


 少なくとも危険思想の持ち主ではない。それだけでひとつ安心できる。


 だが、日本情報軍に所属するアリスにとっては日本情報軍による秩序を破壊するということは容認してはならないことだった。このことは土佐大佐に報告し、対応を待たなければならないだろう。


 いや、待つ必要もない。いずれにせよ殺されるのだ。日本情報軍はアリスを勝利させるつもりだ。他の誰も勝者にならないように。日本情報軍の作った監獄が永遠に続くように。他の誰の願いも叶えさせない。情報テロリストであろうと、公安警察であろうと。


「まあ、座られてください。今、お茶をお出しします」


 アリスは勧められるままに椅子に腰かけ、刑事のひとりが緑茶を出した。


 アリスは毒物の可能性も疑ったが、そもそもアリスはアンドロイドだ。人間に有効な毒物は作用しない。アリスは遠慮なくお茶を啜る。他の自己学習型AIたちと違ってアリスには味を味わう機能が搭載されているのが特徴だ。他の自己学習型AIたちには学習できるのはアリスによってちょっとしたアドバンテージだった。


「それでは、天沢さん。坂上宰司、臥龍岡凛之助、東海林大河のいずれが犯行を行ったとお考えですか?」


「私はその手の分析をする担当ではありませんので何とも。情報はお渡ししたので、そちらで分析されてみては?」


 アリスはビルを爆破したのはドイツ製アーマードスーツであり、鏡花であること知っている。だが、日本情報軍は情報を隠蔽した。日本国内で外国製のアーマードスーツが暴れ回ったなどという情報が漏れれば、日本情報軍による平和という神話は崩壊する。


 民間警備企業としても同じ意見だった。民間警備企業がアーマードスーツに対応することができなかったと判明すれば、彼らの信頼は崩壊する。故に彼らも情報の隠匿に協力するようになった。


 かくして、事実は消え、生贄の羊が探される。


「手厳しいご意見だ。我々としても分析を進めますが、日本情報軍側の見立てを聞いておきたかったのですが」


「あいにくですが、私はただの一兵卒にすぎませんので。興味がおありなら、市ヶ谷(国防省)に連絡されることですね」


 アリスはそう突き放した。


 ここでアリスは東海林大河を狙うべきだと言いたかった。まず死ぬべきは大河だ。凛之助や宰司が死ぬ必要は今はない。確かに彼らは勇者か魔王かもしれないが、彼らは彼らの正義のために動いた。


 宰司の行動は立派だった。これまで姿を隠し続けていた連続殺人鬼を引きずり出したのだ。自らの身を危険にさらしてまで。


 彼らが今死ぬ必要はあるか? ないだろう。


 だが、大河は違う。大河は死ぬべきだ。無辜の一般市民を傷つけ続け、今もなお逃げ続けているあの男こそ死ぬべきだ。


「我々の見解としては3人が共謀しているのではないかという意見が持ち上がっています。テロを起こすために殺人事件を演じ、それを挑発する動画を敢えて作成し、3人が共謀して海宮市シティビルを爆破したのではないかと」


「……それに何のメリットが? 被害者はゼロですよ。テロを狙うならば、もっと人のいる場所を狙うべきでしょう。新宿駅など」


 アリスの言葉に一瞬だが直樹が怒りの表情を見せた。


 直樹の情報はアリスに渡されてる。母と兄を新宿駅のテロで失っている。だから、敢えて本音を引きずり出すためにこのような挑発的な言葉を発したのである。


「……彼らは人は殺さず、この情報管理社会に抵抗して見せるために海宮市シティビルを爆破したのではないかと我々は思っているのです。仮にもあれだけのビルが崩壊すれば、人は死ななくとも衝撃は与えられます」


「なるほど」


 また嘘をついている。


 本当は勇者か魔王と目される宰司たちを纏めて葬り去る口実が欲しいだけなのだろうと、警察が合法的に銃を乱射できる環境を作るための口実が欲しいのだろうとアリスは久しぶりに皮肉.exeを稼働させてそう思った。


「そうだとしてどのように対処を?」


「坂上宰司の両親を調べます。聞くところによれば、坂上宰司はここ数週間帰宅していないそうです。学校にも出席していないと。中学生に過ぎない彼が何週間も親元を離れて暮らせるだけの資金を持っているとも思えませんし、動画を完全な追跡不能な方地で投稿することもできないと我々は考えているのです。なので、何らかの形でアングラ界隈とかかわりを持ったのではないかと」


「ふむ。確かにそうですね。合理的な推測だと考えます」


 確かに宰司は何者かと協力している。それは凛之助だろう。だが、その凛之助もまだ高校生ほどの年齢でしかない。


 しかし、とアリスは思う。


 向こうにはアリスの生みの親のひとりと言える夏妃がいる。彼女ならば、追跡不可能な形で動画を投稿することもできるだろうし、中学生を数週間養っておくだけの資金力もあるだろう。


 このことは土佐大佐にも話していない。話せなかった。


 土佐大佐は未だにアングラハッカーがこの戦争に関わってると思っている。


「それでは坂上宰司の両親に聞き込みに行きましょう」


「同行しても?」


「構いませんよ。我々は同じ日本国の治安を守る正義の味方です」


 それだけは嘘ではなかった。


……………………

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